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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第53話 人の心は… 自己中の人ほど正直なのかもしれません…

※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。

誰かが助けに来るわけでもない。

ここは間違いなく病院の事務室だ。

正面から入った受付カウンターの裏側にあたる。

本来なら最も安全な場所のはずだった。

実際、駐車場で騒ぎを起こした輩も警備員に止められて入ってこれない。

どれほど偉そうに文句を言おうとも最後はこちらの言いなりになる。

それが分かっているから、好きなように言わせておけばいい。

時間が過ぎ、否応なく折れるのは時間の問題だ。

シルバー警備員の一人でも殴れば好都合なのだが…

もう少し煽るべきか。

そんな事を考えながら騒ぎを眺めている優越感に浸れる。

烏合の衆が集まり、頭の足らないことを言って騒いでいる。

どうせ時間の問題だ。

この原因不明の発熱の指定病院になっている以上…こちらの言いなりになる。

原因が確定できていないだけで、治療法は確立されつつある。

先のパンデミックの対応よりも気楽にできる。

あとは政府が、支援費を決めれば、前回改修ができなかった部分もできるだろう。

そうすれば、また理事に返り咲くことになる。

懇願されて、仕方なく理事をしてやればいい。

月々3万の交通費だけのしけた寸志で働いてやればいい。

しけた手当は申告しなければ税金の対象にもならない。

そんな簡単なことも解らずに馬鹿正直に税金を払う愚民でも相手だ、適当で充分だ。

だからこそ、稼げるところで稼がせようと思っているのに…

人の成果を妬み、上げ足を取ろうとする。

自分ができないからと、柴山(おれ)ばかりを責め立ててくる。

長いものには巻かれる。

つまらない生き方だ。

最善を尽くすということの意味も解っていない。

現場を知らない人間ほど好き勝手なことを言うものだ。

現場の苦労に報いるためには…莫迦からどう金を巻き上げるのか。

それがどれほど重要なのか理解できない莫迦が多すぎる。

患者家族もそうだ。

行政もそうだ。

何か起きれば病院の責任。

助かれば当然。

失敗だけが責任になる。

理不尽にここぞとばかり詰めてくる。

まぁ、もっとも、理事に言ってくるような奴はいない。

そう思った。

イラつく。

煩過ぎる。

柴山は新聞を手に立ち上がった。

クルクルと丸めて棒状にしながら、駐車場へとつながる廊下へと出る。

存在に気付いて、人だかりができる。

これが発信力だ、と言わんばかりのしたり顔で事務局長を見てやる。

「いい加減にしろ! お前らはいうことを聞いていればいいんだ」

その一言に正面の男が顔を真っ赤にする。

掴みかかろうと手を伸ばしてくる。

でも、その手が届くことはない。

警備員が護ってくれる。

ただ何も考えずに柴山(わし)だけを守ればいいのに…

事務室に押し込もうとしてきやがる。

「俺が儲けさせてるんだろうが!」

警備員の頭を新聞紙棒でパコン!と叩いてやる。

その瞬間だった。

警備帽が床に落ちたかと思うと警備員が睨みつけてくる。

その顔を真っ赤にして、頭から湯気を立てている。

学がない奴は、こういう底辺で働くしかない。

年金がもらえる年代になっても働く必要がある。

こういう莫迦は一喝するのがいい。

「おい! きいてるのかぁ!」

そう怒鳴った瞬間だった。

言葉にしたはずの声が、妙に耳障りに響く。

俺。

儲け。

当然。

愚民。

莫迦。

言葉の欠片が黒い靄となって口元から零れ落ちていく。

それは床を這い、壁を這い、天井へと広がった。

そう叫んだ瞬間だった。

部屋が黒い靄で覆われた。

その後何が起きたのだろう。

部屋には黒い靄のようなものが部屋に充満している。

視界が遮られるほどの黒い靄…

それは廊下へと零れていく。


膨らんだ瘴気に騒いでいた人たちが驚き逃げようとしてパニックが起きた。

高濃度の瘴気が視界を闇へと引き込んでいた。

ただその中心に色濃い存在がある。

黒一色の世界でくっきりと浮かび上がるぬらりとした存在。

紘一は、右手を勢いよく上から下へと振った。

カシャン!

