第33話 欲も過ぎたら…迷惑を膨らませます!
※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・医療機関・地名・制度・報道内容・感染症等はすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、作中に描かれる医療対応・行政措置・報道表現等は物語上の演出を含み、実際の法令・運用・対応手順とは異なる場合があります。
誰かが何かを始める。
最初にそこにあるのは…純粋な無垢な思い。
動機は別にして、本当に単純な思いから始まる。
病院という存在は、特にそれだと思う。
助けたい…その思いは、クライアント側にもコントラクター側にもある。
対象になるのは、その中心にいる患者なのに…
その両側で感情が動く。
理屈ではない感情が『助けたい』と純真な気持ちのまま動いていく。
それが歪んでいくというのを取り上げた。
その取材は、一方では成立し、一方で邪魔をされる。
同じ事柄…それでも見る面によっては意味が変わる。
思想があれば、理想があるのも普通のことで、それが切っ掛けで対立が生まれる。
そう言うのも珍しくないものだと理解している。
政党にしてもそうだ。
無所属が絡んでこないのに、党員として圧力をかけてくる一般市民もいる。
まるで虎の威を借りる…のように。
俗にいう利権の下で、行動をしている。他人のふんどしで。
そういうものを、紘一は何度も記事にしてきた。
誰かの正義。
誰かの理想。
誰かを守るために作られた仕組み。
最初は、きっと間違っていなかったはずなのに…
でも、その思想に、理想に関わる人が増えれば思いは…どうしても混ざる。
そこに金が動く。
綺麗な金が、金を呼び膨らんでいくと立場が生まれる。
責任が生まれる。
そして、守るために作られた仕組みは、いつしか自分自身を守り始める。
それが悪いとは思わない。
組織なら当然だ。
町内会も。
自治会も。
政党も。
大きくなれば、みんな同じだ。
ただ、その中には必ず混ざる。
虎の威を借る狐みたいな人間が。
いや…鼠男の方が近いかもしれない。
別に妖怪が悪さをするとも思わない。
ただその象徴のように描かれているせいだ。
紘一は苦笑した。
もし本当に妖怪みたいに姿へ変わってくれるのなら楽なのに。
いや、そう変貌する人もいるようだ。
心の鏡は意外に肉体なのだろう。
そう思うことが、取材を続けていると時々ある。
この際だから、神力の影響で心のやましい者はそう変化すればいいのに。
そうなれば、間に合わないときに、罪悪感の欠片のひとつもなくなるかもしれない。
少なくとも、間に合わなかったことを志乃が気に病む必要はなかったはずだ。
悪意には悪意に合った…
欲深い者には欲深さに合った…
そんな姿になれば…と、紘一は溜息を零した。
私利私欲のために誰かを騙すことを平然とする者は…
きっと失敗を誰かのせいにできる。
誰かの成功を自分のものにできる。
そういう能力を持っているのかもしれない。
そんなことを考えていると駐車場で騒ぎが起きた。
早く病院にいれろ!と誰かが叫んでいる。
その思いが分からない訳ではないが…待てばいいのにと思ってしまう。
「時間は有限だからな」
龍騎がコンソールの上に立ち上がり呟いた。
「どういう意味だ?」
「寿命というものだ…欲にまみれた者ほど急ぐ」
「?」
「手に入れたものを見せびらかす時間が減るからだ」
龍騎に同調するように天音が頷いた。
「そっか」
紘一はシートに背を預けながら空を見上げた。
月が小さく存在していた。
自分のちっぽけさを何となく感じてしまう。
気付けることなのに見つけることができない答えをポロっと出される。
悪くはないが…何となく気持ちが悪い。
龍騎の理屈に照らせば病院でも同じことが言える。
紘一は、そんな現場を何度も見てきた。
だからこそ、正義という言葉を簡単には信用していない。
正しいことを口にする人間ほど、自分を正しい側へ置きたがる。
本当に危ういのは、悪意よりも…
『自分は間違っていない』と思い込んだ善意の方だ。
世間を騒がせている今回の隔離騒動も、きっと似たようなものなのだろう。
少なくともいまはそう信じたい。
そうでなければ、真摯に原因不明に向き合う現場の人たちが可哀そうだ。
騒ぎの収束を諦めたように、有料駐車場のゲートが解放された。
「この期に及んで駐車料金を設けようとするのか!」
そんな声が飛び交いだした。
一律徴収を言い出し火に油を注いでいるのだろう。
そこに見覚えのある人影を見つけてしまう。
「責任者を読んで来い!」
怒声が次々に跳ねるように挙がっていく。
(アイツは…)
「どうした?」
目敏く龍騎が声をかけてくる。
「いや、あの病院の勝手口…」
「おう」
「緊急外来受付も兼ねているんだけど、発熱患者の受付でな…あそこで患者…」
言いかけて紘一は苦笑する。
そんな説明はいらない。
「そこで、色々と指示をしている禿散らかした男」
「アイツだな…ん?」
「どうかしたのか?」
「写真とかいうヤツを使ってくれ」
「…肖像権とか言われるんだよな」
苦笑しながら紘一はカメラを手にした。
病院の勝手口へと向ける。
カメラ越しに見ても偉そうに指示を出している男を捉える。
「柴山…だな」
「ん?」
「いや、これだ」
つくづく便利な世の中だと感心する。
いま撮った写真をモニターで見ることができる。
「こいつをアップしてくれ」
と、タヌキの手で言われてもどこを差されているのかが分からない。
確率は3分の1だ。
その写真に写っているのは3人だ。
「あ~その妖怪みたいな奴だ」
「…妖怪に怒られるぞ」
「神様なのに?」
龍騎が首を傾げた。
「神様だからと言ってすべて許されたら秩序はどうなる?」
「だからオリンポスで混乱が起きただろう」
龍騎はどや顔で反論する。
「? ギリシア神話?」
「火の無い処に煙は立たん」
「言い切りましたね。龍騎くん」
「お前こそ罰当たれって、それはそうと…その妖怪を拡大だ」
「はいはい」
紘一は、モニター上で指示を出している男を拡大した。
「と、何か説明するみたいだな」
紘一はカメラを置いて、パーキングブレーキをかけた。
車を降りて人だかりの方に紘一は向かった。
先頭の車両が駐車場入り口で止まった以上、中に入るまで少しかかるのだろう。
ほぼ押し問答のようになりながら警備員が病院建物へと下がっていっている。
「ただいま病院内も混乱しています」
と声を張り上げながら柴山が叫んでいる。
要は自分は病院の理事だから話を確認してくるから時間を欲しいということだった。
事の発端は、病院側が駐車場利用者から一律千円を徴収すると決めたことだった。
病院の都合で転院や退院を余儀なくされているのに…
そんな苛立ちが募っているのは明白なのに。
その上で金を徴収するという火に油を注ぐ暴挙ともいえる行動。
我慢の限界を超え耐え忍んでいるということが理解できていないのか。
騒ぎも収まらないのに、言うだけ言って下がっていく。
中に入る方法はあるが、さすがにこの状況で車を離れるわけにはいかない。
柴山がどう立ち回るのか確認したいところだが…諦めるしかない。
…龍騎を投げ込むか。
あとで志乃に回収してもらう手もある。
車のダッシュボードによじ登り、こちらを見ているタヌキを見てそう思った瞬間。
龍騎はさっと内側にダイブした。
ちっ!
勘がいいよな…まったく…
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
今回、チャレンジ企画に挑戦!です
よろしければお付き合い願えればと思います
未完投稿となっているので、最終話まで急ぎ掲載していきます




