第46話 巫女って本当は大変なんです! バイトでコスプレだけでいいのに!
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
何か説明できない事態が起きると部外者に視線が向けられる。
特に医療という科学の世界では、それは顕著に起きる。
UFOを見つけるのとはわけが違う。
その信憑性よりも、あるないの世界は証拠を求めてくる。
見た見ていないでは解決ができない。
当然ながら、医師と看護師が向けてくる視線が痛い。
奏音の数値は正常。
顔色も戻っている。
呼吸も寝息なみに落ち着いている。
結果だけ見れば良かったのだろう。
原因不明なんだから、原因不明で解決すればいいのに…
どうやらそれは認められないらしい。
そもそも過程が最悪だった。
慌てていたとはいえ、何故、事の後先を考えなかったのだろう。
小心者なんだから、コソコソとしていればいいのに…と自己弁論を組み立てたが…
どう考えても突っ込みどころしかない。
逃げ道は…考えろ! 紘一、君ならできる。
……よし事態を整理しよう。
ナースステーションでゲートロックの解除をしてもらった。
侵入的には問題はない。
騒がしくなったので、勝手にナースステーションの横を突破した。
目視で確認した志乃の叔母の病室へと飛び込んだ。
まぁ乱入だ。
志乃が立ち尽くしていた。
処置を止める…たぶん、止めた。
健康体への薬物の摂取は過剰となり副作用を引き起こす可能性が高いから。
その説明はするだけ無駄だ。
こちらは素人なのだから。
で、割り込んだ。
ぬいぐるみを患者の胸へ投げる。
隠れるようにその場にしゃがみこんだ。
どう考えても不審者だ。
言い訳の隙間がない気がする。
こっちに戻ってから、邪魔にならないように部屋の隅に移動したのに。
向けられる視線は冷たい。
邪魔なら…外に出ているのもあり…と体の向きを変えるとドン!と志乃にぶつかった。
「どうしたの?」
「…この異端を見る視線に耐えられなくて」
「………」
志乃は病室内をぐるりと見渡した。
「まぁ仕方ないよね…」とため息交じりに呟いた。
どう足掻いても、逃げることは不可能だ。
目の数が多すぎる。
そんなに科学が大事なのか!
……大事だった。
むしろ病院で科学以外を信じられても困る。
それに言ったら何かをしたのがばれてしまう。
説明できない何かを…
八方塞がりだ。
「なにか?」
紘一は愛想笑いを浮かべた。
誰も答えない。
ただ全員が見ている。
「1分も経っていないですよね…」
看護師が呟いた。
さっきと同じ看護師と同じ会話をする羽目になった。
話題を変えてみたのに…
そして、その言葉が呼び水になり空気がさらに重くなる。
紘一は静かに頷いた。
「じゃあ…俺、邪魔なんで」
一歩後ろへ下がる。
二歩下がる。
どん!
壁際にいた。
「待ちなさい」
医師が言った。力強い目力で痛い。
「ですよねぇ……」
できるだけ軽い口調で言ってみる。
「あ、でも、そう、俺病室間違えたみたいなので」
「それが通じると?」
医師はベッドを迂回しながら紘一に近付いてくる。
「先生…」
「なんだ?」
「結果オーライってことで」
紘一はドアに向かって近付いていく。
「待て」
「ですよね」
万事休す。
紘一がそう思った瞬間だった。
きゃぁああああああああ!
