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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第19話 出会いには…意味があるのかもしれません?

笑っていた空気が、ふっと途切れた。

珠姫の咳払いが、御簾の奥で小さく響く。

それだけで場の空気が変わった。

玄李の表情から、軽薄さが消える。

「…さて、本題だ」

その声はさっきまでとは別人みたいに低かった。

言葉を選ぶかのような間が、その空気をより重厚なものにしていた。

志乃の緊張が、紘一の手を握る指先から伝わってくる。

黒龍…いや、玄李は、その様子を静かに見ていた。

さっきまでの軽薄そうな笑みはない。

空気が少しだけ張り詰める。

「お前たちが連れてきているものについて…少し語ろう」

紘一は自然と背筋を伸ばした。

冗談の紛れ込む隙間など無さそうだった。

「と、その前に…玄李。それが俺の名だ」

玄李はフッと口角を上げた。

「名を示す。それには二つの意味がある」

静かな声だった。

「ひとつは、お前を敵とは見ていないという意思…真摯な心の証だ」

御簾の向こうで、珠姫が小さく笑った気がした。


玄李が名乗ったのは『真名』。

それがどういう意味を持つのか…珠姫は理解している。

そこには命を預けるという意味が隠されている。

真名を使えば、相手を縛ることができる。

呪術を知っている者にすれば、自分の傀儡として従わせることもできる。

だからこそ、少しだけ困ったように目を細めた。

本来、それは軽々しく渡していいものではない。

真名を知られる。

それは、自分へ至る道を相手へ明け渡すことに近い。

古い呪術を知る者なら、そこから縁を辿ることもできる。

縛ることも。

傷つけることも。

場合によっては、その存在を傀儡のように扱うことすら。

だから、こちら側のものほど真名を隠す。

それなのに玄李は、あっさりと名乗った。

それほど、人の力を必要としている。

自分の不甲斐無さが悔しい。

問いただせば玄李は『何でもない』と困ったように笑うだろう。

その危険性を考えていないかの如く。

……いや、考えないようにしているだけか。

珠姫は小さく息を零す。

この黒龍は、不器用なくせに妙なところで誠実なのだ。

そして、その事を人に伝えないのも玄李の優しさなのだろう。

重いものを背負わせない…という。


「そして、もうひとつは…」

玄李の金色の瞳が、真っ直ぐ紘一を見た。

「裏切らないという誓いだ」

空気が変わる。

黒龍堂の奥で、どこか遠い水音のようなものが響いた。

紘一は無意識に息を呑む。

その瞬間だけ、目の前の男が人ではないものに見えた。

長い時間を生きてきた存在。

願いと畏れを喰らいながら、ここに在り続けたもの。

そんな気配が、一瞬だけ姿を現したように感じた。

人の姿を見せていても、玄李は黒き龍。

「……それ、聞いちゃって大丈夫なやつ?」

紘一の言葉に、玄李は肩を竦めふっと笑った。

「真実を晒さない相手の頼みをお前は聞けるのか?」

わざと間を置いてから、口元だけで笑う。


その通りだからこそ、少しむかつく。

「だからといって初対面で?」

「まぁ、勘というヤツだ」

「…軽いよな」

「そんなことはない。しっかりと考え抜いて…抜いた…はず?」

玄李の溜息に紘一が溜息を吐く。

すでに断れる雰囲気ではない。

どのタイミングで断れば、見逃してもらえるのか考えてみたが…

完全に逃げ道が無くなっている。気がする。

「他に訊きたいことはあるか?」

「断りとか」

ニヤッと玄李が笑った。

「さて…女の方の話をしよう」

その声に志乃がビクリとする。


紘一に緊張が走った。

志乃の指先が冷たくなっていく。

「と、その前に」

「またかよ…」

「俺は名乗ったのだがな…人間」

「…あ」

紘一は姿勢を正すように正座をした。

志乃もそれにつられるように正座をする。

「鳴海紘一…って必要?」

「まぁ、一応」

やっぱり知っていたのかと苦笑が出てしまう。

「篠宮、志乃です」

「うむ。よろしくな。志乃」

玄李は頭をぺこりと下げた。

そして「さて」と呟いたところで玄李が固まった。


何から話すべきか思案してしまう。

志乃に伝えることは、たぶん3つ。

ひとつは叔母の事。

