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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第58話 ときには追憶… 縁とは数奇なものらしい。

※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。

路地のような通路を抜ける。

『肉バル髭ぞう』

小さな看板は昔と変わらない。

店内へ入ると香ばしい肉の匂いが鼻をくすぐった。

カウンターだけの小さな店。

席数は十数席ほど。

入り口側から半分ほどが埋まっていた。

元々、肉の卸をしている店主が趣味のように始めた肉バル。

高級店というわけではない。

気軽に良い部位を楽しんでほしい…そんな想いがここにはあった。

当然だが、出てくる肉はどれも質が良い。

その辺は目利きに左右されているのだろう。

何も言わずに一瞥だけ、手でカウンターの端の席を勧めてくれる。

定番のようにその席が示される。

いつのころから、席に付けばドリンクが出される。

注文もお任せになっている。

店主の気まぐれお勧めコース。

勝手にそう命名しているものがコース的に提供される。

その日の仕入れに合わせて一番旨い肉を出してくれる。

何よりも…肉の旨さよりも店主の空気感に惹かれてこの店に来ている。

それに、肉より楽しみにしているのが壁一面に並ぶウイスキー。

定番から珍しい一本まで揃っている。

詳しい人間なら、それだけで数時間は過ごせるだろう。

もっとも紘一はそれほど強くないのでたしなむ程度に楽しむ。

ホテルまでは徒歩3分。

多少千鳥足になっても帰りつくことができる。

そういう気の緩みも手伝ってここを楽しんでいる。

「久しぶりだな…」

熊みたいな身体に似合わない、妙に艶のある低音だった。

「だね」

ロックグラスを持ち上げて紘一は応えた。

「一人だし、よければ」

「ありがとうございます」

と店主がぺこりと頭を下げた。

「よかったら今日は付き合ってくれるか?」

「もちろん」

カウンターの向こうに立つ男が視線を上げニヤッと笑う。

熊のような体格。

無精髭にも見える立派な髭。

強面なのに妙に人懐っこい目。

店名そのままの男。

「でも、この後、繁盛するとか?」

「閉めておくか」

「……仕事じゃないの?」

「今日はもう趣味」


店主と客たちが談笑するのを眺めながら紘一はグラスを口へと運んだ。

人懐こそうな常連客が、笑顔でグラスを掲げてくれるのでグラスを持ち上げる。

この店に来たのは…と懐かしむように記憶を手繰る。

あれは、まだ街から人が消えていた頃だった。

真っ暗な町だった。

通路から漏れている光が道路を照らし、空いている店の存在を教えてくれる。

ピンクに近い紫色の看板が目を引き、そっちへと足を向けた。

通路の奥にある店。

存在を知らなければ、こういう機会でもないと足を踏み入れない気がする。

ドアに手をかけると店内が一杯だということが分かる。

他の店にするか…と手を話した刹那、視線らしものを感じる。

チラリと確認するような視線というよりは…

獲物を見つけた?獣的な雰囲気を感じる。

とりあえず…

そんな感じでドアを引く。

カラン…軽やかな音に心が軽くなった気がする。

カウンターは12席。

そのうち10席が埋まっていた。

空いているのは、端の2席だけ。

時勢もあって、基本的に予約客で埋まるのだろう。

いや、向けられる客の視線に予約もせずにきた客に冷たいものを感じる。

まぁ、一見客を入れるかどうかは店主の気分次第なのだろう。

断られることも珍しくないし、どちらかといえば断れる予定だった。

場所的に、隠れ家的な空気は仕方がないのだろう。

見ず知らずの存在に対する視線というのは以外にも冷たいのかもしれない。

店に足を踏み入れる前に躊躇してしまう。

ママさんが視線を向けて動きを止める。

招かざる客というよりも…物珍しさを感じてしまう。

店主は紘一の顔を見ると何も言わずに空いている席を顎でさした。

あれ…

紘一はその席にすわった。

「いらっしゃいませ」

ママさんが声をかけてくれる。

それだけでその笑顔に店内が華やぐ。

「飲み物、何にしましょう?」

軽快な関西弁に、不思議と和らぐ空気感が漂う。

こちらの様子を気遣う店主に戸惑う。

「ハイボールで」

「はい」

ママさんと入れ替わるように店主が前に立つ。

一応メニューを眺めてから…

「来たのだったら…これをというものはありますか?」

「コースは色々とありますよ」

「ん〜、では、マスターのお勧めのコースで」

…それが始まりだった。

軽快なトークと、温もりのある雰囲気。

客も相待ってこの店の空気を作っている。

殺伐とした時代の中で、一つの温もりのように感じた。


でも、それも終わるらしい。

紘一は店主のに仕事を眺めながらiPadを取り出した。

「仕事残っているの?」

「まぁ、隙間時間に埋めておくのが…大事ということで」

紘一は苦笑した。

大阪に立寄れるときには足を向ける隠れ家。

アラカルトと肉に合うウイスキー、それを楽しみながら…

黒壁の街並みを思い返しながらキーを叩いていく。

竹生島観光と合わせて…明日は今津港の方からアクセスしようとふと思った。


店の片付けを待っている間、紘一は外へと出た。

見慣れた光景のはずなのに…何かが違って見える。

居酒屋の暖簾が揺れる。

仕事帰りだろうか。

ネクタイを緩めた男たちが店へ吸い込まれていく。

誰かが笑い、誰かが愚痴をこぼし、誰かが明日の仕事を憂鬱そうに語っている。

でも、それでいいのだと思う。

欲もある。

愚痴もある。

不満もある。

それでも誰かと飯を食い、酒を飲み、また明日を迎える。

そういえば…車の中で奏音が言っていた。

人の中にも魔は最初からいるのだと。

人によっては、その逆のものも最初からあるのかもしれない。

それは気付かぬうちに入れ替わりながら、人の心を揺さぶっているのかもしれない。

家族のために働こうと思う気持ち。

誰かを助けたいと思う気持ち。

美味しいものを食べて笑う気持ち。

そんなものもまた、人の中にある。

病院で見た黒い瘴気とは正反対のもの…それを見れないのは残念だとは思う。

紘一は立ち止まり、ふと夜空を見上げた。

ビルの隙間に見える空は狭い。

それでも月だけは変わらずそこにあった。

街は変わる。

人も変わる。

店もなくなる。

でも、今夜この場所に流れている時間だけは確かに存在している。

それだけで十分な気がした。

夜の本町は静かだ。

最初に来た頃、人影がまばらだった町…それを懐かしむのもどうかと思うが…

でもいまは違う。

人が歩いている。

笑い声も聞こえる。

当たり前の光景が戻っている。

だからこそ、あの頃が思い出のひとつとして存在できている。

「お待たせ…行こうぜ」

「ええ」

「あ、何処に泊る?」

「いつもの」

「そっか」

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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