第34話 意外に悪役は同じヤツだったりします…暗躍です!
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
「お母さん…面会は?」
「手続きをしているから、会えるみたい…ただ」
「ただ?」
「状態が落ち着いているようであれば退院してほしいって」
その一言に志乃は唖然とする。
ただその話は志乃の叔母だけではなかった。
他の患者も、熱が収まっている間に退院をほのめかされている。
「どういうこと?」
「判らない。でも、他の人の話では、入院患者の死亡率を下げたいとか」
「でも、同じ症状の場合、ここに向かってくるんでしょう?」
「そう聞いているけど」
「何か聞いたの?」
志乃は母に詰め寄った。
「事務室の方から声が漏れてきて…」
「うん」
「病室が一杯で断ればいいって、何て言ったかな? 支援交付金?とかいうやつが出るまで」
「なにそれ?」
「感染症緊急包括支援交付金…まぁ、パンデミックの頃に問題になった病床確保料みたいな」
何となく騒ぎを眺めていた初老の男が志乃に向かってため息交じりに説明をした。
「助成だけ取って、実際は、病院の都合よく使う、そういうところもあったし…」
「………」
「あ、俺? 南野っていうんだけど、忘れてくれていいよ」
彼はそう言うとニヤリと笑ってみせた。
志乃が怪訝そうな視線を向け、南野は苦笑する。
まぁ、それが普通か…と諦めたような笑みを添えながら続けるかを思案する。
「名前よりも…」
「大事だよ身元の保証にもなるし…まぁ、いいんだけどさ」
「あなたも訊いていたの?」
「まさか、彼女の言葉をフォローしただけ。ちなみに問題になったのは…あ、訊かない?」
「言って」
「病床確保料という空床補償…受け入れ用に空けているベッドが空床になっていれば…」
言葉を区切り、南野は手で口を塞ぐような仕草をした。
「お金がもらえる?」
志乃は食い気味に南野の顔を睨みつけた。
「そう。パンデミックの頃、それで潤った病院も多かったから……まぁ、色々騒がれたよね」
たまたま口を挟んでしまった感がしっかりと広がっていた。
「それって…」
南野は志乃が言いかけるのを首を静かに振って止めた。
入院している人がいるなら事を荒立てない方がいい。
そんな事を感じさせてくれる。
「どうしよう…」
母親の不安そうな表情に志乃は下唇を噛んだ。
南野言っていることは間違えてないのだろう。
何故か、人を騙すような人には見えなかった。
不思議と信用している気がした。
とはいえ、どうにかできる知識があるわけでもない。
「面会の許可が出たら、連絡頂戴」
「…うん。志乃は?」
不安そうに母親から返事があった。
「運転してくれる人を迎えにね」
入ってすぐにある総合受付の前は人だかりになっていた。
見舞い客なのか、患者家族なのか判らない人たちで溢れている。
誰もが不安の中で疲弊していくのが伝わってくる。
充分な説明がないから、どうしても心配になってしまう。
きっと、病院に留まることすら本当は避けたい…そう思う人は少なくないだろう。
そして我慢が途切れてしまう。
受付へ詰め寄る声が響いた。
一人だったはずが、二人、三人と増えていく。
受付前のベンチでは、スマホを握りしめたまま泣いている女性。
何度も同じ説明をしているにも関わらず、呼び止められて説明を繰り返す職員。
その全てが混ざり合い、ロビー全体に重たい熱気を作り出している。
志乃は緊急外来の案内に従って夜間出入口へと向かう。
処置室の横を通りかかると病院の裏手…駐車場に繋がる夜間出入口が騒がしいことに気付いた。
志乃は、様子を見ながら近付いていく。
そこでの出入りができないなら、別の出入口から入ることを考える必要がある。
とはいえ、国道に面したエントランス側の玄関は既に閉められている。
検査室を越えた先にある駐車場への出入り口は開いているのだろうか。
この環境下で、多くの出入口が解放されているとは考えられない。
その騒がしさの後ろを救急車が入ってくる。
救急車のサイレンと赤い光に緊張してしまう。
次の瞬間には、バン!とドアが開き、ストレッチャーが勢いよく入ってくる。
検査室へと走る看護師に転院患者の家族への説明をする職員の姿。
普段なら職員しか出入りしない搬入口は、いまや臨時の対応拠点になっている。
誰もが必死に原因不明という熱病に向き合っている。
その姿に胸がズキンと痛む。
でも、その原因を説明することはできない。
説明したとしても、その裏付けを示すこともできない。
無力という言葉がズシリと圧し掛かってくるような気がした。
どうしよう…スマホのメッセージアプリに着信はない。
車を停めたら、メッセージが来ることになっている。
駐車場の騒ぎが気になる。
そんな中で怒鳴り声だけが妙に響いた。
「だから取れるところから取れと言っているんだ!」
志乃は思わず足を止めた。
搬入口の脇。
職員用通路の前で数人が向かい合っている。
中心にいるのは小柄な老人だった。
禿げ上がった頭を照明が鈍く照らしている。
背中は曲がっているのに妙に威圧的に声を荒げている。
目の前にいる職員たちの貌を覗き込むようにしながら歩き回る。
「解っているのか?」と唾をまき散らしながら怒鳴った。
その動きに『ぬらり』と擬音をつけてしまう。
その姿も、動きも、あの妖怪に似ている。
その擬音が似合いそうな老体だった。
「ですが、患者さんやご家族の移動は病院都合です」
事務局長らしき男性が食い下がる。
「駐車場は無償開放にして、警備員を増員して誘導した方が…」
「誰がその費用を出すんだ?」
言葉尻に重ねるように怒鳴りながら、柴山が委縮する事務長を見て満足気に鼻で笑う。
「病院か? その費用を持つのは? 莫迦かお前は!」
「それは……」
「非常時だからこそ金がいるんだよ」
吐き捨てるような声で浴びせかける。
周囲の職員が顔を伏せていた。
「転院だろうが退院だろうが車を置くんだから駐車料金は払って当然だろう」
「しかし現在は混乱していて」
「だから?」
柴山は言葉を遮った。
「理事会で決まったことだ」
決まっていない。
その場にいる誰もがそういう顔をした。
物理的にそれを決定できるわけがなかった。
隠蔽していた院内感染をすっぱ抜かれているのだから。
でも口には出さない。
柴山は一歩前へ出た。
「それとも理事の指示に従えないのか?」
事務局長の顔が引きつる。
「そういう話ではありません。責任は誰がとるんですか?」
「そんなものは、儲ければ立ち消えるんだよ」
低い声だった。
醜悪に顔が歪んでいた。
これ以上、こいつと話していても埒が明かない。
解決にも繋がらない。
「次の更新がどうなるかくらい理解できるよな?」
空気が凍った。
その発言が何を意味しているのか、然も当たり前の権利のように脅迫をする。
パワハラ…モラハラ…ハラスメントのオンパレードになっていく。
誰もが分かる。
それでも誰も言わない。
言えない。
柴山は満足そうに頷いた。
「分かればいい」
そう言って踵を返す。
職員たちの顔には疲労と諦めが浮かんでいた。
志乃は無意識に拳を握る。
気が付けばスマホで動画を撮っていた。
でも、撮らずにはいられなかった。
この画像が使えるかどうかは…彼ら次第だ。
紘一に頼んでも、同じような答えが返ってくる気がする。
闘う人が居なければ周りの用意する証拠は何の意味も持てない、と。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います
未完投稿となっているので、最終話まで急ぎ掲載していきます




