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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第22話 純粋に時間切れってありですか?

「えっ?と…おわっ」

呼び込むのも強引なら外に出すのも強引だった。

紘一は、あと半歩でも前に踏み出していたら崖下に落ちていた。

背筋に冷たいものが流れた。

「と、ととっ…」

少しでも前に体勢がずれたら落ちてしまう。

こうなると高所恐怖症というおまけはどうでも良くなってしまう。

落ちないことが重要だ。

取材中の転落事故…怒りに肩を震わせる葉月の様子が思い浮かんでしまう。

と、そんなことを考えている場合ではない。

全力で腕をグルグルと後ろに回すことしかできない。


「ちょっと…良かったの?」

珠姫は、突然姿を消した紘一の居た場所を眺めながら玄李に呆れた様子で声をかけた。

紘一は兎も角として、志乃に伝えることはまだあったはずだ。

話し始めたタイミングとしては…

玄李は女性のあしらいが下手だ。

玄李曰く、すぐに泣けばいいと思っている。ということなのだが…

正直、言葉を選べていないだけだ。

いや、逆だ。使ってはいけない言葉を選んでいる。

正直、紘一だから『雑だぞ』で済んでいるが…男でもへこたれる者の方が多い。

何よりも段取りというものが適当だ。

『久遠の時の中にいるから、時間的感覚がずれている』と()によく言われている。

二人とも変わり者。

下手をしたら友人は互いしかいないのかもしれない。

いや、種族の中にも気が合う相手入ると信じたい。

感覚のずれ…それを気にして、定期的に街に降りるようになった。

昔に比べて随分とマシになった。

スキンケアにも力を入れるくらいに人という存在を意識もしている。

「良くはない。だが、時間切れだった」

ようやく帰ってきた返事に珠姫は、玄李の方へと歩み寄った。

不遜な態度の方が似合うのに、落ち込んでいる。

いや、権威や威厳、それを考えてしている態度が自信の無さの裏返しなのかもしれない。

「余計なことに時間…使った?」

珠姫は、膝を抱えるようにして床に座った。

立ち尽くす玄李を見上げて微笑んでみる。

仕方のない連れ合いだ…と。


玄李は柱に背を預けてズズッと床まで落ちた。

いまにも泣き出しそうな顔で珠姫を見てしまう。

自分が凛としているべきだとは思う。

でも…うまくいかない。

その調整をしてくれていたのは珠姫だから。

いまの、彼女にそのゆとりは…本当はない。

不甲斐なさが胸を締め付けるようだ。

珠姫が紘一の対応に動いてくれたのを気が付いたから志乃に説明をしようとした。

でも、上手くできたのかもわからない。

何をテンパっていたのだろう。

時間切れ…神通力が切れるなど考えてもいなかった。

そもそも、人に何かを頼むという行為自体が初めてだ。

それを訊き入れようとしない人も初めてだ。

ここは大辨財天加護の地…この地にして神力を無視する人が来るなど考えてもいなかった。

いや、無視しているわけでは…ただそれを受け入れないように振舞っていただけ。

きっと、紘一の中にある優しさ…断り切れないおおらかさを彼が知っているからの…

そんな抵抗を楽しんでしまったのが原因だと、分かっている。

その結果が、さらに珠姫に心労を課してしまっている。


「二人は外?」

「ああ」

短く答えて、玄李は顔を伏せった。

外界へ干渉するための力が尽きた。

そうであっても辨財天の加護が護ってくれている。

この社の中で、本来の姿となれば大怪我をするだろう。

だから社との中と外界を分離するように閉じてくれた。

それだけのことだった。

珠姫は静かに玄李を見つめる。

「……説明、途中だったんでしょ」

「まぁな」

「何を隠したの?」

「隠したわけじゃない」

玄李は顔をしかめた。

伝えきることができなかった。

「間に合わなかった」

その言葉に、珠姫は小さく目を伏せる。

玄李が本気で焦っている。

それだけで十分だった。

玄李が、珠姫の事を想って行動しているのは伝わっている。

あとは、運を天に任せるしか…

たとえ紘一が祈ってくれたところで、こちらの声は届かないのだから。

「…巫女のことは?」

「それが一番の問題だ」

志乃が黒龍堂に現れたとき、すでに縁結びが始まっていた。

普通、一瞬で終わる縁結びは、社の中に入っても終わっていなかった。

まるで、ゆっくりと丁寧に紡ぐように身体に馴染ませていた。

神側との縁結び…人と人が(えにし)を結ぶのとはわけが違う。

何よりも、縁結びができるのは関係性によるところも大きい。

力を少し貸し出すような気軽さもない。

ただ、相手のことを理解する必要がある。

その事が上手く伝わったのか…少し不安だった。

一応、言ってはあるのだが…


「余計なことしているから」

珠姫は、気を紛らわせるように言った。

「いや、小僧がうろうろしているからだ」

玄李は『困ったぞ』と顔をした次の瞬間、頬をほころばせた。

「でも、お前のことだから…チートな手土産でも持たせたんだろう?」

「………」

「なんだよ」

どうやら地雷を踏んだらしい。

今度は珠姫の方が深刻な表情を浮かべた。

「無事に届いていれば、問題の解決の手伝いにはなるはずだけど」

こちらも時間切れだった。

いや、そもそもこの空間に人を招き入れるだけの神通力が使えるのは玄李だけだ。

