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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第17話 偶然という言葉は、必然の照れ隠しですか?

再会とは…予定しない再会はどうにも照れ臭い。

どう声を掛けるべきか、そんな事を思っていると黒い靄のようなものが視界を遮った。

まるで前に何かが立ちはだかったような…そんな感覚がある。

ただそれも一瞬のこと。

まるで虫をはらうように手を振ると視界は開けた。

というよりは黒い靄が避けるように樹の方へとひらりと動いた。

急にはっきりと見えた志乃に苦笑とも照れ笑いとも取れる笑みが零れた。

ぎこちない気がする。

少なくともいい年して照れている自分に照れてしまう。

それを隠すように頭をかいた。

再会する機会があるかもしれない、とは思っていた。

とはいえ、早すぎる再会にはさすがに戸惑ってしまう。

「…こんなところで会うというのも…」

口にしながら、黒龍堂の前に立つ志乃を見る。

クスリと笑みが返ってくる。


志乃も、どこか気まずそうに笑みを浮かべた。

少しだけ間を取るように、ふぅと息を零してから紘一を見詰めた。

「それ、こっちの台詞です」

少し息が上がってしまう。

見間違えじゃなかった。

その安心が、紘一の居る位置に苛立ちを感じさせた。

急がされたのも、こんなに動揺するのも…

それもこれも崖から落ちそうになった紘一が悪い。

心臓に悪いのに、まだ崖の前にいる。

男という生き物は幾つになっても周りに心配をかける。

でも、それを彼らしいと思う。

何を知っているわけでもないのに、それを彼らしいと思う。

好奇心に我慢できずに行動をする。

まるで昔から知っていたかのような不思議な安心感があった。


酷くないか…

黒い霧…黒龍はため息交じりに樹に凭れかかりながら呟いた。

初心で下手くそな素人ドラマを見るような二人のぎこちなさに苦笑を添えて。

とはいえ…

黒龍は女の方を見た。

ふたつの綺麗な光が絡み合うようにして彼女の中にあるように感じる。

拝所で自分に気付いてくれた女をここへと急がせた。

そのときには人らしい魂の輝きだったはずだが…

黒龍は、髪をかき上げながら志乃を見詰めた。

問題は、見事なくらいに気付いてくれていない。

いや、氣付く以前の問題…彼女の中の変化が落ち着くまではそんなゆとりもないだろう。

それ以上の問題は、この男だ。

完全に俺という存在を無視している。


黒く薄い靄のようなものは樹の前へと移動した。

そこに漂っているのが気に掛かる。

単純に、目の病気ではないのだろう。

いや…気のせいだ。

紘一はそう自分に言い聞かせる。

ただ時折思い出したように志乃との間に移動してくる。

前に来る度に少しずつ何かの形へと変わってきている気がする。

ファンタジーなら、ここは黒いフェンリルだったという落ち何だが…

実際に出てきたら逃げるな、と参道を自然に確認してしまう。

ここは一気に港まで駆け抜けるべきだろう、と。

そんな思考のゆとりは、その陰が嫌な感じを出していないからだった。

それでも、うっすらと幕のように存在することに違和感を覚えてしまう。

紘一は静かに深呼吸を繰り返す。

落ち着け。

そう自分に言い聞かせてると、その靄は社の方に消えた。

目の錯覚とするには、少しずつその存在感が濃くなっている気がした。

「…え」

意識した瞬間、ボヤっと樹に凭れかかる影が見えた。


「どうかしたの?」

志乃は足元を気にしながら紘一に近付いた。

湖から吹き上げる風が、黒いロングスカートの裾を揺らす。

その後ろでは、神木の枝葉がざわりと鳴っていた。

ついさっきまで感じていた妙な気配が、少しだけ遠ざかる。

……いや。

完全には消えていない。

紘一は無意識に視線を巡らせた。

鳥居。

小さな社。

案内板。

そのどこにも、さっきまでいた()()()の姿はない。

紘一の動きに志乃が不思議そうに首を傾げる。

「いや……なんでも」

言いかけて、やめる。

『変な男が見えた』なんて説明したところで、困らせるだけだろう。

それに紘一自身、どうかしていると思う。

「志乃さん、走ってきました?」

「あ……えっと」

志乃は少しだけ視線を逸らした。

「なんか……嫌な感じがして」

その言葉に、紘一の背筋が微かに強張る。

偶然。

そう片付けるには、妙にタイミングが合いすぎていた。

風が吹く。

黒龍堂の脇に立つ神木が、大きく枝を揺らした。

ざわ……と葉擦れが重なる。

その音に紛れるように。

『だから言ったろ』

男の声が、また耳の奥で響いた気がした。

参道の奥?何処かで鳴った鈴の音が、まだ耳の奥に残っていた。

見上げると観音堂のある建物が視界に入った。

「また?」

ポツリと言葉が漏れた。


「それはそれとして…どうしたんです? こんなところで」

志乃は話題を変えるように紘一の顔を覗き込みながら訊ねた。

正直、心配になって急いできたというのは自分らしくないと思う。

別に冷静なお淑やかでいようとは思わない。

でも子供ポイ紘一を前にすると、それの方がいい気がした。

流されやすい軽さなんだから…

