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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第44話 龍の巫女は…現役であるべきですか?

※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。

誰かを助けるために…

誰かを間に合わせるために…

病院スタッフたちは、休む暇もなく動き続けている。

それは理解できる。

志乃が走り出したことで、それを見た母親も慌てて後を追う。

たぶん、何が何かわからないだろう。

呼んでくれた看護師に近づこうとしたところで、娘が顔色を変えて駆け出したのだから。

気が気でないだろう。

看護師は茫然とそれを眺めていた。

「すみません。どうも慌てン坊で」

紘一は、きょとんとしている看護師に近づいた。

「あ、はい…ご案内はいかがいたしましょうか?」

「問題がなければ一人でも」

そう答える紘一は両手の掌の上に狸のぬいぐるみを横たえるようにして載せている。

看護師はその姿を見て固まる。

そして、みるみる血の気が引いた。

あ~そういう反応が正しいよね、と紘一は溜息をこぼす。


エレベーターホールで△ボタンを押す。

危うく倒れている龍騎を踏みそうになった。

何が起きたのかは予想の範疇だが…一応聞いてみる。

「何している?」

「ドアが閉まった」

「飛び込むときは真ん中のラインを走らないとな」

したり顔で紘一は説明をする。

「淑女の足元を駆け抜けるなどできるか!」

「律儀だな」

「礼節だ」

紘一は苦笑した。

真顔だった。

天音が倒れ、志乃が全力疾走している最中に言うことではないが…

でも龍騎なら言う。

そして本気でそう思っている。


「どいてください」

ナースステーションでゾーニングエリアのゲートロックを解除してもらい入った瞬間だった。

慌ただしく看護師が走ってきた。

医師までも走っている。

入っていく先は…紘一が目で追った。

この辺は事件記者の経験のせいだろうか、部屋のプレートを確認した瞬間、駆け出してしまう。

ベッドを中心に医師と看護師が検査機器をつなげようとバタバタとしていた。

足元にはねっとりとした黒い溜りが広がっていた。

その足を取りそうな溜りは黒い水溜りとでもいうべきものだった。

ベッドの上から、溢れるようにして床に落ちていくように見えた。

「紘一…お願い」

天音が身体を起こしながら言う。

「何をすればいい?」

「あの女性の胸の上に」

「…俺、怒られそうだな」

「ごめん」

「まぁ、怒られるのは慣れているさ」

紘一は、奏音に駆け寄った。

いまにも泣きそうな志乃の表情が目に入る。

胸がずきんと痛むが、説明をしている暇は、いまはなかった。

「どいてください、邪魔です!」

医師の怒声が飛ぶ。

突然の乱入者に固まっていた看護師も慌てて紘一を抑えようとする。

「点滴はするな」

「な、何だきみは!」

「通りすがりだけど…1分だけ俺に時間をわけてくれよ、医師さん(せんせい)

「ふざけるな!」

医師は顔を真っ赤にして怒鳴った。

その気持ちの方がわかる。

とはいえ、病気ではないことを知っている。

健康にするためとはいえ、弱り切った身体に薬を重ね続ければ負担になる。

発熱が続けば体力は削られる。

食事も満足に摂れていない。

そんな状態で新たな処置を重ねれば、身体が悲鳴を上げることだってある。

記者時代、医療事故や薬害を追ったこともあった。

もちろん薬は人を救う。

でも、どんな治療にも副作用はある。

弱った身体にとっては、その善意すら刃になることがある。

だからこそ、紘一は焦った。

いま奏音を蝕んでいるのは病ではない。

原因を間違えたまま治療を続ければ、身体だけが消耗していく。

その行きつく先は、取り返しのつかない場所である可能性も少なくない。

紘一は天音をポンと胸の上に来るように投げた。

クルッと器用に身体を反転させて天音は胸の上に降りたった。

トスッと。

「これ…」

咄嗟に志乃の方を見た。

「先生! 顔色が」

「どけ!」

看護師に言われて、紘一をどけようと若い医師が紘一の胸倉をつかんだ。

「顔色が戻っています」

「放せ」

「でも…」

「1分だけ」

紘一はそれだけを言い残すように言うとその場に屈んだ。

溜まりにバングルを触れさせる。


「こんにちは、聞こえる?」

その声は優しく響いてきた。

澱のようなもの、タールのような重い何かが体に絡みついている感覚があった。

目を開けたところで闇が晴れることはなかった。

違う。ここは自分の中だ…久しぶりすぎて忘れていた感覚。

奏音は、ゆっくりと息を吐いた。

静かに長く。

誰かが話しかけてくれている。

でも、その声に聞き覚えはない。

誰? …そう声を出そうとしたら誰かに口を塞がれた。

気味の悪い感覚。

ごつごつとした手は老人のモノのようにも感じられた。

一体何が起きているの?

