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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第48話 舞に祈りをこめて… 届くところまでだけど…手を伸ばしますか?

※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。

「何かあったの?」

奏音は、廊下で立ち往生する看護師に声をかけた。

たぶん、霊感がない人にも見えるだろう濃さの瘴気が廊下の中央で竜巻のように渦巻いている。

その渦を作り出している黒い龍の姿までは見えないかもしれない。

顔から尾まで、何重にも渦を巻きながら、病棟中の瘴気を集めているように見えた。

「天音さん?」

ぽつりと呟く。

返事はない。

ドキリとする。

もしかしたら、奏音(じぶん)を助けるために力を使い果たした? と心配になる。

いま自分にできることは…

自分を助けてくれた青年…壮年はどこに…

奏音は廊下の様子を確認するように視線を流す。

志乃…無茶な事に首を突っ込んで…

奏音は、壁に持たれるようにして立つ二人に視線を向けた。

天音の返事がない理由も何となくわかった。

壁際に寄りそうようにして立つ志乃の姿に。

その足元には淡い光の輪が広がっていた。

一種の結界。

瘴気もそれを避けている。

「何、あの煙…」

誰かが立ち込めている黒い靄に呟いた。

ただ、見えているのが異常な状態だとは気づかないようだ。

看護師も医師も、ただ状況を見つめているだけ。

そこで…見えない世界である動きの違和感だけを肌で感じている。

志乃の額から頬にかけて一筋の水滴が落ちていく。

顔色も悪くなっていく。

明らかに限界が近い。

向こう側で舞おうとしている。

いや、舞っている。

きっと呼吸を整えながら必死に光を保っている。

額からは大粒の汗が流れ落ちていた。

それを天音が庇っている。

天音には実体がない。

それでもその力は向こう側でなら発揮することができるだろう。

呼吸を整えるために、ゆっくりと息を吐く。

目を静かに閉じる。

暗闇が一瞬…広がる。

そこにある気配を感じれば、目を閉じていたところで空間が把握できる。

気配は血脈ともいわれるラインを通ることで、そのモノの形を浮かび上がらせる。

それは巫女としての術のひとつだ。

その中から、自分がダイブすべき対象を見つける。

誰の精神世界にでも自在には入れるわけではない。

必要なのは繋がり。

だから本当は自分の中に瘴気を受け入れて浄化へと導く。

でも、志乃にはそれができないらしい…できないのが普通だし。

その隣…その光の輝きに覚えがある。

忘れるはずがない。

さっきのことだし…

永劫の闇へと誘おうとした瘴気から救いだしてくれた存在。

天音とともに…鳴海紘一。

紘一の中で、幾つかの影が動いている。

微かにしか感じないとはいえ、その存在も解る。天音だ。

つまり、紘一の中で何かが起きている。

関係ない…そう背を向けることもできるのに…

親不孝だ。と思ってしまう。

母は、自分が怪異に関わることがなかったから関わってほしくないと言っていた。

祖母の苦労も見てきたせいもあり、娘にそれを求めたくない、と。

兄も、父もそう思ったから『音』の字を子供に与えなかった。

感謝を伝えるだけで、本当に関わってこなかった。

万が一も考えて、母の死をきっかけに滋賀からも離れた。

それでも、追いかけてくるように向こうから来て…

違う。感謝を伝えた日々に嘘はなかった。

守り続けてくれた。

この誰かの悪意に呑まれたいまでさえ助けてくれる人を寄こしてくれた。

それなのに…母の遺言と背を向けようとしている。

「何やってんだか…」

思わず苦笑が漏れた。

自分が助かったばかりだというのに。

何を危ないことを考えているんだろう。

人助けは、それほど簡単な事じゃない。

それなのに…本当にお人好しだ。

気配を感じとれば分かる。劣勢だということが。

巫女として動くことはできる。

理屈の上では免許皆伝だ。

でも実戦経験はない。

それで役立つかは未知数だ。

それでも、志乃よりは役立つという自負がある。

「奏音ちゃん?」

志保の母親が心配そうに病室から顔をのぞかせた。

兄弟姉妹がいないからと実の妹のようにずっと可愛がって来てくれた。

彼女に心配かけるのもどうかと思う。

だからといって…

そこで奏音は小さく息を吐いた。

本来ならベッドで大人しく寝ているべきなのだと思う。

医師も看護師も、目の前の状況に唖然として奏音が病室を出ていることを気に留められない。

母も、兄も呆れるだろう。

でも…困った顔で見送ってくれるだろう。

ただ、救いは奉納舞ではないことだ。

「もう少し、横になっておこうかな」

「あ…うん。そうした方がいいよ」

義姉に手を借りて、奏音は病室へ、ベッドへと戻った。

寝ころび「疲れているみたい」と零す。

「少し寝た方がいいよ」

「うん、そうしようかな」

奏音はそう言って目を閉じた。

気配を探るように意識を拡げる。


奏音は静かに呼吸を整える。

病室の音が遠ざかる。

心音だけがゆっくりと響いた。

…ごめん。やっぱり…放っておけないのよね…

