第40話 無事を喜ぶだけでは… 叱るときには叱るのも必要です!
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
紘一は、ゆっくりと目を開けた。
ぼやけた視界の向こうで、白い天井灯が滲んでいる。
自分が思っている以上に、やばいことに首を突っ込んでいる。
それだけは理解している。
とはいえ理屈では…ない。
思ったよりも自分がいい奴であることに少し驚いている。
これも歳のせいだろうか。
苦笑が漏れそうになるのを噛み殺してみる。
志乃が天音と何かを話している。
珍しく龍騎が天音から離れて、紘一の横から眺めている。
それだけで、特別な話なのだと感じてしまう。
いい大人として。
いい男として。
覗き見たり、聞き耳を立てるような真似は…
するべきじゃない。
そう思いながら、紘一は静かに目を閉じた。
頭がまだ少し重い。
身体の奥に鉛でも流し込まれたみたいな怠さが残っていた。
小さく息を吐き、周りの音に耳を傾ける。
まだ、混乱は続いているらしい。
先ほどと違うのは騒ぎの質…冷静なやり取りが聞こえてくる。
騒ぎの原拠を隠してしまうことで綺麗な終息には至らないのだろう。
そのうえで、他院への転院が断られる事態が発生すれば、さらにだろう。
納得できない。
それが根底にある。
だからといって暴れたところで何も変わらない。
そのことが分かっているだけに、患者を人と見ない柴山の言動に苛立っている。
金の亡者としか見えないことで、病院に対する不信感が上がっていく。
院長や事務長が声を大きくしたところで、その言葉を信じ切れない。
この状態で駐車料金を取ろうとした。
それだけが真実だ。
転院が断られたことを声高々にせせら笑うように放った。それも真実だ。
どんなに言葉を駆使しようともそれを変えることはできない。
病院理事ではない。
そう言われたところで…それを示されるものは何もない。
それどころか、まるで権力でも持ち合わせているかのように現実が追いかけている。
ぬらりひょん。
気付けば人の輪の中心に居座り、まるで自分が主であるかのように振る舞う。
ぬらりひょんを見つけた人もこんなやりとりを眺めていたのかもしれない。
ぬらりと入り込んで…案外こういう類の妖怪だったのかもしれない。
紘一は少しだけ口元を緩める。
妖怪紀行をするのも面白いかもしれない、そんな事をふと思ってしまう。
「狸寝入りか?」
「…タヌキに言われてもな」
フッと口角だけを上げて紘一は返事をする。
目を閉じたままなのは、志乃に気遣っているのだろう。
それはそれとして…
無事だった。
それだけで充分だった。
膝の上によじ登りながら龍騎は紘一を観察する。
どうやら、見ているらしい。
龍騎が胡坐をかくみたいに座った。
「最悪の顔色からは戻ったな」
「どうも」
掠れた声だった。
喉が焼けるように乾いているのだろう。
龍騎は鼻を鳴らした。
「莫迦やった自覚はあるか?」
「…まぁ、多少は」
「多少で済ませるな」
龍騎は呆れたように肩を竦めた。
そのまま紘一の顔を見上げる。
「志乃ばっか見てる場合じゃねぇぞ」
「…見てない」
「見てるだろう。まるで自分の女の様に気遣っている」
即答だった。
紘一は視線を逸らす。
龍騎はニヤリと口を歪めた。
「安心したんだろ」
「……」
否定しなかった。
いや、できなかった。
実際、そうだったからだ。
自分が倒れている間も、志乃は動いていたのだろう。
無茶をしたのは自分だけじゃない。
そう思うと、妙に胸の奥が重くなる。
そんな空気に龍騎は笑みを消した。
「なぁ紘一」
「ん?」
「本来の祓いってのはな」
不意に声色が変わる。
紘一は龍騎へ視線を戻した。
「聴くか?」
「ここまで言って?」
「そうだな…祓いは、お前みたいに飲み込むもんじゃねぇ」
「だろうな」
「ん?」
「志乃の負担…そんなの聞いたことない」
龍騎は小さく息を吐いた。
「…あ~、修行した奴ら…陰陽師とか祓魔師とか漫画とか小説ではな」
声がどうしても呆れている。
何から言うべきか。
それともそのまま流すべきか迷ってしまう。
このままでも、玄李の願いはかなえられるだろう。
二人いれば、問題も無いはずだ。
でも、問題があるとすれば、紘一だ。
ただ知ることで自分に負担をかける可能性がある。
ここまで顧みずな性格だとは思っていなかった。
もう四十路になろうとしているのに…
冷静に考えて行動すべき…何を年寄り臭いことを考えているんだ。
人生百年時代なんて言われるせいか。
それとも、人生五十年の舞なんかを見ているからか。
どうにも感覚が狂ってしまう。
まだ若造…育たない心があるからこそ、こんな騒ぎが起きる。
龍騎は勝手口の騒ぎを眺めながら溜息を吐いた。
押し問答が続くと、どうしても力押しをする者も出る。
何人かが院内に雪崩れ込んだ。
奥から病院スタッフが出てきてそれを止めている。
その奥で、柴山がニヤッと楽しそうに笑っている。
すでにその身と同じ大きさの黒い靄を身に纏っていた。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
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アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います
未完投稿となっているので、最終話まで急ぎ掲載していきます