ひとつは役目の事。

最後は、出自ともいうべき事。

どれを説明するにしても、信じてもらえるかによる。

騙す気も無ければ、騙されるつもりもない。

でも、信じてもらえなければ、騙していることになるのかもしれない。

「お願いします」

志乃の声が震えている。

黙っている分だけ不安が募るのだろう。

分かっていることが、志乃にとって求めている答えだとは限らない。

それでも、言わなければ、紘一は力を貸してくれない気がする。

せっかくやる気になっているのに…

一か八かの部分がある。それでも、口にしなければ始まらない。

珠姫に怒られるのも、あまり体調的には良くない。

「気に掛かっているのは、叔母の事だろう」

玄李の言葉に志乃が小さく頷いた。

震えたまま、ギュッと紘一の手を握ったまま。

「正確なことは解からない。ただ感じるままに伝えるだけだ。微妙な調整は自分でしてくれ」

「はい」

「聡明なようだ」

玄李はポツリと小さく呟くと話し始めた。


玄李は頷くと、少しだけ目を伏せた。

まるで誰かの記憶に触れるみたいに。

「三日前だ」

志乃の肩が小さく揺れる。

「叔母と最後に会ったのは小僧と会う前日…運命のようなものを…お前は感じただろう…」

「え」

志乃は一瞬固まった。

小僧…紘一を見つけたとき、白い影が指さしてくれているように感じた。

その影の揺らぎが頷いたように見えた。

だから近付いてみた。

澪がそれに乗ってくれるのを知っていたから。

その出会いに何があるのかは判らない。

ただ彼との時間を大切にしようと思ったのは間違いなかった。

「おい…それ妄想になっていないか?」

その声に、ハッと現実に引き戻された。

紘一は玄李を睨みつけていた。

玄李は志乃の方を睨むかのように見詰めてくれていた。

「妄想だと言うなら…志乃の方も見ている」

紘一は志乃の方へと視線を流した。


少し間をあけるように深呼吸をしてから紘一は黙って玄李を見た。

玄李は、志乃ではなく空間を見るように視線を泳がせてから続ける。

「最初は咳だった。大事を取って病院へ行ったが……原因がすぐに解らなかった」

ぽつり、ぽつりと。

誰かの日記を読み上げるみたいに言葉を落としていく。

そんな感じだった。

出されるのは断片的な情報に思えた。

でも、その断片が、ひとつひとつ嵌っていく。

志乃はゴクリと喉を鳴らした。


だるさもあった。

帰るのが億劫で、でも、何も準備していないと、志乃に連絡が入った。

就職の関係で大阪に引っ越してきたばかりで、何かと連絡を取っていたから…

連絡をくれただけかもしれない。

独り身ということで頼れるものがいなかったというのもあったのかもしれない。

何気に専業主婦のはずの母と連絡もつかなかったらしい。

結局、遠くの身内よりも近くの他人になる。

生協病院で入院手続きをして服を取りに帰った。

離れていた時間は、30分もなかったはずなのに戻れば急変していた。

看護師たちが走り回り、医師が急変にオロオロしたり声を荒げていた。

何かができるわけもなく、その場で立ち尽くすことができなかった。

死というものを感じる瞬間がそこにはあった。

怖い。

昨日まで傍で笑っていた人がいなくなる恐怖に身体が震えた。

母に連絡を取る以外、何も思いつかなかった。

その間も点滴を使った治療は続けられて、容態は少し落ち着いた。

…それでも熱は下がらなかった。

その恐怖すら戻ってくる気がした。

この人は、本当にどこかで見ていたかのように…

そして、自分の様子を意識しながら言葉を選んでくれている。

その語り口とは裏腹に心配そうな眼差しが、志乃の心を、身体をそっと包み込んでくれる。

そんな気がした。


玄李は静かに目を閉じた。

「…熱があった」

ぽつりと零した。

水面に石を落とすみたいに言葉が零れる。

「…その熱は身体の芯でぽっと火を燃やし続けた」

志乃の指先が強張った。

小さく喉が鳴る。

「帰るのも億劫そうだった」

その瞬間だった。

志乃の脳裏に、病室の白い天井が過る。

『ごめんねぇ。なんか身体が重くてさ』

力なく笑っていた叔母さんの声が響いた。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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