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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第65話 告白するとき…振られるなんて考えていませんよ!

黒龍堂からドタバタと走り回っている音が漏れてきそうだった。

押し付けるにしても、ブレスレットもリングも外れない。

しっかりとしがみついている。

「で、こいつらは大人になったら、ここに戻るの?」

「…旅立ったら、あとは知らない」

「何をカッコウの托卵みたいなことをシレッと言っているんだ!」

紘一は疲れたような顔で珠姫に言う。

「まぁ、そいつらは兎も角として…また顔を出せ」

玄李はしたり顔でいう。

少し寂しそうな表情が気になる処だ。

ただ正直に言って、来る方が大変だぞ…と思いながら紘一は背を向けた。

まっすぐに堂の外に向かって歩く。

志乃もそれに従う。

振り返らずに手だけを振る。

「いいのか?」

玄李が龍騎に声をかけた。

「…だめじゃん。俺出入りできないのに」

龍騎は慌てて、紘一の後を追った。

「ねぇ」

「ん?」

「出してあげないと」

「えっ…あ、あいつらどこに行くつもりだ」

「まぁ気付いていないみたいだから、タイミング合わせてあげてね」

珠姫はそう言って笑った。

外に三人が出ようとした瞬間、ぱちん!と玄李が指を鳴らした。


「さて…と帰りますか」

紘一は志乃に声をかけた。

「うん…そうだね」

そっと、紘一の手を握ってみた。

「ん? 龍騎」

「ん?」

「来ないのか?」

「…いいのか?」

「依り代から解放されるまで…魂を磨くのもありだろう?」

紘一はニヤッとして見せた。

「そうだな。外の世界を見てみようかな」

龍騎はそういうと、カメラバッグの上に飛び乗った。

どう見ても旅に出る冒険者ではない。

タヌキのぬいぐるみだった。


汽笛が響き、船が岸を離れていく。

低く唸るエンジン音とともに、竹生島が少しずつ遠ざかっていった。

デッキへ出ると、朝の風が心地よい。

島全体を包み込んでいた静けさも、湖面に溶けるように薄れていく。

振り返れば宝厳寺の屋根が見える。

都久夫須麻神社の鳥居も小さくなっていた。

琵琶湖に浮かぶ島。

信仰の島。

人は祈りを残して去っていく。

島は何も語らないまま、また次の参拝者を迎えるのだろう。

紘一はカメラを構えた。

何枚か写真を撮る。

仕事だ。

仕事のはずだった。

「綺麗だね」

隣で志乃が湖を眺めている。

風に髪が揺れる。

その横顔を見ていると、どうしても思い出してしまう。

返事はまだ貰っていない。

でも、もう十分だった。

竹生島へ来る前よりも、ずっと分かってしまった。

志乃は優しい。

優しいからこそ。

誰かを傷付けるような断り方はしない。

「志乃」

呼びかける。

志乃が振り返った。

「ん?」

紘一は少しだけ笑った。

「返事、聞いてもいい?」

志乃の表情が固まる。

そして困ったように眉を下げた。

その瞬間。

ああ、と思った。

聞く前に分かってしまう。

「ごめん」

小さな声だった。

「紘一のことは好きになれると思う」

その言葉に少しだけ期待しそうになる。

でも…続く言葉は分かっていた。

「でも、それとは違う」

風が吹いた。

湖面がきらりと光る。

遠ざかる竹生島が揺れて見えた。

「そっか」

不思議と声は震えなかった。

覚悟していたからかもしれない。

志乃は何か言おうとして、結局言葉を飲み込んだ。

紘一は苦笑する。

「謝らなくていいよ」

本当にそう思った。

好きになったことを後悔しているわけじゃない。

伝えたことも。

「ありがとう」

そう言って視線を湖へ戻した。

島はもう小さかった。

手を伸ばしても届かない。

戻ろうと思っても、船は前へ進んでいく。

人生もたぶん同じなのだろう。

龍騎がカメラバッグの上で黙っている。

珍しく何も言わない。

その気遣いが少しだけありがたかった。

紘一は空を見上げた。

青かった。

馬鹿みたいに。

驚くほど綺麗な空だった。

「それに……」

「ん?」

「私ね」

志乃は湖面を見つめたまま続けた。

「たぶん、今は誰とも付き合えない」

