第43話 そろそろ急展開です!
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
紘一は、綺麗になった光の世界に佇んでいた。
志乃がスライムを追いかけまわしたのは驚いたが…
ん?
スライムが消えた場所に何かが落ちている。
それを拾い上げる。
黒い石。
まさか…
紘一は周りを見渡した。
あちらこちらに粒のように何かが落ちていた。
そこへと駆け寄る。
黒い石。
それを手にすると、さっき拾あげた石と引き合った。
すべての欠片を拾い上げると、硬式ボールほどの黒い宝玉となった。
「これ」
「小石を蹴ったのに消えたのを気付かなかったか?」
「…俺が吸い取った?」
「正確には逃げ込んだんだな…意識してみな、珠姫を。さて、でるぞ」
「どうやって?」
「目を開けろ、物理的に」
「天音から聞いていないのか?」
龍騎は志乃の方を見た。
まだ女子会は続いているようだ。
「二人きりになることはないからな」
「…それはそうか」
龍騎は、再び騒ぎが黒い霧を立たせている方へと視線を流した。
そのまま腕を組み、病院の天井を見上げた。
「まぁ簡単にだけ言うけど。巫女ってのは、本来は導くだけだ」
「導く?」
「結界を張る。舞を使う。祈る。心を開かせる」
龍騎は淡々と続ける。
「穢れを手放すのは本人だ」
「本人…」
「お前らがやってるのは、その工程を無理やり省略してる」
紘一は眉をひそめた。
「でも、あの黒い靄は…」
「見たとおりだ。お前が飲んでる」
龍騎は即答した。
「珠姫の神力。小龍が喰って、お前が受け皿になってる」
「……」
「本来なら、そんな祓い方しねぇ」
空気が少しだけ重くなる。
龍騎は、どこか遠くを見るように目を細めた。
「昔の巫女はな」
静かな声だった。
「舞って、祈って、待った」
「待つ?」
「自分で手放すまでだ」
「そんなこと…」
紘一は続きの言葉を飲み込んだ。
できるのか? そう続けようと思った。
でもそれは聞くまでもない。
ただときの流れがそれを待つほどのゆとりを奪ったのだろう。
それと同じように、自分たちの力がその時間を与えないことを痛感する。
本当に良いのか…そんな迷いが生まれそうになる。
でも、様々な感情が暴走するとき、本来の持ち主の下で暴走するとは限らない。
誰かの悪意に踊らされる人も少なからずいるのだろう。
ただそれを知ることができるわけではない。
龍騎はその様子を見て苦笑する。
「だから時間がかかる」
「……」
「でも、それが本来の姿だ」
龍騎は小さく肩を竦めた。
「見てるしかできないのは、案外キツいぞ」
その言葉だけ、妙に人間臭かった。
紘一は龍騎を見る。
龍騎は誤魔化すみたいに視線を逸らした。
「まぁ、お前は莫迦だから飛び込むんだろうけどな」
「否定できないな」
「できろ」
龍騎は即答した。
気遣われたことが妙に嬉しかった。
「で、どうする?」
「乗り掛かった舟だしな…まだ時間あるみたいだし」
紘一は、龍騎にニヤリと笑った。
退く勇気が必要なことは理解している。
でも、できることをしないのは間違えていると思う。
そのことで、志乃に迷惑をかける可能性もある。
でも、まぁ、恋人…まだ告白はしていないが責任はとるべきだろう。
ちょっと厄介な癖ごと面倒見てもらうことになりそうだが…
紘一は、女子会を楽しむ二人を見てから騒ぎの方へと視線を流した。
「あれ? 紘一それ」
「ん? なんか指にはまっていた」
紘一は龍騎の方に右手人差し指のリングを見せた。
二体の龍が行きかうように並んでいる。
まるで陰陽を表すかのようにも感じられてしまう。
珠姫が渡した龍の指輪とは形状が違う。
そもそも、渡されたリングはバングルに変わっている。
何が起きている?