その疑問を晴らす方法はわからない。

「聞こえる?」

その声の主は、澱の沼に沈んでいる奏音の手を掴んでくれた。

ザザッと体から剥がれ落ちていくタールが砂のような音を鳴らした。

げほっ、がはっ。

「誰?」

「見えていないのね。これだけ深い澱みの中なら仕方ないか」

天音は、周りを見渡しながら呟いた。

完全に悪意に満ちた瘴気だった。

様々な負の感情を喰らって粘りを出している。

様々な欲が渦巻く魔風が吹いているようにも思えた。

「私は龍の巫女…そういえばわかる?」

「龍の巫女…」

奏音にはそれだけで伝わる。

初代の巫女が神々と交わした約束のひとつ。

名に『音』を含める。

そうすれば神社仏閣に触れることで見つけ出せるとの約束。

見つけることができれば、コンタクトをとることができる。

コンタクトを取られる方の都合はお構いなしの約束だ。

辛うじて奏音はその約束を受け入れられる世代ではあるが…

残念なことに子供を宿す機会はなかった。

時代錯誤な約束事。

姉はそのことを知らない。

奏音自身、巫女の修行を付けたとは思っていなかった。

偶々、舞を学んだ。

そして告げておくべきこととして聞かされていたことが…

この異常事態で冷静さを保たせてくれる胆力を与えてくれていた。

自分がした約束ではない。

でも、その恩恵の上で生きてきたのも事実だ。

「果たすべき刻が来たんですね」

「…え? 違うよ」

「でも、巫女って」

「ん~、有事に備えて、人が神通力を頼む約束の証…ね」

天音はくすっと笑う。

その約束を果たす必要があるかは疑問でしかない。

そもそも誰にでも神通力を貸し与えることができないからの制限にすぎない。

神仏から力を貸せと言ってくることなど、ほぼあり得ない。

でも真面目な人なのだろう。

志乃との差にちょっと驚いてしまう。

「有事ではあるけど…それどころではないでしょ」

天音は苦笑をする。

身体の自由を奪われかけているのに。

きっと近くにいなければ、自分も察知することはできなかった。

「でも…」

「偶然とも言えないか…でもいまは安心することから」

「安心?」

「知っているよね、巫女たる学びを少しでもしているのなら」

「穢れ、妬み、恐れ…およそ負とも呼ばれ感情が、他のそれらを呼び込む…ですね」

「ええ…呼吸を整えて、あとは龍がしてくれる」

その言葉を待っていたかのように、光の線を描きながら何かが闇を切り裂いていく。

少し晴れた靄から差し込む光が飛び回るものを見せてくれる。

「これ」

「黒龍よ…えっ」

天音は固まった。

白銀と黒金の龍が二体闇を祓っていく。

奏音の世界が光の中に溶け込んでいく。

靄が晴れた中でみる少女は美しかった。

息を吞むほどに可憐だった。

「ありがとう。私は奏音」

「天音よ」

「不思議な感じ…祖母や母の香りも感じる」

「ありがとう。そうかも。私は歴代の巫女の魂の欠片を貰っている巫女の道標だから」

「道標…」

「ええ、永遠というときを旅する道標よ」

フッと天音は笑った。

龍が晴らした黒い靄の中心になっていたところに黒い人影が揺らぐようにして立っていた。

黒い人影は微動だにしない。

ただ立っているだけなのに、不思議とそこが自分の居場所であるかのような顔をしていた。

まるで最初からそこにいた主人のように。

そんな不気味な存在がそこにいる。


「これ」

紘一は志乃に龍の指輪をトスして渡した。

これで、たぶん触れてなくても浄化はできるはずだ。

ただ指輪を外した瞬間、体が揺れた。

めまい?

そんな不安を感じた次の瞬間、ドン!と勢いよく右手首に龍がぶつかりバングルになった。

危うく悲鳴が出そうになった。

その代わりに意識が持っていかれたが…

世界がぐらりと傾く。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います


☆作品テンポの関係で30分後に次の話をUPします

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