第41話 尽きない欲求…それは人のサガかも知れない?
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
龍騎は小さく鼻を鳴らす。
その音に、紘一は視線を志乃へと向けた。
狸寧入りは終わりのようだ。
――色々なことが起きる。
その全てを気にかけていては、何事も終わらせることはできない。
所詮、誰かが誰かに関与できるのはその一瞬だけなのだから…——
そう言って玄李は笑っていたことを思い出す。
役目を見つけられないままに誕生し島を彷徨っていたときだった。
珠姫に見つけられて、黒龍堂で過ごした。
このまま龍神に成れたら…そう口にしたときに玄李は楽しそうに笑ってそう言った。
その言葉の意味を知るのがいまだとは思わなかった。
苦笑が漏れてしまう。
幸いなことにぬいぐるみであることから周りには見えない。
ぬいぐるみで良かった。
そう思った瞬間にぬいぐるみじゃダメだろう!と苦笑が追いかけてくる。
「なぁ、紘一」
「ん?」
紘一の視線が自分を捉えるのが分かる。
一瞬、勝手口の騒ぎの方で視線を止めたのも。
「本来の祓いってのはな…お前みたいに飲み込むもんじゃねぇ」
紘一は苦笑した。
「そうだよな」
フッと鼻で息を吐いてから苦笑を添える。
「軽く返すな」
「いや、志乃の負担かけているんだろうなって」
その返事に龍騎は呆れたような顔をする。
「まず自分の心配をしろ」
「そう? 意外だな」
「…お前は俺を何だとみている」
「神さま?」
「仏様な!」
「…そうなの?」
「ああ…ってお前は真面目な話ができないのか!」
龍騎はスクッと立ち上がって講義するように言う。
「得意じゃない」
こいつの書く文章は真面目に偏っているのに…と溜息が漏れてしまう。
「莫迦」
龍騎は短く吐き捨てた。
そっぽを向いて膝の上で胡坐をかいてから、そのまま仰向けに寝転んだ。
頭の後ろで手を組む…気持ちだけ。
それから少しだけ真面目な顔になる。
「本来、穢れってのは自分の中に留めねぇ。流す」
「流す?」
「ああ、流すだけ。簡単に言えば、お前はただのフィルターだ」
「?」
「水が流れるように、お前の中に穢れをはじめとした空気中の澱みを流す」
「おう」
「それを綺麗にして外に戻す…あ~何て言ったかな、空気清浄機みたいなもんだ」
「…あると便利だけど、なくても困らない的な」
「莫迦。表現が適切すぎだな」
龍騎は短く吐き捨てた。
「簡単に言うほうがいいなら…」
「なら?」
「周りにある不浄と思われるものを龍のリングが吸引口になり、お前というフィルターを通して、汚れを除去して外へと出す。結果、お前の中に悪いものが残り、それを志乃が掃除する。と言うことかな」
龍騎は、苦笑した。
うまく言えたな、と自賛したように。
「それって、俺要らなくない?」
「………」
「おい、何で黙っているんだ」
紘一はタヌキを両手で掴んで自分の方へと向けた。
「いや、その」
龍騎は頑張って首を横にしようとする。
「知っていることを言え!」
言葉とは裏腹に目だけは優しく微笑んでいる。
でも、どんな言葉を費やしたところで大きく結果が変わるようなことはない。
真相までは知らないが、どんなに考えたところで、ただ声が届いたから利用されただけ。
志乃の危険を少しでも和らげようと、クッション的に指名されたようにしか思えない。
ただ、十数時間の付き合いしかないとはいえ、紛れもなく人柄に惹かれている。
癪だが、それも変えられない事実だ。
照れ臭くて、いえた類の話では無いが…
この際内緒にすることにして、龍騎は思いごと言葉をゴクリと飲み込んだ。
騒ぎの向こうで怒声が上がった。
一瞬の静けさが漂う。
慰謝料をよこせと言う騒ぎが起き始めた。
そこへと龍騎が視線を向けた瞬間、黒い靄がざわりと波打った。
龍騎の目が細くなる。
「だから巫女が必要になる」
紘一を見ずにポツリと呟くように言葉を落とした。
それ以外に言葉が見つけられない。
不意に紘一の手の力が緩み、ストッと下に落ちた。
紘一も気付いているのかもしれない。
自分が偶々…巻き込まれただけかもしれないと。
それでも…きっと…引かないのだろう。
龍騎の雰囲気が変わった。
直立しているだけ…のはずだが、たぶん拳を握りしめている。
プルプルと腕が震えていた。
そして寂しげに、騒ぎの方へと視線を向ける。
それにつられるように視線を向けてしまう。
騒ぎの中で黒い靄が立ち始めている。
さっき祓ったところなのに…そんな苛立ちが生まれる。
人の欲求は際限がないものだ。
悪意とか、善意とかでは…きっと語れない。
どれほど無垢な思いであったとしても混ざれば濁る。
守りたい。
助けたい。
正したい。
その総てが、自分以外の誰かとぶつかった瞬間に形を変える。
誰かとの対立が気持ちをエキサイトさせていく。
自分の正しさを疑えなくなる。
そんな個々の思いが、ぶつかり合うほどに歪みは大きく膨らんでいく。
譲れない理由が増えるほど、人は相手を敵だと認識していく。
その感情の隙間へと、入り込むみたいに黒い靄が滲み出すのだろう。
驚けなくなっている自分に少しうんざりする。
順応力高いよな? と龍騎にきけば呆れられそうだ。
でも、龍騎は、その光景をずっと見てきたのかもしれない。
人が人である限り、穢れは生まれる。
だから祓いは無くならない。
そんな諦めにも似た感情が、その小さな背中から滲んでいた。
そうでなければ、ここまで達観できないのかもしれない。
「どうして…こんなに」
「お前は知らないうちに珠姫の宝玉の欠片を集めている…それに耳を傾けてみろ」
「え?」
「志乃が、自分の内側に意識を向けるように…お前も志乃の苦労を知るべきだ」
「志乃?」
「ああ。舞と祈りで流れを整えてくれているだろう?」
紘一は静かに眉を寄せた。
「お前の記憶の中にもある…思い出せ」
「うん、あ、でも…」
「大丈夫だ。まだ」
龍騎は、ニヤリと笑う。
それ以外にできる事はない。
天音のように、直接、魂が創りだす空間へと干渉できるわけでは無い。
縁を結んでいるわけでもない。
ただ、紘一の高い親和性の成せる業に過ぎないのだろう。
その事も、紘一の知る限りではない。
「どうすれば?」
「焦ったところでできるかは判らないがな…迷走をするようなものだ」
龍騎は呟くように言った。
本当は、それなりに時間が掛かる。
玄李や珠姫なら、サラッと神力を活用して感応させるのだろう。
適正力の高さがそれを助けてくれるだろう。
問題は、上手く引っ張ることはできないことだ。
天音に頼みたいところだが、女子トークに花が咲いている。
「で?」
明らかに紘一が苛立っている。
「…深呼吸しながら目を閉じて」
「おう」
「呼吸はゆっくりと、吸うのと同じ時間をかけて吐く」
「おう」
「周りになるか感じて」
「…お、おう」
「周りのものを感じたら、意識を内側に向けるだけ」
「………」
「音を聞き取れ。血の流れを、そこから内臓を感じ取り、肉を、肌を…暗闇の中に浮かぶ自分を」
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
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アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います
☆作品テンポの関係で30分後に次の話をUPします




