第39話 巫女のお仕事って色々とありますが… そのひとつは意外に複雑?
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
志乃はゆっくりと目を開けた。
紘一の頬には赤みが差していた。
無事に処理ができたようだ。と、タヌキを見た。
「ありがとう、天音ちゃん」
「それ止めなさい。またさっきみたいなこと起きるよ」
「ホントだ、また叩きつけられたら叶わん」
龍騎が紘一の膝の上にちょこんと座り視線だけを向けてくる。
「龍騎、紘一お願いね」
天音は志乃の肩に飛び乗りながら言い残した。
「ああ。もう知っておく時期は越えてるしな」
苦笑を浮かべながら龍騎は紘一を見上げた。
「ホント莫迦野郎が…眠るくらいギリじゃねぇか」
「どうしたの天音ちゃん」
自動販売機で水を買いながら志乃は天音の方を見た。
「たぶん、上がるともっと切迫すると思うの」
「…うん」
天音の言葉にドキッとしてしまう。
元々、叔母さんを助けるために来た。
色々な邪魔が立ちはだかっているが、目的はそれだけだ。
正直、玄李たちの願いはついでだった。
でも、わずか数時間で考えを変えさせられることになるとは思ってもいなかった。
それだけ、濃い体験をさせられた。
「説明をしたところで、その総てがわかるとも思えない」
「酷くない?」
「事実だからね」
即答しながら、天音は苦笑した。
「理解できるまでに時間がかかるよ。いつか、『ああ、そういうことか』って思う日が来るだけ」
「そんなもの?」
「そんなもの」
志乃はソファーへ腰を下ろした。
天音も隣へちょこんと座る。
少しの沈黙が生まれた。
何から話そうか悩んでくれているのが伝わってくる。
魄が繋がっているのは、便利でいて、どこか恥ずかしいものがある。
考えていることが相手に勝手に伝わってしまうのだから。
まぁ思考が駄々洩れなのは志乃だけだが…
「さっきの場所…空間なんだけど」
不意に天音が口を開く。
「うん」
「あれが志乃の内側」
「私の?」
「前にも言ったけどね。精神世界って言った方がわかりやすいかな?」
志乃は首を傾げた。
「うん、意識を自分の内側へ向けて…教えてくれたよね」
「見えている景色は…紘一の精神世界ってところかな」
「えっ?」
「正確には志乃の内側に映し出されている景色」
「映し出される?」
「珠姫の神力を借りて、小龍がその手助けをしてくれている」
「もしかして…それで龍を包み込んでいるの?」
天音は小さく頷く。
「紘一の中にある思念や穢れを認識しやすいように、ね」
「じゃあ、私が中を見れているわけじゃあ?」
「ない」
即答だった。
「そうなんだ…」
少し安心したような、少し残念そうな声だった。
天音は横目で見る。
「何を想像したの?」
「何も!」
即答だった。
天音は肩を震わせた。
「まぁいいけど」
一拍あけてから少し真面目な顔になる。
「浄化も昇華も、実際は紘一の中で起きてる」
「え?」
「志乃がやっているのは認識」
「認識?」
「うん」
天音は指先で空中に丸を描く。
「黒い靄を見つける」
「うん」
「浄化して、昇華させる…さっきみたいに」
「うん」
「祈ることで…昇華してもらうんだよね」
「ええ…祈ることで、スライムと遊ぶためじゃないからね」
「………」
「実際に変化が起きるのは紘一の内側」
志乃は少し考え込んだ。
「つまり私は…遠くからお手伝いしてるだけ?」
「言い方。でもそうなるね」
天音はクスッと笑う。
妹がいたらこんな感じなのだろうか。
「頑張ってるのに」と頬を膨らませている。
「頑張ってるよ」
天音は笑った。
「でも、紘一も頑張ってる」
「だよね。危険なこともしているし…凄いよね」
「昇華って一人じゃできない。捕まえる必要があるから」
天音は静かに続ける。
「何よりもそれができるのは巫女だけ」
