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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第26話 神様って意外に… ラッキーって思わせてくれてもいいのに…

「なぁ、紘一ちょっと頼みがある」

カメラバックの上で寝ころんでいた龍騎が体を起こした。

でも、ポテンと寝てしまう。

「腰ないからか」

紘一が苦笑をした。

「もう少しマシな依り代はなかったのか」

「それを言ったら、天音ちゃんに怒られるよ」

紘一は志乃の動きに合わせて龍神拝所へと足を向けた。

「それで、龍騎の頼みって」

「あ、このリボン…何とかしてくれ。話し難い」

「…じゃあ」と紘一はリボンをオデコに巻いた。

酔っ払いサラリーマンが鉢巻きにするように。

「お。まぁいいだろう」

鉢巻きをペタペタと触れながら満足そうにする龍騎を見て天音が肩を震わせる。

「威厳が消えましたね」

「うるさい」

「十分かわいいよ?」

志乃が思わず吹き出す。

さっきまで命がどうとか、不老がどうとか話していた存在とは思えない。

でも、そのくだらなさが少しだけ心を軽くしてくれた。

「折角だ。かわらけしてみたらどうだ?」

「願いか…」

紘一は鞄をテーブルの上に乗せた。

志乃に声をかけてかわらけを購入する。


酒杯状の土器にペンで名前を書く。

願いを書く。

そしてそれを、琵琶湖へ向かって、沖の鳥居をくぐらせるように投げる。

これだけだと簡単だ。

説明だけなら簡単だ。

「絶対、届かない気がする……」

志乃は苦笑しながらペンを回した。

でも、その横顔は少しだけ柔らかい。

さっきまで怯えと不安で張りつめていた空気が、ほんの少しだけ緩んでいる。

風が吹く。

湖の匂いがした。

紘一は、そんな志乃の様子を何となく写真に収めた。

今しかない表情な気がしたからだ。

いや、仕事で使えるかもしれないから。


「まずは見本ね」

志乃の胸ポケットから、んしょ、と天音が這い出した。

ぽんと飛んで、手すりの木の柵の上に乗る。

ぽてぽてとその木の柵を歩いていく。

丸い腹が揺れるたびに、ぬいぐるみ感が凄い。

「そこ普通に歩けるんだ……」

(巫女を何だと思っているの…できるに決まっているでしょ)

とは思っても口には出さない。

天音は小さく胸を張ると、かわらけを両手で抱えた。

しかし…

腕が短い。

どう持っても不安定だった。

見ている方が不安になる。

「落ちる落ちる……」

「大丈夫」

そう言いながら、天音は身体ごと後ろへ反らした。

ぬいぐるみ特有の勢いだけで投げる。

投げたつもりだった。

身体を逸らせた瞬間、ポロリとおちたかわらけは志乃の手の平に受け止められていた。

「どう? いい感じでしょ」

「………」

「これどうぞ…」

苦笑しながら紘一が落ちていたかわらけの欠片を天音に渡した。

じっと紘一を見る天音。

「サイズ感的にね」

「それもそうね…見ていてよ」

天音はもう一度…と思って、身体を捩じることにした。

「こういうのは、勢いもいるからね」

体を捻りに捻った反動で投げるのに成功する!

