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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第24話 受け入れないと話してくれないのは…何故ですか?

紘一は本殿まで上がると社額を見上げてから振り返った。

階段の中腹辺り、通りの邪魔にならないように端で志乃は紘一の方へと視線を向けている。

正確には、そこにいる白い影…どちらかといえば透明になりつつある靄?へと。


昔、この島では龍へ願いを届ける巫女が舞を捧げたという。

それは神楽とも、能とも違う。

もっと自然であり、本能に近いものとされている。

そこに受け継がれるのは心の在り方。

それが、時を隔て、舞へと変わったとされている。

ただこの地で捧げられる舞にはある種の覚悟があるのだろう。

いまでこそ30分の船旅。

その昔は、どれだけの時間をかけて、どれだけの人力をかけて辿りつけたのだろう。

大地から橋を架ければよいという話でもないから、いまだに橋はないのだろう。

真意は確認できていないが、龍神拝所…そこが捧げる舞台だったのかもしれない。

神社本殿にも舞台は存在しているから、こちらの可能性もあるのだが…

どちらにせよ、覚悟を決めて湖を渡り、舞を奉納する。

人身御供のようなものだったのかもしれない。

無事にたどり着いたからと言って、無事に戻れる保証はないのだから。

紘一は階段を椅子にするかのように腰を下ろした。

人が容易に近づけない場所だからこそ、この地は尊むべき聖地だったのかもしれない。

湖へ向けて舞うのは…

そこに音をつけたのならその楽団の演奏も…

すべては龍神を迎えるためのもの。

龍は、自ら人前へ姿を現すことは少ない。

だから巫女が呼ぶ。

風を鎮め。

水を鎮め。

人の願いを捧げ。

そして、龍へ祈願する。

竹生島に残る能楽曲は、その名残なのだろう。

そして、いま、()()は志乃を呼んでいる。

…あれ…どうして巫女ってわかったんだ…

『いい加減受け入れろって』

不意に横から届く声に紘一はそっちを見た。

相変わらず誰もいない。


志乃は、ゆっくりと石段を上がった。

足音が妙に響く気がした。

胸が煩いほど騒いでいる。

階段の向こうに、上に紘一がいることだけが救いだった。

さっきまで聞こえていた観光客の声が、少し遠くなっていた。

風が横を抜けると一瞬静寂の中に包まれた。

白い影は、石段の上で静かに揺れていた。

蜃気楼みたいに輪郭が曖昧なのに、不思議とそこにいると分かってしまう。

志乃は喉を鳴らした。

怖い。

でも、目を逸らしてはいけない気がした。

一段。

また一段。

石段を上がるたびに、空気が静かになっていく。

そして…白い影は輪郭を帯び、ゆっくりと人の形を結び始めた。

そのあと透明へとなった。

それなのに志乃には、はっきりとした少女の姿に見えた。

長い黒髪はふくらはぎまで伸びている。

枝毛が無さそうなのも、キューティクルいっぱいに輝いているのも羨ましい。

手入れが大変だろうな…と余計なことを考えていると見えていなかったものが…

はっきりと形を成していく。

玄李と出会ったときのように。

白い小袖が、湖から吹き上げる風に揺れる。

年齢は分からないが、見かけ、全然自分よりも若い。

彼女は微笑みを浮かべ、すっと手を伸ばしてくれた。

17~18歳くらいだろうか。

ただ自分よりも落ち着いている。

その手を自然に握ってしまった。


「やっと…声が届くかな?」

その声は、耳ではなく胸の奥へ直接落ちてくるみたいだった。

志乃が息を呑む。

でも怖くて目をギュッと瞑ってしまう。

その瞬間だった。

世界が一気に光に包まれた。

驚いて周りを見た。

そこには何もない。

ただふわんと浮かんでいる感覚だけがあった。

手を伸ばせば触れることのできる距離に少女がいる。

白い袖がほどけるように崩れ、少女の姿が淡い光へと変わっていく。

「え……?」

声を漏らした時には、もう姿は半分ほど透けていた。

消える。

そう思った。

けれど少女は困ったように微笑んだ。

「まだ駄目…器が耐えられない」

「器?」

「依り代になる物はある?」

えっ?と志乃は自分の身体を触った。

その次の瞬間、志乃は石段の上に一人立っていた。

その呆然とする顔に紘一は「大丈夫?」と声をかけた。

「あ、うん、私は」

「?」

「依り代がいるの」


「依り代?」

『それでいいぞ』

声が紘一の鞄を指さしていた。

いや見えていない。気がした。

半信半疑にカメラバッグを開けるとお土産用に買った袋が無造作にあった。

中身は、葉月と美里に買った信楽焼タヌキのぬいぐるみ。

「これ?」

『そう…それとそれ』

「こっちも?」

紘一は声に従って宝厳寺で買った腕輪数珠の箱を手にした。

『そんなにいらないから、ひとつでいいぞ』

「水晶?」

『そう』

「罰当たらない?」

『俺を無視していることで罰しか当たらない気がするが…』

「おい!」

と突っ込みを入れるために横を向いた瞬間、男が座っていた。

いつからそこにいたのかわからない。

男だと思う。

男にも女にも見える、不思議な顔立ちだった。

白衣を纏った長身のそれが、腕を組んだままニヤリと笑った。

湖から吹き上げる風が、長い黒髪を静かに揺らした。

黒髪は無造作に流れているのに不思議と乱れてない。

切れ長の瞳には人を試すような静かな光が宿っているようにも感じられる。

整った顔立ちは冷たく見えるはずなのに…

ふと口元だけで笑うと妙に色気がある。