いまの珠姫にはその力はない。

ギリギリ、宝玉の崩壊を防ぐ程度に、修復するために神力を秘石に注ぐので一杯だった。

玄李に頼り切っているのが辛い。

助けにも支えにもならない連れ合いであることが苦しい。

珠姫は目を伏せた。


龍は、人の願いを無条件に受け取る。

それが無垢な物であろうと、悪意に染まったものであろうと…

それに変わりはない。

だが、その全てを受け入れるわけでは無い。

そもそも、本質的にそれを抱え込み続けたりはしない。

流し。

巡らせ。

還していく。

それが龍の持つ神力だった。

ただ全てが還るわけでは無い。

届く願いの中で、素通りする想いもあれば、留まる想いもある。

社に届けられた純粋な思いは、障子を開け放つことで浄化されることも珍しくない。

そのうえで、玄李はその流れを止めていた。

より多くの神力へと転化するようにして宝玉の修復に注いでいた。

珠姫を助けるために。


「宝玉に流す力を止めれないの?」

珠姫はポツリと呟いた。

それが何を意味しているのかは、彼女も解っている。

そのうえで、領域を解放することを提案している。

いまなら、まだ、ふたりを社に、自分たちの領域に戻すことも可能なはずだ。

玄李は答えない。

その代わりに小さく首を振った。

「どうして」

珠姫の手が玄李の上衣の襟を掴んだ。

グイッと自分の方へと引っ張っている…つもりなのだろう。

もう…その力も彼女には残っていない。

それに珠姫には伝えられていないことがある。

珠姫の宝玉の力を暴走させないために制御している玄李の宝玉はそれだけでいっぱいだった。

修復に使う神力は、日々、玄李の力を流し込んで間に合っている状態だった。


玄李の手がそっと珠姫の手を包んだ。

それだけで十分だった。

言葉はもう必要じゃなかった。

玄李の優しさが痛い。

玄李の温もりが辛い。

重荷になるくらいなら…そう思った瞬間、玄李が静かに首を振った。

神聖力を扱う上で、負の想いを混ぜることは奨められていない。

濁った力は浸食されてしまう。

常に光を脅かすのは闇だ。

その事を辨財天から教わってきた。

もしも、負の思いが自分の中に生まれたのならそれだけを込める石をつくりなさい、と。

その石が魔石と呼ばれるものに進化する前に浄化しなさいと。

掃除を苦手とする玄李が日々障子を開け、ほうきで掃除をしてくれるのも…

時間を見つけて雑巾がけしてくれるのも…

留まったり、生まれてしまった魔石になる欠片を浄化するための頑張りだと知っている。

悠久のときを共に過ごしてきた。

好いときも悪いときも過ごした。

支え合い、連れ合いとして、天変地異を巻き込む喧嘩もした。

辨財天様にも何度も怒られた。

自分たちの流れをくむ神龍も生み出す宝玉も何度も生み出した。

玄李は怒るかもしれない。

でも、これ以上…そう思ってしまう。

まっすぐに、この莫迦な龍神を愛している。

「勝手だけど…」

「うん」

「小僧を信じてみないか?」

「ええ」

「それでだめなら俺も一緒に…ここは辨財天様に頼んで代替わりでも」

「…莫迦、そんなところまでついてこられたら迷惑よ」

珠姫は目に涙をいっぱいにためながら、玄李と唇を重ねた。

玄李が何も言えないように。

玄李も黙って、珠姫を抱きしめた。


ごちん!

凄い音が鳴った。

「!…痛っ」

志乃は石の鳥居にぶつかった。

「ちょ、ちょっと」

社の向こう側の紘一を見て声をあげ、駆け寄った。

「あ…りがとう」

「後ろに下がればいいのに…」

「おっ。おお〜」

紘一は苦笑して尻餅をついた。

志乃にすれば、バランスをとるように腕をグルグルと回している姿は…恐怖でしかなかった。

足を滑らせれば…そのまま転落というか、どんなにバランスをとっても落ちていた気がする。


少し地面に座ってから玄李は立ち上がった。

お尻をパンパンと叩きながら、少し記憶を整理する。

待っていれば、玄李がまた姿を現すと思ったがそうではないらしい。

考えられることは二つ。

依頼を成功したから社で大人しくしている。

もうひとつは、外に出られない事情。

こちらが認識するまで姿を表すことができなかった事を考慮すると…

「どうかした?」

「いや、げ…黒ちゃん出てこないから」

「黒ちゃん? ああ〜名前で呼ばないの?」

「まぁ、そういう話を聞いたことあるから、口にはしない」

「どういう話?」

「本当の名は魂を縛る…龍が魂的存在かは知らないけど、霊的存在なのはまちがいないだろう」

紘一は鳥居にもたれかかるようにしながら志乃に説明をした。

「…あ」

「ん?」

「私の話は?」

「?」

「よりしろ?」

「依代…黒ちゃんが?」

「うん」

「黒い靄は黒ちゃんたち…白い靄は?」

「『俺のような存在に会いにいけ』って」

「どこに?」

「さぁ?」

紘一は苦笑した。

苦笑以外に出るものがなくなった。

どいつもこいつも情報をきちんと出し切ってくれない。

珠姫までそんな行動をするとは思っていなかったが…

いや、説明までたどり着いていなかったとしたら?

玄李が出てこない理由にも合うとしたら…

「他に何か言っていなかった?」

「…えっと弁財天の宝玉?とか」

「新しいアイテム情報は困るな…何だそれは」

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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