紘一は何も言わない。

「遠距離とか近距離とかじゃなくて」

少しだけ笑う。

「仕事もあるし、自分のことで手一杯だし」

そこで言葉を切った。

「だから紘一が悪いわけじゃない」

「………」

「それと、あの夜のことを気にしているんでしょ?」

「え…そんなことは」

「何もなかったよ」

「えっ…嘘」

志乃は小さく苦笑した。

嘘だった。

でも、紘一はきっと覚えていない。

その時計が誰とペアになっているのかを話したことなんて。

それに…遠距離恋愛はちょっと遠慮したい。

優しくて甘い時間は思い出の中にしまっておくことにした。

「それに」

志乃が小さく笑う。

「本当はまだ忘れてない人がいるんじゃない?」

「え?」

志乃は何も言わずに、紘一の時計を指さした。

紘一は思わず固まった。


『ホント、馬鹿だよね』

『えっ…天音?』

『私以外、繋がったら問題でしょ』

不意に届いた天音の声に志乃は戸惑いながらベンチに腰を掛けた。

『どうして?』

『巫女見習いと魂を結んだからね』

志乃は頭の中を必死に整理した。

どういうこと?

考えてもよくわからない。

ただひとつ分かっているのは…

『……あの別れのとき、妙にさっぱりしていたのは…』

『うん。結んだ人とはどれだけ離れていても繋がっているから』

『ずるい』

『志乃が嘘をつかなかったら…気持ちが大きく揺れなかったんだけどね』

その言葉にドキッとした。

同時に胸にグサッと何かが刺さった気がする。

涙がポロリとこぼれてしまう。

天音はクスッと笑った。

狸じゃなくなっているのが不思議だった。

最初に巫女の力を借りた町娘…巫女として力を引き継ぐようになるまで…

長くかかったのでは…と思ってしまう。

それからは…悠久のときをひとりで過ごしたのだろうか。

また永い時間を一人にするのかと思っていた。

だから再会できたことに、少し安心してしまう。

でも…

『あ、巫女になるまで繋がっているから』

『えっ?』

『次の巫女見習いが来るまで…』

『…それって限りなく可能性低くない?』

『巫女になれば、結びは切れるよ。私の役目は終わりだから…』

『叔母さんに習おうかな…演舞』

『私も教えてあげられるよ』

天音はクスクスと笑った。

『だから、そんな顔しないで』

『…してない』

『してる。振ったくせに』

天音の気配がふっと遠ざかる。

志乃はゆっくりと顔を上げた。


船が湖面を滑る。

少しずつ遠ざかる竹生島を眺めながら、紘一はカメラのモニターを覗いた。

観音堂。

宝厳寺。

都久夫須麻神社。

そして竹生島弁財天。

写真の中に納まるのは歴史のある建物と仏像だけだ。

珠姫も映らない。

玄李も映らない。

龍騎だけは狸の姿で写っているかもしれないが。

思わず苦笑する。

さて少しの時間キーを叩こう。

志乃の横に腰を下ろす。

――竹生島弁財天は日本三大弁財天の一つとして知られている。

一般的な弁財天といえば琵琶を持つ穏やかな姿を思い浮かべる人も多い。

しかし竹生島の本尊は八本の腕を持つ八臂弁財天。

それぞれの手には弓や矢、刀、斧などの武器が握られている。

音楽や芸能、財福を司る神でありながら…

同時に仏法を守護する戦闘神としての姿も持っているのだ。

美しさと厳しさ。

慈悲と力。

相反するものを同時に抱えるその姿は、不思議とこの島そのものによく似ている気がした。

静かな信仰の島。

けれど、その奥には人知の及ばない何かが息づいているのかもしれない。

もちろん、それを記事にしたところで信じてもらえないだろう。

それでも…一度、足を運び、肌でその感動を味わうのも悪くないだろう。

恋心を抱く誰かと訪れる竹生島は、きっと今日とは違う景色を見せてくれるだろう。

大切な誰かと長浜の町を歩き、この島を訪れる休日も悪くない――

そこまでキーを叩き、メールに添付して葉月に送信する。

紘一は遠ざかる竹生島へ小さく頭を下げた。

また来ることになる気がしていた。

今度は取材ではなく。

ただ、あいつらの顔を見に来るのも悪くない。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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