「…うん」
「それに、紘一には…」
天音は言葉を飲み込んだ。
本当は紘一には捕まえる能力などない。
きっと聖職と呼ばれるものから最も遠い存在だ。
ただ感受性が高く、器が大きい。それだけだった。
そして巫女にも捕まえる力はない。
自身の器に引き込むこともできない。
そのことは…言わないことにした。
「何?」
志乃が天音を覗き込んだ。
「煩悩が数えきれないくらいあるからね」
「そうなの?」
「108じゃ足りないよ」
天音はくすくすと笑って見せた。
間違いではない。
でも、ただの偶然。
あの数の人の思念を飲み込める器だったから分かっただけ。
何よりも、入るたびにその器が大きくなっている。
志乃はまだ気づいていないだろう。
あの煌めいた世界が広がっていることに。
「そっか…」
志乃は少しだけ黙り込んだ。
天井を見つめてため息がこぼれた。
助けるまではいかなくても役に立てているつもりだった。
少なくとも、一緒にできているのは救いだった。
「いまは意識するために繋がっているけど…」
「うん」
「感じ取ることができれば…同時にすることができる」
「何を?」
「集めて浄化して、昇華させるが」
「三つも?」
「……」
天音は呆れたように苦笑を漏らした。
「だから舞が必要」
「舞?」
「巫女は元々、祈りを舞に織り込んでいる」
「そういう理由だったんだ」
「うん」
天音は頷く。
「舞で道を示す」
「うん」
「祈りで昇華を促す」
「うん」
「最後に本人が手放す」
「間違えているけどね」
「えっ」
天音はため息をついた。
「だから理解するのに時間がかかるって言ったの」
プイと志乃から顔を背けるように横を向いた。
「あ、酷い」
「事実!」
天音は肩を竦めた。
「舞は心を開くためのもの」
「心を?」
「そう。自分と向き合うために」
「向き合えるの?」
「浄化を自分で行うために必要だからね」
「自分?」
志乃は、ポツリと呟き天音を見詰めた。
天音は、頭をポリポリとかきながら溜息を吐く。
志乃には基礎を伝えていない。
そんなゆとりも暇もなかった。
たぶん、ゆとりはあったのだが…紘一が首を突っ込んでゆとりを潰した。
何となく紘一の方へと顔を向けてしまう。
「天音?」
「あ、ごめん…浄化は綺麗にするために…」
「綺麗に?」
「そう。穢れというモノが無くなると心に隙間が生まれる…まぁ、正確には逆だけど」
「逆…」
「…隙間に魔が入り込んで闇になり、汚れになっていくの」
「あ…そうなんだ」
「綺麗になったら、隙間が生まれるけど、それがゆとり」
志乃は手をポンと叩いた。
「心のゆとり」
「そうだね。そのゆとりが、自分を見返す余裕になる」
天音は少し呆れた声で言う。
「見返すことができるから…気付く準備が整う」
天音は少しだけ遠くを見る。
「気付いてくれたら、還るべき場所へ帰れるように祈る。私たち巫女にできるのはそれだけ」
「…大変そう」
「志乃がするんだからね」
「え」
「ほら、さっきの思い出して」
天音に言われて、志乃は先ほどの黒いスライムを思い出した。
「あれも?」
「あれも」
「面倒だった」
「見てた」
「逃げるし」
「見てた」
「飛び掛かってきたし」
「見てた」
天音は即答した。
志乃はむっとする。
そんな様子を見ながら天音は小さく笑った。
「でも、ちゃんと出来てたよ」
「そうなの?」
「少なくとも最初の頃よりはね」
その言葉に少しだけ胸が軽くなる。
天音は立ち上がった。
「だから大丈夫」
「何が?」
「上に行っても」
そう言って微笑む。
「志乃なら、きっとできるから」
「ありがと。あれ、上って?」
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います
未完投稿となっているので、最終話まで急ぎ掲載していきます