チェーンがぶつかり合う音がする。

次の瞬間には、剣が拳に握られていた。

片刃のそれは日本刀のようにも見えた。

ただ違うのは柄が喉の部分。

尾が切っ先に向かっている反りのない片刃の剣。

龍の腹の部分が刃になっていた。

黒い靄が視界を阻害する中でもその刃の輝きが人の目を引いた。

悲鳴が上がり、その場から人が逃げていく。

人が減るのに合わせて、靄は減っていく。

紘一は剣を肩に乗せるように持ち上げた。

トントンと肩をたく。

不思議な気分だ。

誰かを殺すのに感情が凪だった。

焦りも躊躇いもない。

後悔する隙間もないのだろう。

なぜかそう思う。

これで終わるのかどうかも分からない。

ただ、こいつには生きている価値を見出すことができない。

ゴキブリを殺すのすら躊躇うのに…変な気分だった。

事務員も、居合わせた看護師も、医者も庇うこともなく壁際に退避している。

「来るなぁ!」

柴山が叫ぶ。

いや、ぬらりひょんでいい。

一緒にされる妖怪には申し訳ないがそれの方が都合がいい。

黒い靄がその身体から溢れている。

顔も輪郭も曖昧になり始めていた。

それなのに目だけが異様な光を宿している。

怒り。

嫉妬。

傲慢。

醜い感情だけが凝縮されたような眼だった。

「うるさい」

紘一は小さく呟いた。

肩に担いでいた剣を静かに下ろす。

握った感触は不思議なほど軽い。

自分が振るうというよりも。

剣がそう在るべき場所へ向かおうとしているようでもあった。

ぬらりひょんが何かを叫ぶ。

もう言葉になっていない。

黒い靄が口から噴き出し、触手のように伸びる。

その瞬間だった。

紘一は一歩踏み込んだ。

床を蹴る音だけが響く。

そして…斬った。

袈裟懸けに。

ただそれだけだった。

手応えはない。

肉を断つ感触も。

骨を断つ感触も。

それでも気分のいいものではない。

確かな殺意を抱けていたのならまだよかったのかもしれない。

それなのに何もない。

ただ、それが必要だと感じたままに…

まるで機械作業のように腕が上から降り降ろされた。

実感の無さは手応えのせい、それとも…

柴山が膝を折り、床へと崩れ落ちていく。

本当なら剣が身体に持って行かれるはずなのに…

柴山の左肩から右わきへと確かに剣は動いた。

斬っているはずなのに、血が零れていない。

いったい何が起きているのだろう。

紘一にわかるのは、黒い靄が消えていく事だけだった。

静かに 霧散するように、透明になっていく。

それが何かを漠然と紘一は知っている。

浄化という現象。でも何かが違う気がする。

紘一の知る光と融合するような感じとは違った。

どちらかといえば、霧が晴れるように…消えて行く感じに似ている。

ゆっくりと…黒いぬめりとしたものが消えていく。

柴山の身体が擦り落ちるように剣が通って行った。

ドサッ。

床に膝がつく音がする。

剣の切っ先には何かが刺さっている。

黒い水晶のような塊…珠姫の宝珠の欠片だろう。


志乃は天音に言われるままにエレベーターにぬいぐるみを載せると『1』と『閉』のボタンを押した。

一緒に行くつもりだったが、天音が奏音の傍にいた方が良いというのでエレベーターを降りた。

途中、忙しなく看護師が乗り込んでくるが、壁にもたれかかるようにしてやり過ごした。

チン!

間に合えば良いけど…そんなことを考えながらエレベーターを降りた。

看護師がバタバタと走り回っている。

彼女たちにすれば良い迷惑だろう。

嬉しい状態とはいえ、仕事が倍増しているはずだ。

特に退院をさせた患者が同じ症状で戻ってきているのを経験している以上…

退院は慎重に処理することになるのは、5階で見聞きしてきたから分かる。

でも、1階のこの騒ぎは一体…

考えるまでもない。

騒ぎがあるのなら、そこに紘一と龍騎がいる。

その確信があるから、天音は駆け出した。

ペタペタと全力疾走で。

やっぱり後で龍騎を殴ろうと思う。

タヌキは思いのほか、足が短く疲れている。

「まま、タヌキ走っているよ」

そんな声と視線が向けられた。

自由に動くぬいぐるみ…どう考えても興味の的になってしまう。

興味本位に誰かに捕まえられるのも困る。

案の定、待たされるに飽きた子供たちが捕まえようと躍起になる。

手を交わし、足を交わし、袋を交わす。

参戦する大人の手が邪魔。

本当にぬいぐるみを依り代に龍騎が憎らしくなる。

え…何?

そう思う程に黒い靄が零れる通路があった。

取り敢えずそこに飛び込む。

飛び込むことで子供たちを止められるだろう。

気を察する能力は無垢な子供の方が長けている。

育つ中で、特別な世界は見なくなっていくものだ。

角で急転回する。

案の定数人の子供が足を止めた。

残るは大人…これも子供に呆気に取られて足を止める。

誤算とはいえ、嬉しい。

二人ほど追いかけてくるがこの際それは…

そう思った瞬間、奥から大人たちが逃げてきた。

たぶん、その表現であっているだろう。

正面のドアではなく、その脇にあるドアが開かれどす黒い瘴気が溢れだしていた。

…何をしたらこんなことが起きるのだろう…

普通は認知することのできない黒い感情が、明らかに見えている。

そう思わせるように、腰を抜かし、床をズリズリと這うように下がってきている。

逃げたいのに…腰でも抜けたのだろう。

嫌な太古の記憶と重なってしまう。

それよりも酷いかもしれない。

閉鎖された箱の中なのだから…

どくどくとマグマが溢れだすように瘴気が部屋から零れ出てくる。

そう見えた。

でも何かが違う気がする。

天音にはそう思えなかった。

溢れているのではない。

逃げている。

そんな気がした。

まるで居場所を失った何かが、部屋の外へと押し出されているように。

部屋の中で、この絡み合う感情はどうなっているのだろう。

確かなのは、この瘴気の向こう側で何かが起きたということだ。

いや、起きた。

それだけは分かる。

すでに黒い靄というレベルではない気がしてしまう。

天音は、ゴクリと喉を鳴らした。

ほんと…ご当地キーホルダー系ぬいぐるみであることが…悔やまれる。

天音は黒い瘴気を見上げた。

断崖絶壁を前にしているようだった。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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