悲鳴が上がった。
「ちょっと看護婦さん、酷くありません?」
奏音が身体を起こそうと近くの看護師の手を取っただけだった。
ただ、奏音が紘一にウインクする。
視線が奏音に集まっている間に、紘一は病室を出た。
紘一は廊下に出るとおもむろに深呼吸した。
「俺も連れていけ」
と閉めたドアに挟まるぬいぐるみがいう。
「あ」
「言っておくが入るときも危なかったからな」
龍騎が愚痴る。
それでも強く言わないのは、事態を見ているからだろう。
不意に右腕のバングルが熱を帯び始める。
足元にうっすらと黒い靄が立ち始めている。
元凶は別の病室のようだ。
「ちっ…まだあるのか」
「まだという問題じゃあないだろうな」
ゾーニングエリアの廊下、その両側にある病室のドアの隙間から黒い靄は漏れている。
「どうして」
「病院は負の感情が集まりやすいんだ。特に原因不明だと」
龍騎は紘一の足を攀じ登りながら言う。
「負とされる感情?」
「そうだ。挙げればきりがないほどのな」
「でも、どうして」
「欲が強いほど磁力が強くなるとでもいえばいいか?」
「引き合うのか」
「そういうことだ。そして重い方に寄る」
龍騎の話にため息が漏れる。
とはいえ、できることがあるなら、すべきことをしよう。
黒い靄は病室の隙間や換気口の周囲から細い糸のように滲み出していた。
「どれだけ行ける?」
「神のみぞ知るだ」
龍騎は肩で息をしながら紘一の肩に立った。
「それは運任せって」
「?」
「神が知るなら、仏は?」
「しらん」
「本気で役立たずと思ったぞ」
「貴様!」
バシッ!と音が後頭部でする。
「何やっているの二人で」
「志乃」
「もぅ信じられない」
「叔母さんは?」
何事もなかったように話を変える紘一も信じられない。
「大丈夫。先生たちが大騒ぎしてる」
「なんで?」
返事した瞬間、腕に熱を感じた。
咄嗟に身体の陰に隠す。
その瞬間。
バングルの龍の目が光った。
黒い靄に吸い寄せられるように飛び立った。
それを紘一は志乃に見せない。
「『なんで?』って聞く?」
「うん」
「末期症状と言われる状態になったのに完治したら騒ぎでしょ」
「…『よかったな』じゃないんだ」
「ほんと…莫迦みたいだよね」
志乃はクスッと笑った。
「どうするの?」
「何を?」
「あれ、私も見えているよ」
志乃は黒い靄を指差した。
そもそも見えていないはずがない。
すっかり格好をつけたのが空振っている。
漏れ出しているのは一つや二つの病室だけではない。
病棟全体に薄く広がっている。
まるで蜘蛛の巣のようだ。
紘一が顔を引きつらせた。
思っていた量ではない。
病棟全体から集まってきている。
しかも、その糸は一本ずつ太くなっている。
理屈で考えれば、奏音が侵された負の瘴気であればどうにかできる。
自分の中に入ることはできる。
その先は…バングルに力を借りれば…あれ…バングルは浄化している?
違う。浄化をしてくれたのは…紘一は右人差し指を見た。
「先生、ナースコールが五月蠅いので行ってくださっても」
奏音はベッドに座りなおしてふ~と息を吐いた。
嘘のように身体が軽い。
それだけじゃない。
自分の中で一緒に育ってきた聖氣が満たされているのがわかる。
呼吸法ひとつで自分の中を浄化することができる。
巫女の修行というよりも、舞の学びの最初に呼吸法を習う。
呼吸が舞のすべての基本であり、身体の動きを支えるうえで大切だと教えられた。
母も祖母も嘘吐きだ。
「篠宮さん?」
「どうかしました?」
「楽しそうに笑われたので」
「やだ、私ったら思い出し笑いなんて」
「…本当に大丈夫ですか?」
「ええ…あ、病室のドアを開けてくれたら、皆さん回復に向かうかと」
「え?」
「三途の川の河原でね、そう教えてくれたんです髙田さんが」
「…え」
「この間、急変で隣の病室で亡くなった建設屋さん」
「それはわかりますけど…」
「その髙田さんは亡くなられてますよね…?」
別の看護師が口をはさむ。
「うん、だからそう言ったんだけど?」
奏音は不思議そうに首を傾げた。
看護師たちが息をのんだ。
「信じるかどうかは、熱にうなされていたしね」
奏音はベッドから立ち上がった。
びっくりするほど体が軽い。
ベッドの上で自分を見ているぬいぐるみに手を指し出す。
ぬいぐるみがトンと手のひらに乗った。
「えっ」
看護師たちが蒼褪めた。
奏音は首を傾げる。
「あれ?」
看護師たちも顔を見合わせる。
「あれ?」
「手品見せたことなかった?」
「あ、手品か、そうですよね」
あはは、と看護師たちは笑いながらお互いの顔を見合わせた。
誰一人として納得していない顔だけが残った。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います