龍騎は喉を鳴らした。
「まぁ、行ってくるわ」
ゆっくりと騒ぎの方へと向き直す。
ごくりと喉が鳴ったのを龍騎は聞き逃さなかった。
緊張のピリピリ感が伝わってくる。
少し遅れて、志乃がこちらへ気付く。
「あ、起きた!」
その声に、紘一は、一瞬、振り返り小さく笑った。
精神世界…自分の中の世界は思った以上に居心地が良かった。
そこで手に入れたモノはイメージを持つことで現実世界にも影響を及ぼすらしい。
とはいえ、何でも思い通りになるわけではないだろう。
きっと何かしらのルールは存在しているはずだ。
そうでなければ世界は成り立たない。
紘一は指輪へと視線を落とした。
二体の龍が絡み合うように並んでいる。
その二体…何となく玄李と珠姫だと思ってしまった。
黒い石が融合しながら宝珠になったとき、龍騎に言われた通り珠姫を感じようとした。
ただ、それが何を意味するのかはわからない。
龍騎も説明しなかった。
だからいまは考えないことにした。
考えたところで答えがでるわけでもない。
その後は…意識を外に向けたら…こうなっていた。
それよりも…紘一は前方へ視線を向けた。
また騒ぎは収まらない。
黒い靄が立ち込め始めていた。
龍騎は肩を竦める。
「ほら、仕事だ」
「仕事じゃないだろ」
「じゃあ趣味か?」
「……それも違うな」
苦笑が漏れた。
本当に面倒なことに巻き込まれたと思う。
でも…見てしまった以上、放っておけない。
紘一は小さく息を吐いた。
そして一歩踏み出す。
その指で、二体の龍の目が開かれ静かに光ったことも気づかない。
行きますか…
自分を鼓舞するように唱える。
駆け出した。
バングルは動かない。
その代わりなのかリングが飛び立った。
靄の中に呼び込み泳いでいく。
そのまま、騒ぎの中へと紛れ込んでいく。
別に病院側というわけではないが、この不毛なやり取りに人手が割かれるのは得策ではない。
そもそも、病室に上がる許可すら出なくなっているのは、これのせいだと感じる。
病院が営利に走るのはどうでもいいことだった。
適正価格は保険診療として定められている。
それ以外の医業外収益をどれだけとるかは病院の判断だ。
もちろん、限度はある。
だが、それを利用するかどうかを決めるのも利用する患者側だ。
納得できなければ断ればいい。
別の病院を探すという選択肢だってある。
少なくとも怒鳴り散らして解決する話ではない。
感情的になればなるほど、本来見えるはずのものまで見えなくなる。
「なんだよ、お前は!」
敵意剝き出しの怒声が飛んでくる。
「ここに迎えに来ただけだけど」
「だったら…」
「俺は早く引き取るのなら引き取って楽にさせてあげたいんですよ」
「それは俺たちも同じだ」
「本当に?」
「ああ?」
火に油を注いだらしい。
冷静に話すほどに相手がエキサイトしていく。
そんなことは最初から分かっている。
だからこそ、中心人物を煽る。
煽るほどに周りとの温度差が生まれる。
そこでふと冷静になるのは、珍しいことでもない。
「この騒ぎで中の案内がストップしていても?」
「えっ?」
「暴れるのは勝手だけど、入るのが遅くなるだけだよ」
「それは」
「車を乱雑に止めているから、出れないから駐車場で待つ人も出るし」
「それは」
俺のせいじゃない。そう続けたいだろう。そう思う。
それが正解だ。
何も彼のせいじゃない。
他に煽っている人がいなければ、彼は渋々でも千円も払って入っただろう。
ぶつぶつ言いながら手続きをしただろう。
でも、誰に乗せられようとも先導したのは変わらない。
「実際、正面も閉鎖されて、患者さんの家族も立ち往生している」
「え」
「深呼吸して、病院との話し合いは後日でもいいのでは?」
「それは」
「受けてくれますよね? 院長と名乗っていましたよね」
「もちろんです」
「病院側が、失策を詫びて、後日話し合いの場を持つといっているのに…まだこれを?」
男は折れたように項垂れた。
「申し訳なかった」
そういうと人込みを掻き分けるようにして駐車場へと向かっていく。
呆気にとられた人だかりも散り散りに自分のいるべき場所へと戻っていく。
「ありがとうございました」
院長は頭を下げた。
「別にいいんで、案内急いでくれます?」
「あ、はい、もちろん」
院長が事務室に入っていくのを見てから紘一は志乃たちのもとへと急いだ。
そんな紘一に遅れるように右手にリングが戻る。
いつの間にか白銀と黒金の龍に変わっていた。
そして…
「どうしたの? 紘一」
「いや、熱くならない」
「だろうな」
龍騎はソファーに持たれようとしてそのままポテンと寝た。
「なんで?」
「いうならただ負の感情が、負の感情を呼び寄せただけだ」
「負の感情…」
「あ、なんだ。神力は全く関係ない」
「………」
「行かなくても良かった?」
「まぁ、時間が解決する」
言われて紘一はバングルを見た。
「仕事選ぶ?」
「そうみたいだな。玄李みたいだ」
龍騎は苦笑しながらニヤッと笑った。
「つまり浄化は?」
「必要ない」
「篠宮様、篠宮奏音様のお見舞いに来られている篠宮様」
「あ、はい」
志乃は、返事をすると「はい、コントの時間はおしまい」と囁いた。
その瞬間だった。
天音が胸を押さえて膝をついた。
「天音!」
龍騎が駆け寄る。
「……志乃」
天音の顔から血の気が引いていた。
「急いで」
「え?」
志乃が駆け出す。
龍騎も続く。
紘一と天音が取り残された。
……えっ。
俺には?
何もないの?
天音の顔色は悪いままだった。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います




