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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第38話 天高く恋燃ゆる…って同性じゃないの?

※本作はフィクションです。

登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。

何人分なのだろう。

怒り。

不安。

焦り。

悲しみ。

濁流のように流れ込んでくるそれらは、誰か一人のものではない。

区別もつかないほど幾つもの感情が混ざり合っていた。

吐き気がする。

頭の奥が重い。

足元がふらついた。

悪意じゃない。

少なくとも、それだけじゃない。

認めてほしいという思い。

理解してほしいという願い。

怖いという感情。

怒り。

悲しみ。

正しさ。

全部がごちゃ混ぜになって押し寄せてくる。

ただ一つ確かなのは、純粋すぎる思いが絡み合いを助けているということだ。

本当は飛び出すことのない個々が抱える感情。

それが飛び込んできた別の意思に押し出されたのかもしれない。

ただその内容を知ることはできない。

理解する気もなければ、理解したいとも思わない。

ただ負とされる感情を小龍は集め運んできただけだ。

ちょっとと言わず大いに迷惑な頼みを聞いたらしい。

「紘一!」

志乃の声が聞こえた。

気付けば騒ぎは収まり始めていた。

柴山が警備員たちに引きずられていったことで中心を失ったのだろう。

怒鳴り声はまだ残っている。

それでも先ほどまでの張り詰めた空気は薄れていた。

黒い靄も消えていた。

代わりに怒りのせいか白い湯気が頭から立っている人が多くいる。


それも少しずつ霧散していく。

それなのに。

紘一の中には残ったままだった。

「大丈夫?」

「たぶん」

答えながら紘一は苦笑する。

たぶんと言った時点で大丈夫ではない。

志乃は小さく息を吐いた。

「嘘つき」

ポツリと本音が漏れる。

「そんなことないと思うけど?」

「そんなことしかないでしょ」

「そうかな」

また苦笑を漏らした。

本当は返事をする余裕もないはずなのに。

額に嫌な汗を滲ませて、笑うのは、志乃に気を使っているからだとわかる。

志乃は紘一の腕を取った。

「中に入るよ」

「うん」

素直になっている。

肩を貸す感じになると止められそうなので、手をつなぐことにした。

その後ろを天音と龍騎がついてきた。


「だから言ったんだ」

龍騎が呆れたように鼻を鳴らす。

「危険なことはするなと」

「結果論だろ」

「結果が出てから言うから結果論というのだ」

「それはそう」

「反省していないな?」

「してるしてる」

「してない」

天音が即答した。

「お前もか」

「当然。怒っているからね」

志乃は思わず吹き出しそうになる。

こんな状況なのに。

あっと志乃は周りを見渡した。

あわてて狸のぬいぐるみ二つを拾い上げる。

「騒ぎに巻きこま…れ…なかった?」

緊急外来で対応してくれた看護師がタヌキを見つめながら声をかけてくれる。

「あっ…はい」

「問題ない!」

と龍騎は志乃に背中を鷲掴みにされたまま答えた。

「ちょっと、いまぬいぐるみなんだから黙りなさい」

天音が注意をする。

「はは…えっと…」

「腹話術…うまい…わね?」

看護師が気を遣うように声をかけてくれた。

とりあえず貸してくれた外出プレートを渡すために龍騎を放してしまう。

ばすっ…「痛っ」

「えっ?」

「あれ…」

と言いながら志乃は爪先で龍騎をトンと蹴りソファーの下へと滑り込ませた。

「ぶっ」

その声は聞こえなかったかのように看護師はプレートだけを受け取った。

志乃の左手で、天音が身体を震わせて笑いをこらえていた。

「もう、行くよ、龍騎」

「お、おい、俺の扱い酷くないか」

龍騎は、パタパタと誇りを落としながらソファーの下から顔を出した。

「あなたが悪い」

言いながら志乃はフフッと笑った。

そんなやり取りができることに少しだけ安心してしまう。


緊急外来出入口を抜ける。

自動ドアが閉まり、外の喧騒が遠ざかった。

冷房の効いた空気が肌を撫でる。

それだけで少しだけ意識が戻る気がした。

受付の前には何人もの人が並んでいた。

面会許可を待つ家族たちが長椅子に腰掛けている。

泣いている人。

俯いている人。

祈るように両手を組んでいる人。

病院という場所は、いつだって人の感情で溢れている。

志乃は空いている椅子を見つけると紘一を座らせた。

「ちょっとだけ我慢して」

「ん」

志乃は紘一の前に立った。

そして額へそっと手を伸ばす。

触れた瞬間だった。

ふわりと白い光が滲む。

「やっぱり」

志乃は眉をひそめた。

黒い煙のようなものが紘一の肩口から立ち上っていた。

いつものものとは少し違うみたいだ。

バングルを手で包み込む。

目を閉じながら意識を自分の中へとむけた。

重い。

粘つく。

そんな霧がかかっていた。

足元に絡みつくそれは水たまりのようにも思えた。


「天音」

「少しずつ力の使い方を分かってきたみたいね」

志乃の問いかけに応えてみる。

「少しずつでいいのかな?」

天音はふっと笑った。

少しずつでしか理解できない。

本来、巫女は生まれたその瞬間から学びを始めることになる。

血の成せる業とはいえ…

何の修行も学びもなく昇華をさせるポテンシャルには驚くしかない。

素直に誰かのために祈れる稀有な存在なのだと思う。

それでも、経験不足は否めない。

だから不安に感じることも多い。

でも、それを取り除くゆとりはない。

天音は周りをぐるりと見まわした。

いつの間にか靴の周りに黒く染まり始めた水が広がっている。