目を離した瞬間、そこにいた輪郭を忘れてしまいそうになる。

それなのに、視線だけは異様に強かった。

見られている。

ただそれだけで、背筋が冷える。

若く見えるのに、妙に古い空気を纏っていた。

人というより…たぶん…そうなのだろう。

男は小さく息を吐く。

『やっと認識…っておい』

その声だけが、不思議なくらい耳の奥へ残った。

『まぁ、こっちは後でいいとして、向こうが困るから早くしてやれ』

「あ、はいはい」

紘一は、タヌキに水晶をひとつ首輪のようにつけた。

「これしかないけど」と軽く山なりに投げた。

『落としたら罰当たるな』

「えっ?」

「ようやく、目を合わせたな」


志乃が落ちてきたぬいぐるみを手にした瞬間、また志乃は光の中にいた。

「あの、これ」

「ありがとう」

少女は微笑んだ。

そのままタヌキを手に取ると自分の胸もとに抱くようにして持ち直した。

風が巻き起こった。

きゃっ…

その空間の光が一気にタヌキへと収束していく。

首にしていた水晶は光の玉になってタヌキの中へと消えていった。

次の瞬間、少女は消え小さなぬいぐるみが、ふわりと浮いた。

志乃は、思わず息を呑んだ。

白い小袖の少女が消えた。

黒髪は夜の水みたいに艶やかで、風に揺れるたび細く光を弾いていた。

大きな瞳は静かなのに、視線が合うと妙に胸の奥を見透かされる気がした。

幼さの残る顔立ち。

それなのに、ふとした瞬間だけ年齢の読めない寂しさが滲む。

綺麗というより…可愛い、そして儚い。

…目を離せない…そんな存在だった。

だから…

その少女が、信楽焼タヌキのぬいぐるみになった?のを認めたくない。

丸い腹。

間の抜けた顔。

やたら愛嬌のある垂れ目。

どう見ても観光地のお土産。そうなのだが…

それなのに…

その神秘的な空気と、ぽてっとしたタヌキのギャップが凄まじかった。

「えっと」

志乃は困ったように視線を泳がせる。

似合わない。

いや、似合っているのか?

わからない。

でも、タヌキしかいない。

「私は天音…この神域の龍の巫女」

「あ、はい」

「順を追って説明する時間はないみたいね」

「?」

「本当は黒龍様に会う前に…」

「あっ」

「思い当たる節があってよかった…お願いがあるの」

「お願い?」

「力の暴走を阻止したい…そのために邪に染まった力を浄化してほしい」

「あ、はい…って無理無理」

志乃は全力で手を振った。

「大丈夫…でも、そのジェスチャー、世間では問題だから止めた方がいいよ」

「えっ?」

「ここは魂の世界。あなたの身体は階段の上で手を突き出して振っている」

「ええ~~」


「なぁ…あれは?」

「恥ずかしくて死に体とならなければいいが」

男は澄んだ声でクスクスと笑っている。

どう見ても異常な光景がそこには見えていた。

宙に浮かぶ狸のぬいぐるみに向かって手を振っている女性。

少ないとはいえ、観光客が二度見している。

紘一はとりあえず写真に納めておくことにした。


「落ち着いた方がいいよ」

「どうして!」

「体の動きは全部外に出る…階段を踏み外すとケガするよ」

天音の一言に志乃は蒼褪めた。

「それにこの世界は、あなたの命を消費するから長くない方がいい」

「ええ~、黒龍堂ではそんなこと言われていないけど」

「…あちらは神力。私が使うのは神通力」

「?」

「神通力は簡単に言えば引き出物がいる。いまの場合は、志乃の寿命ね」

「えっ」

「魂の縁が結ばれているから」

「あ…」

玄李の言葉の意味がようやく分かった。

「だから、外で話した方がいいけど、魂が理解しないといけないことがある」

「え?っと」

「あなたの祈りは浄化する力がある。私たちの血を引いているから」

「?」

「何代にもわたって捧げられた天音の血がね」

「何それ?」

「自分を信じて、集められた神力を浄化できる。ただそれだけ」

「う、うん」


狐につままれたみたいだ。

紘一には見えていないようだ。

いつの間にか、絶世の美男子が隣に座っている。

二人の視線が気にかかってしまう。

って…志乃は顔を真っ赤にして、その場にしゃがみこんだ。

そのまま、後ろに倒れそうになったのに…体が不自然にぴたりと止まった。

いや、不自然なのは、宙に浮いているタヌキのぬいぐるみが手を掴んで止めてることだった。

そしてタヌキは小さく息を吐いたみたいだ。

「…間に合った。だから言ったのに」

天音の声に、志乃は理解する。

変な事件に巻き込まれていると。

でも、志乃の胸の奥に、妙な感覚が落ちていた。

この不思議を知っている。

あの美少女には会ったことなどないのに。

それなのに、知っていると思ってしまった。


声を殺して方で笑う男を見て紘一はため息をついた。

「悪趣味」

「いや…絶対に必要なんだよ」

「?」

「ユーモアが…というよりも、小さな宝珠に向かって会話する方が怖いだろう」

「……まぁ年齢的に」

「それだよ。人間というのは、変な価値観で力を捨ててるよな」

男は寂しげに呟いた。


「ありがとう」

「いいけど…力を貸してくれる人のところに行こう」

「?」

「龍神様は色々な理由で動けないから」

とタヌキは器用に腕を動かして都久夫須麻神社を指した。

「違った。あっち」

と、船廊下の先にあるだろう観音堂の方へと静かに腕を向けた。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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