ふわっ。

かわらけの欠片は頼りない軌道で飛び、鳥居を抜けて湖へ落ちた。

「どう?」

「…届くんだ」

「風が味方してくれているから」

「ずる?」

「運と言って」

天音は腰に手を当てて胸を張って見せた。

志乃がクスッと笑った。

「結果が全てです!」

得意げである。

すると、カメラバッグの上で寝転がっていた龍騎がむくりと起き上がった。

「甘いな」

「え?」

「こういうものはこうだ!」

龍騎は前脚…腕でかわらけを抱えた。

だが、勢いよく構えた瞬間…ころん…後ろへ転がった。

「ぶふっ」

志乃が吹き出す。

「今のは違う! 依り代の問題だ!」

「タヌキなのに無理するから……」

「うるさい!」

龍騎は鉢巻きを揺らしながら再び起き上がる。

今度は妙に真剣な顔をしている。

表情はちっとも変わらないのに。

脚を踏ん張り、身体ごとひねる。

そして…ぽーん。

意外なほど綺麗な軌道で、かわらけが鳥居を抜けた。

「ふっ」

「ちょっとドヤ顔してる……」

「当然だ」

でも、その直後。

龍騎はバランスを崩し、そのままカメラバッグから転げ落ちた。

ぽて。

「威厳……」

「あとで覚えてろ」

天音が、くすくす笑っていた。


紘一はそのやり取りを楽しそうに眺めていた。

一応、写真にとっておいた。

どう考えても、CG扱いされるが…

タヌキのぬいぐるみがかわらけ投げをする。

あれ…。

ぬいぐるみ姿とはいえ、神様と巫女が真剣にかわらけ投げをしたが願いは叶うのか。

そもそも、名前も願いも書いていないが…ただ遊びたかっただけか?