黒を基調とした世界に光の線が走っていく。

壁など無機質な物の輪郭までくっきりと浮かび上がり、生命体の形もはっきりする。

検知範囲を広げるほどに精度が落ちていくのは解かっているが…志乃の居る場所までなら…

志乃の隣、鳴海紘一の位置も、その中に混ざる幾つかの気配も変わりはなかった。

鳴海に直接ダイブすることは叶わない。

誰彼構わずにダイブできればいいのだが…精神世界への侵入はそれほど簡単なものではない。

幾つかの要件を揃える必要がある。

今回のような場合は、触媒になるものを架せばいい。

問題は、志乃にダイブすることができるかどうかだが…

血縁など幾つかの要件はクリアできている。

ただ志乃の巫女としての完成度によっては…外部からの干渉を拒絶される場合がある。

自身の内なる世界に入れるようになると、次に学ぶのが自分を護るための結界。

特に舞を舞うときは無防備にならざるを得ない。

そのための対策として、足場に結界を張り、外部からの干渉を防ぐ必要がある。

ただ、系譜系統によって、その結界を無にすることも可能だ。

ものの考え方だが、祖母は自身の精神世界を家だと表現した。

招くも招かないも家主の権限だと。

無理やり扉を開けられるような場所ではない。

鍵を開けたままにしておいていい場所でもないが、普通は開いたままになっている。

どれだけ縁があっても、どれだけ術に長けていても。

相手が拒めば入れない。

届かない。

それだけは昔から変わらない。

そう思い返して苦笑する。

錆び付いていなければいいけど…

そろそろ覚悟を決めないとね…

奏音は空を仰ぎる見るように視線を上げた。

呼吸を整える。

吸う。

吐く。

身体の奥で眠っていた感覚を呼び起こすために。

まだ動ける。

まだ舞える。

自分に言い聞かせる。

志乃に向かって駆けだした。


志乃の呼吸は乱れていた。

腕も足も…重い。

頭も霞む。

それでも舞を止めるわけにはいかない。

天音に合わせて舞う。

振った神楽鈴が黒い靄にあたり、靄が消える。

消して消しても追いつかない。

そんな不毛で、殺伐とした空気感が漂い始めた。

(なに…?)

身体の中を何かが通り抜けた感覚があった。

風にも似た気配。

でも、この閉ざされた紘一の世界に風が吹くはずもない。

シャン!

鈴の音が響いた。

天音のものとは違う気がする。

でも聞き覚えのある音色。

志乃は思わず顔を上げた。

天音の舞の傍ら。

もう一つの光が揺れている。

舞っている。

その所作を知っていた。

舞うその姿に見覚えがある。

幼いころに見たことがある舞。

その舞の美しさに憧れたのは志乃だけではない。

いまはもう教室をしていない。

滋賀の地を離れたあの人の姿に重なる。

天音の舞に合わせるように、もう一つ鈴の音が鳴った。

シャン!

聞き覚えのある音色だった。

志乃は思わず動きを止めてその姿に目を奪われる。

「え…?」

光を纏うように舞う女性。

右手に神楽鈴。

左手に扇。

見間違えるはずがなかった。

シャン!とその音が響き、その姿がはっきりとしていく。

「叔母さん……?」


「ホント、何しているのかな」

肩越しに志乃の顔を確認しながら奏音は溜息をついた。

その目の前では天音が静かに舞っている。

祖母の洗練された舞は、言葉よりも雄弁に哀愁すらも美しさに昇華させる。

どこか見る者の胸を締め付ける切なさだけが苦手だった。

それでも、その美しさに惹かれたのに…

いま見せられている舞は飛燕遊竜というに相応しい。

それでいて、月光をまとったかのように、たおやかで神秘的な魅力を見せていた。

同じ系譜のはずなのに…何が違うんだろう。

比べるまでもないが、志乃はまだお遊戯のような舞にしかなっていない。

あれで祓えているのも、浄化できているのも不思議に思える。

「叔母さんこ……そ…舞踊をしていたよね?」

「いまごろ? でいま?」


「だって」

奏音の苦笑に頬を膨らませて言葉を漏らしてしまう。

「集中しないと呑まれるよ。舞の最中にお喋りをするのは貴女たちくらいでは?」

天音が苦笑をしながら声をかけてくれる。

「そうだ。集中しないと」

志乃は、心持ちゆっくりな奏音の舞を目で追った。

一つ一つの所作が流れる水のようだった。

右足。

左手。

左足。

右手。

袖を流す。

息を吐く。

指先がピンと張る。

ここに祈りが込められる。

それは分かっていても、祈りが解らない。

祓いも…浄化も…

ただ見よう見真似でできているだけ。

いわゆるチート能力みたいなものだろうか。

そんな事を考えている、天音の舞う範囲が広がる。

志乃(じぶん)を中心にして円を描くように…

ちょうど180度開けて奏音もそれに倣った。

志乃はその背中を追いかけるようにその場で回転を加える。

見失わないように。

置いていかれないように。

ただ必死に。

志乃(じぶん)だけでは届かない。

それだけは痛いほどわかっている。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

☆作品テンポの関係で30分後に次の話をUPします


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