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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第30話 善意も悪意も 無垢な力を前にすれば取り込みますか?

京滋バイパスへ入る頃には、空は完全に夜へと沈んでいた。

フロントガラスの向こうを、白いヘッドライトの列が流れていく。

紘一は小さく欠伸を噛み殺した。

さすがに疲れている。

竹生島へ渡ってから、まともに気が休まる時間が無かった…ということにしたい。

助手席では、志乃が静かに窓の外を眺めている。

膝の上には、小さな白狸……天音。

カメラバッグの上では龍騎が胡坐をかくみたいに座っていた。

「外界の夜は明るいな」

「島と比べると…そうなのかもな、都心へと比べるとまだ暗いかもな」

「ほう」

妙に感心した声を漏らす。

そんなやり取りを天音は落ち着かない様子で眺めていた。

いや…落ちつけないのは、自分よりも志乃の方だと感じている。

本当は少し落ち着いてから祓いをしてもらうつもりでいた。

まさか、かち合うことになるとは考えてもいなかった。

事態は、天音たちが思うよりも深刻なのかもしれない。

そうだとしたら、志乃にかかる負担は…耐えきれるのだろうか。

『考えるな』

『龍騎…』

『俺たちは、仮に力を借りているだけに過ぎない』

『そうだとしても』

『巫女の血を引き継いでいるとしても、志乃はその修行をしていない…たぶん…』

『何よ』

『叔母を救うまでが…勝負になる』

『…歯痒いよね』

天音は溜息を吐きながら、志乃の顔を見上げた。


龍騎は溜息をひとつ零した。

万能であれば、こんな苦労を掛ける必要も無いのに…

人の世に干渉するにはびっくりするほど制限がある。

その理由も解っている。

龍騎自身は菩薩でありながら、菩薩には成れていない。

神仏の存在は、その存在を誰かが認識して初めて生まれる。

確かにそこに居るのに、その存在がない。

それが普通過ぎて何も思っていなかった。

よもや自分が関与することになると考えてもいなかったら不便も無かった。

生まれたときから竹生島にいた。

珠姫に見つけてもらって色々なことを教わり、自分が菩薩位の存在だと知った。

玄李が面倒くさそうに相手してくれたのもいい思い出だ。

何もかも初めて…そのために困った顔をしていただけと知ったときは笑った。

二柱は黒龍として上位の存在であるにもかかわらず、普通に兄弟のように接してくれた。

そのおかげで不在時の留守番程度はできるようになったのだと思う。

島の外への出方も教わった。

見聞きする全てのものが新鮮で…その事を二柱にも味わってほしかった。

だから、不在時の留守番が認めてもらいたくて頑張れたのだと思う。

でも、それが…

悪意を前に実体化できない自分にはどうすることもできなかった。

実態をもって、島を出るにしても依り代がいる。

取り込んだ宝珠はぬいぐるみの中で融合を終えてしまった。

思った以上に宝珠を喰った。

それだけ、自分に与えられている神力が大きいということなのだろう。

それなのに…いまの自分には、何もできる事がない。

あるのは玄李や珠姫の代わりに必要なことを必要なときに伝えるだけしか…

天音がトンと横に立った。

頭を撫でてくれる。

龍騎は少しだけ目を細めた。

天音もまた、歴代の巫女たちの思念の欠片が寄り集まり、意識を持った存在だった。

いつの間にか、次代の巫女にその与えられている力を引き出す役割を担うようになっていた。

その葛藤を、龍騎はずっと見てきた。

何も言えず。

ただ、傍にいることしかできなかった。

悩み。

苦しみ。

自分という存在を探し続ける日々。

見ているだけでも辛かった。

でも、それを乗り越えて、彼女は、『天音』という存在になった。

珠姫によれば、天音の核になったのは歴代の巫女たちが残した愉しい記憶。

だからなのかもしれない。

姿を得ても、天音の身体が成長しないのは。

その先の記憶が…思念の中に存在していない。

幸せだった時間。

誰かを好きになった時間。

笑って過ごした時間。

巫女としてこの地に来る彼女たちの想いは確かにこの地に残った。

無事に役目を終えて、いるべき世界へと戻るとき、残してしまう憧れも。

彼女たちが強く想うほど、記憶の欠片は…純粋だからこそ残る。

最後の巫女を見送ったのはいつだっただろうか…

ふと龍騎は思った。

いまも祈りは…定期的に捧げられている。

形だけなら、昔よりずっと多いのかもしれない。

社にも人が訪れる。

手を合わせ、願いを口にする。

ときには涙を流しながら縋る者もいる。

礼に訪れるものもいる。

でも…届ける願いは減った。

便利になった世界では、祈りは最後に選ばれるものへ変わったのかもしれない。

誰かに叶えてもらう願い。

救ってもらう願い。

そういうものは増えた。

それでも、自分を削るように誰かを願う祈りは…

だから巫女の血は薄まっている。

いや、少し違う。

巫女の力を受け継ぐ血が薄まっている。

それは、本当の巫女を必要としなくなったからもしれない。

志乃は血筋ではあっても巫女ではない。

それでも、その血に頼らざるを得ない。

大切なものを護るためには…

だから天音は、志乃を見てしまう。

次代でもないのに、昇華を祈る存在として選ばれた…

偶然なのか、必然なのか、それとも当然なのかは別にして…道標である天音が選んだ。

その結果、自分と同じように悩み、苦しみ、立ち止まろうとしているその姿に心を痛めている。

だから…放っておけるはずがなかった。