そこから靄のようなものが湧きたちはじめた。

戸惑うように一歩二歩と後ずさりをする。

最初は透明な水のようなものだったのだろう。

そこに墨を垂らしたような色が混ざりだす。

その色が全体を侵食するように広がっていく。


「これ…」

志乃は足元を見下ろした。

表面はゆっくりと揺れていた。

粘ついているようにも見える。

水飴を無理やり薄く伸ばしたような嫌な質感だった。

「思念が溜まってるね」

天音は当然のように答えた。

「思念って……これ全部?」

「見えてる分だけ」

「それどういう意味?」

「見えてないものもあるってこと」

「見えるものばかりじゃないよね」

さらりと言われて志乃は黙り込んだ。

見えている分だけ。

つまり見えていないものもあるということだ。

考えたくない。

「嫌な感じしかしないんだけど」

「そうね。でも、まぁそれはそれとして」

志乃は「そうか」と頷きかけて天音を二度見した。

「えっ」

「先にしないとね」

「あっ、うん」

天音は明らかな落胆を見せる志乃に苦笑だけを向けて面倒くさそうに水溜りの中を歩く。

志乃と少しれる。

「歩いて大丈夫?」

「…どうして?」

「嫌じゃない?」

志乃の表情から滑りだということがわかった。

「嫌だけど」

即答だった。

「嫌なんだ…」

「嫌いなものだからね」

天音は肩を竦める。

そして少し考えるように足元を見た。

(足首くらいか…まぁ…大丈夫かな)

「同じ動きをしてね」

「え」

「いつまでも、私が手伝うわけにもいかないから」

そう言うと天音は空を見上げるようにして呼吸を整えた。

少しストレッチをするような仕草を見せてから、すっと足を延ばして腰を落とす。

左手が伸ばした右足の方へと延び、背中が見える。

引いた右手にはどこからか出した神楽鈴を手にしている。

あれ…?

服装も白衣と赤い緋袴に変わっている。

シャンと鈴が鳴り、綺麗な舞を踊りだすと無かったはずの千早が揺れた。


天音は美人だ。

正直、その動きに見とれてしまう。

まるで最初からそれを着ていたかのように自然に動く。

しゃん…

鈴の音が響く。

澄んだ音色だった。

天音は静かに足を運んだ。

一歩。

また一歩。

舞うというより歩いているだけにも見える。

動くたびに水が澄んでいく。

黒い交じりは消え、光が生まれ始めた。

鈴が鳴るたび、光が増えていく。

動くたびに、水が波打ち、波紋が広がっていく。

広がる波紋に光が宿り、光の刃が外側に向かって流れていくようにも見えた。

しゃん。

しゃらん。

音が重なる。

水面を光が輝かせていく。

まるで朝日が差し込んだ池のような美しさに志乃は感嘆の声を漏らす。

「綺麗……」

思わず志乃が呟く。

天音は振り返らない。

ただ静かに舞を続ける。

そして、トンと浮かび降りてくると水は消え、光の粒が空に向かって上がっていった。

ぱち、ぱち、ぱちぱち…

「すごい綺麗」

「…綺麗だと思ったら覚えてね」

「えっ無理」

「必要だからね」

天音はクスっと笑う。

志乃が踊りを苦手としていることを知っている。

それでも幾つかの舞を覚える必要がある。

本当は踊れなくても祈りでできそうなのだが…

「できれば、紘一の負担減らせるよ」

「え?」

「祓っている最中に浄化して昇華させることができれば…」

「そうなんだ」

「どちらにしても、次は志乃がやるんだから」

「! いまそんなこと言う?」

「いまだから言うの」

「ずるい」

「はいはい…で、あれ、見えているよね」

天音は、志乃の頭をポンポンとたたきながら、視線を数メートル先へとむけた。

それに釣られて志乃も見る。

上っていく光の粒子から何かがこぼれている。

局地的な雨のように一点へと集まり、黒い塊が生まれる。

ぷにぷにとしたその存在は…スライム? 何となくそう思ってしまう。

底の見えない闇のような存在だけが残っていた。

「あれ?」

志乃は眉をひそめる。

綺麗になったと思ったのにと頬を膨らませる。

天音は神楽鈴を志乃に差し出した。

「見えるでしょ?」

「まだ残ってる」

「うん」

天音は頷いた。

「舞にできるのは行く先を伝えるお手伝い…それを浄化という人もいるけど」

天音は言葉を区切った。

「浄化は、そのもの自身が行う行為…」

「うん」

「昇華させることが可能なのは巫女だけ」

「天音ちゃんがするのを見て覚えればいい?」

「頑張って」

「うん」

志乃はスライムを見てから天音を見た。

「無理」

「大丈夫、信じているから」

「それ何の役にも立たない」

「祈ってあげて」

天音は苦笑交じりにそう伝えた。


志乃はトトッとスライムに近付いた。

指で突っついてみる。

弾かれる。

持ち上げてみる。

逃げられる。

追いかけてみる。

飛び掛かられる。

「もう!」

ドタバタと追いかけて飛び掛かった。

天音は小さく息を吐いた。

「だから祈ってあげてって言ったのに」

半ば諦めたように神楽鈴を持ち直す。

天音は小さく肩を竦めた。

しゃん!

鈴の音が再び響いた。

もう少しお手伝いしますか…と舞い始める。


そして、トンと着地する。

しゃらん!

最後の鈴の音が響いた。

再び鈴が鳴る。

「綺麗すぎるよね」

ポツリと志乃はこぼした。

光が満ちていった。

ホント反則だ。

あんなの見せられたら誰だって見惚れる。

美人で。

優しくて。

おまけに舞まで…

ちょっとくらい欠点があってもいいのに…

ホント恋したいほど完璧な美女だ。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

未完投稿となっているので、最終話まで急ぎ掲載していきます


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