どちらにしても、竹生島の歴史を知る人からすれば罰当たりな行為ではないだろうな。

急に怖くなる。

もっとも、本人たちが至って真面目そうだからいいのだが。

仕事としてみておくのなら…


かわらけ投げは、竹生島でも有名な願掛けのひとつだ。

素焼きの小皿へ願いを書き、湖へ向かって投げる。

三投のうち、一枚でも鳥居をくぐれば願いが叶う。

そんな言い伝えになっている。

簡単そうに見えて、これがしてみると意外に難しい。

届くのなら良いのだが、その手前に落ちるのも普通だ。

実際にやってみるとわかるが、鳥居を通すのが案外難しい。

湖から吹き上げる風は気まぐれで、少し力を入れすぎるだけで軌道がぶれる。

逆に弱すぎれば、途中で失速して落ちてしまう。

だからこそ、人は真剣に取り組むのだろう。

願いを乗せた一投にかける思い。

自然と力が入るのかもしれない。

タヌキが投げて届くのだから…ここは駄目だな。

投げる人だけではない。

見ている人たちにも力が入る。

それだけ鳥居を潜らせるのは難しい。

うまく通ると自分のことのように見ている人も喜んでくれる。


紘一は、そんなことを思いながら志乃の横に立った。

「先に投げてもいい?」

「もちろん。でも、何か理由でも」

「鳥居をくぐった後に投げて外したら恥ずかししい」

志乃は舌をぺろっと出して笑った。

さっきまで深刻な顔をしていたとは思えない。

でも、その無理に作った明るさが少しだけ胸に突き刺さる。

「じゃあ、一投目」

志乃はかわらけを指先で軽く回しながら湖へ向き直った。

風を読むように目を細める。

その横顔を見て、紘一は少し意外に思った。

構えに迷いがない。

ふわり――。

投げられたかわらけは風に乗るように弧を描いた。

白い軌道が、吸い込まれるみたいに鳥居の中心を抜ける。

ぱしゃん。

「えっ」

志乃が自分で驚いている。

「ほう」

龍騎が小さく唸った。

「まぐれだよ、まぐれ」

そう言いながら、志乃は二枚目を持つ。

今度は少し力を抜いた。

手首だけで放るような投げ方。

かわらけは横風に揺れながら、それでも真っ直ぐ鳥居へ吸い込まれていく。

二投目も、綺麗に抜けた。

「うそ……」

今度は周囲の観光客までざわついた。

「すご」

「初めて見た……2連続とか」

そんな声まで聞こえてくる。

志乃は困ったように紘一を振り返った。

「プレッシャーなんだけど……」

「もう外した方が難しい流れだな」

紘一が笑う。

「意地悪ですよね」

志乃は頬を膨らませながら三投目。

湖から吹き上げる風が黒髪を揺らす。

そして……投げた。

今度の軌道は、今までで一番綺麗だった。

迷いなく。

ぶれることなく。

白いかわらけは鳥居の中心を抜け、そのまま湖へ消えていく。

一瞬、周囲が静まり返った。

そのあと遅れて感嘆の声が広がる。

完璧だった。

「やはり、そういうことか」

龍騎が小さく呟く。

天音も、静かに志乃を見上げていた。

ただの偶然ではない…そんな眼差しで。


この歓声の中でなげる? 無理だろう…

紘一は静かにカメラバッグの紐を掴んだ。

「どこに行く気だ?」

「さすがに恥かくだけだろう」

「何事も挑戦しないと難しさがわからんぞ」

「そ、それは…」

「どうぞ」

志乃が場所を開けて手を大きく振って琵琶湖を示した。

もう止めておくという選択肢はない。

周りのギャラリーたちが期待のまなざしを向けてきている。

貴方たちが僕の何を知っているんだ!と言ってみたくなる。

でも、それは、みっともないので止めておく。

紘一は苦笑しながら、最初の一枚を指先で弄んだ。

「圧倒的に負けた気がする」

「まだ投げてないじゃないですか」

「いや、流れ的に」

そう言いながら肩を回す。

そして軽く助走をつけるみたいに一歩踏み出して、かわらけを放った。

軌道は悪くなかった。

むしろ綺麗だった。

鳥居の中心へ真っ直ぐ吸い込まれていく。

見ている誰もがそう思った。

そう見えた瞬間。

ふっ、と。

突然かわらけが横へ流れた。

まるで見えない何かに叩かれたみたいに。

そのまま湖へ落ちる。

「……おい」

紘一は真顔で龍騎を見た。

タヌキは知らん顔でそっぽを向いている。

「残念だったな」

「お前だろ」

「つまらん」

龍騎はニヤリと笑う。

ぬいぐるみなので変化はないが。

絶対にこいつだ。

紘一は確信した。


二投目。

今度は少し強めに投げる。

鳥居へ一直線。

綺麗に真ん中を飛んでいく。

「よし!」

誰かが力を込めた声とともにガッツポーズをする。

それなのに、鳥居の手前で、かわらけがぴょんっと上へ跳ねた。

「は?」

ありえない軌道だった。

ほぼ90度で上がった。

そういえば…さっきもほぼ90度で左に曲がった。

そのまま鳥居の上を越えて飛んでいく。

志乃が吹き出す。

「今の何?」

「跳ねたな」

「跳ねるか! もっと分からない邪魔をしろ」

紘一は龍騎を睨みつけた。

タヌキは腹を抱えて笑っているようにしか見えない。


そして三投目。

「もう…くそっ」

半ばやけくそだった。

投げたかわらけは勢いよく飛び…

カンッ。

左の鳥居の足にぶつかった。

そのままの勢いで間を抜けようとする。

今度こそ、だれもが思った。

カンッ。

右の足に当たった。

そのまま真下へ落ちる。

一拍遅れて、周囲から笑い声が漏れた。

志乃はもう堪えきれずにしゃがみ込んでいる。

「ひどい……っ」

「笑いすぎだろ」

「いやぁ、見事だったぞ」

龍騎は満足げに頷いた。

紘一はじとっと目を細める。

「お前、絶対やっただろ」

「するかよ、ここは龍の領域だぞ、その前に弁財天さんだけど」

悪びれもなく龍騎は言った。

一拍間を開けて溜息交じりに紘一を見た。

「願いなんぞ、神には聞き入れてもらえるわけないだろう」

「は?」

「願いをされている側なんだから当然だ…叶えられたら驚くだろう」

「それって…俺に得はないのでは?」

龍騎はぽてっと寝転がりながら鼻を鳴らす。

「性格悪いな……」

「そもそも、『金持ちになれますように』と『本が売れますように』と…」

そこで言葉を区切り、龍騎は志乃の方を見た。

「『志乃の叔母さんが回復するように』…どれも無理だろう」

「紘一さん」

「あ、いや…お前デリカシーないな」

「黒龍の問題を解決すれば、叔母さんのは解決。本出してないのに売れるか!」

「わぁ~これから出るかもしれないぞ」

「だったらその後に頼め、本って何だ?ってなるぞ。あと働け、金が入る」

「酷っ」

「他力本願は勝手だが、自分が動かないやつに、手助けはない」

紘一は、鼻先を親指で弾いた、

その通りだと思う。

だから神頼みをした記憶がない。

自分の努力で手繰り寄せることができるから。

紘一は、カメラバックを肩に掛けなおした。


それでも…自分の力で『志乃の叔母さんが回復しますように』を鳥居にぶつけやがった。

同じように突風が吹いたのに…それを無視してぶつけた。

龍騎はふて腐れた顔で港へと向かい始めた紘一を見て苦笑した。

水の神様が、頼み事に集中しろと言わんばかりに風を使ったのに、自分で手繰り寄せやがった、と。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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