いまの自分を気遣うように…

龍騎は、天音を抱きしめた。

「なっ」

天音は真っ赤になり、龍騎は慌てて離れて背を向けた。

いま自分がタヌキのぬいぐるみであることに感謝しながら。


そんなやり取りが助手席のモニターに映ってる。

それを見て、ふっと志乃は笑った。

タヌキのぬいぐるみのコメディ。

何を話しているのかは知らないけれど、胸の奥がポッと熱くなる。


赤いリボンが小さく揺れ。、ルームミラーに写った。

「どうした?」

紘一がルームミラー越しに声を掛ける。

「……少し、ざわざわする」

龍騎が耳を伏せた。

その言葉に、志乃が小さく視線を落とした。

自分も感じている。

竹生島で感じたものとは違う。

PAで感じたものとも違う。

もっと重く、湿ったような空気。

何かが淀んでいる。

そんな嫌な感覚だった。

「気のせいならいいけどな」

紘一はハンドルを握り直した。

そのときだった。

龍騎と天音が同時に顔を上げた。

空気が変わる。

車内へ、生温い風みたいなものが流れ込んだ。

「紘一!」

龍騎の声が低くなる。

その瞬間。

志乃の右腕に鳥肌が立った。

「な、なに……?」

寝屋川北出口の表記が流れる。

「あの車…」

志乃の視線が一台のセダンを見た。

禍々しい黒い靄を後部にまとっている。

「龍騎?」

「……」

「おい! 龍騎!!」

龍騎は息を呑んだ。

正直、回収すべき神力だ。

でも、完全に暴走している力を吸い取らせるには…

紘一の身体が耐えられるか定かでなさ過ぎた。

それに、さっきの神力とは異質のもの…悪意の方が強い。

推測に過ぎないが、さっきのPAで悪意が触れたのだろう。

天音も返事をためらっている。

「天音ちゃん、お願い」

志乃の声に龍騎は目をギュッと閉じた。

「助けてやってくれ…でも、無理はするな」

「無理って?」

紘一は急ハンドルを切って出口へと車を滑り込ませた。


「志乃…あまりお勧めはしない」

「えっ」

「あれは悪意を食べての暴走…まき散らしている方なの」

天音は静かに言葉を選んだ。

助ける必要はあるとは思えない。

二人の命を危険に晒してまで、する価値はないと思ってしまう。


セダンはゲートバーを弾くようにして一般道へと躍り出た。

住宅街へとタイヤを軋ませながら、信号を無視して走っていく。

ガシュッ!

鈍い音が響き、パーツが飛び散った。

前を走る車の脇を抜けようとぶつかっていく。

「何が起きている?」

「わからん」

龍騎はダッシュボードの上にいつの間にか載っていた。

理由はわからなくても起きていることはわかる。

残念だが、自分を見失っての行動だ。

神力に飲み込まれたのは…人か、それとも、その内に秘めたる悪意か…

純粋であるがゆえに神力は反応して力を分ける。

そこに善悪は関係がない。

無垢な力ゆえに…諸刃となり、ときに神仏は涙することになる。

ガッシュッ!

ガシャッ!

ガン!

音だけが響き、次々に車が路肩によって止まっていく。

その横を抜けるだけで被害の大きさに呆れたくなる。

その先頭で、歩道に半分車体を乗り上げガードレールを押しつぶすセダンを見つけた。

「祓えるか?」

龍騎の声は半ば諦めにも感じられた。

「目立たないようにしたいね」

「それなら事故の電話を掛けるわ…助け出す振りすれば」

志乃の提案に紘一は頷いた。


志乃は交通事故の発見者を装い警察に電話を掛けた。

その肩で天音が見守っている。


紘一はスマホで車の状況を写真に収めてから近付いた。

車の後部から漏れる黒い靄に右手を触れさせる。

龍の赤い目が輝き、黒い靄の中を泳いでいく。

その間に、道路で倒れている学生に駆け寄った。

突然、目の前に飛び込んできた車を避けようとして花壇の中に突っ込んだようだ。

「大丈夫か?」

何故か龍騎が声をかけ、少女を蒼褪めさせた。

「うそ…こんなにキュートなのに…」

倒れている自転車のタイヤに手をついて何気に落ち込むところがうざい。

「大丈夫? 痛いところはない?」

「…あ、はい、擦り傷だけみたいです」

「そう、もうすぐ救急車も来るから…ここにいた方がいいと思うよ」

紘一は何事もなかったようにそう告げると志乃の方へと駆け寄った。

その後を慌てて龍騎が追いかける。

「ひっ…」

少女の零す声は無視することしかできなかった。


「志乃」

「う、うん」

気付けば、自然に動いていた。

天音との邂逅を思い返す。

手順はさっきと同じだ。

違うのは紘一の手には龍の指輪は戻っていない。

掌に円状になった龍を、紘一と手を繋ぐようにして包み込む。

その瞬間だった。

ふわり、と。

白い光みたいな粒子が風に混ざる。

ざわついていた空気が、一瞬だけ静かになった。

近くに淀んでいた黒い靄が、煙みたいに薄れていく。

「お疲れさま…」

志乃が呟く。

龍騎が小さく鼻を鳴らした。

「小さい穢れか…膨らんだだけのようだな…」

それでもまだ黒い靄すべては消えていない。

紘一は、ゴクリと喉を鳴らして車に近づいた。

救助するかのように後部ドアを開ける。

車の中の惨事に一瞬目を逸らしそうになった。

でも…

朦朧としている男性の首元に手を差し出す。

手を開くと龍がまた靄の中へと飛び込んでいった。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

未完投稿となっているので、最終話まで急ぎ掲載していきます


☆作品テンポの関係で30分後に次の話をUPします

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