「いや、それはこっちの台詞だけど」

紘一は苦笑しながら肩のカメラを直した。


「俺は取材で来てて……志乃さんは観光だよね?」

そう言いながら、視線が自然と彼女の後ろへ流した。

警戒する必要は無いのに自然に警戒心が働く。

何よりも、志乃の視線が社ではなくその後ろの樹に向けられているのが気に掛かる。

振り返るのは遠慮したい。

「凄いですね。龍の…」

そうだよね…そこに話題いくよね…と紘一は心の中で溜息をひとつ。

黒龍堂の神木。

案内板にも書いてある。

そこに視線が行くのは普通だし、しっかりと存在感を示している。

その根元に丸くなるように集まっている黒い靄。

見ないようにしていたのに、見てしまった。

「そうだね。悠久のときを護るようにここに居るんだろうね」

靄が上下に動いた気がする。

ゆっくりと靄が影に変わっていく。

何かの形を成すように…ってここに居るのだから蛇とかではないのか…

黒い影はゆっくりと立ち上がる。

身長?は自分くらい。

180前後だろう。

人の形へと徐々になっていく。

腕を組み、樹に凭れかかり、こちらを見ている。

まるで『ほら、見えているだろう』とでも言いたげに。

紘一は反射的に目を逸らした。

見ない。

あれは見ない。

今日はそういう日なんだと思えばやり過ごせる。

そう自分に言い聞かせていた時だった。

その不自然な動きに志乃はキョトンとしてから樹の方をもう一度見た。

志乃が、少し声を潜めて言った。

「えっと……あの人、誰ですか?」

紘一の思考が止まる。

ゆっくりと顔を上げる。

志乃の視線は、黒龍堂の神木をまっすぐ見ていた。

そこに立つ黒衣の男を。

紘一は額を押さえた。

深呼吸をひとつ。

目を閉じる。

開く。

まだいる。

黒衣の男は神木にもたれたまま、面白そうにこちらを見ていた。

逃げても追ってくる。

無視しても声をかけてくる。

志乃にも見えている。

そこまで条件が揃えば、もう認めるしかない。

…これは気のせいじゃない。

紘一は肩を落とした。

「わかった」

半分、投げやりだった。

黒衣の男は、初めてはっきり笑った。

『だから、ずっと呼んでいただろう』

志乃と顔を合わせたことで、紘一は少しだけ気が抜けていた。

知っている相手が目の前にいる。

それだけで、さっきまでの妙な感覚が現実味を失っていく。

「それは、呼びかけとは言わない。気持ち悪いぞ」

紘一の言葉に志乃が首を傾げた。

「あ、ごめん…こっちの話」

「そうそうこっちの話」

いつの間にか紘一の肩を抱き寄せながら黒龍はニヤリと笑った。

白い影も。

黒い陰も。

暑さにやられたせいだと思えば、それで済むはずなのに…

いやまだ間に合うか…?

紘一は鳥居から参道に出ようとした。

黒い衣の男がグッと肩を掴む。

だが紘一は何も無い事にしてみた。

そもそも見えていない。

見えていたとしても、知らない。

知らないものに返事をする必要はない。

「往生際が悪いな」

黒龍が苦笑しながら呟く。


その表情に志乃はクスクスと笑った。

額に張りついた前髪を気にするように押さえながら…

どこか落ち着かない様子で辺りを見回している。

「奇遇ですね」

志乃は息を整えながら呟いた。

どこか無理をしているような笑顔だった。


でも、何かが違う。

志乃の顔が二重にぼやけて見える。

目の疲れか? 年だしな…

「おい…」

「ん?」

「返事したな」

黒龍がニヤッと笑った。

「諦めが肝心と人間が言っていたぞ」

「…世間ずれしやがって…で?」

「ん? ああ、アイツ依り代だぞ」

黒龍のその言葉に紘一は肩の力を抜いた。

志乃の肩を掴み顔を正面から見詰める。

「え? どうしたの?」

「志乃さん…観光できた?」

「えっと…いえ…頼まれごとで」

「頼まれごと?」

「長浜で研修て言ったら、叔母に、小判の交換を頼まれて」

と鞄から白い封筒に入った小判を取り出した。

偶然?それとも…

「心配するな必然だ」

黒龍がニヤッと笑った。

「必然?」

「俺の頼みごとに関係する」

「?」

志乃が不思議そうに首を傾げる。

黒龍は少し考えてから紘一の首に回していた腕を外した。

「会ったのは三日前」

えっ?と志乃が固まる。

叔母さんに会っていることをしっているのは母だけだった。

容態が容態だけに年老いた祖父母は実家に来ているだけで面会にいけていない。

「どうしたの? 志乃さん」

「いえ」

紘一のすぐ横で、ため息がもれた。

「高熱で昏睡に入った直後に…一時的に回復したときに会えた」

呆れたような声だった。

その瞬間だった。

紘一の口が先に動いた。

「なんでそれ知ってるんだよ」

言ってから、はっとした。

志乃の頬を涙がこぼれた。

「いい加減認めろ。触れているし会話もしている」

空気が急に静かになる。

志乃が震えていた。

紘一はそっと志乃を抱きしめた。

事情も何もわからない。

それでも、巻き込まれたことは解かった。

数秒遅れて、自分が誰に返事をしたのか理解する。


お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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