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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第14話 悠久のときの流れの中に…身を委ねてみますか?

観音堂をあとに順路を進むと船をひっくり返したような廊下になる。

竹生島でよく紹介される舟廊下だ。

観光ポイントのひとつとなっているのだが…

順路にあるのでよほど捻くれていない限り見ることになる。

観音堂と都久夫須麻神社を繋ぐ渡り廊下の天井は船底にも見える。

唐門の移設当時、天候の変化に備えて崖面の往来の安全性確保するために、

余った船を屋根にしたという話もあるがその真相はわからない。

ただこの形状を見ていると信じてしまう人もいるかもしれない。

その真実はともかくとして、秀吉ゆかりとも伝わる古い船材が使われているらしい。

実際に歩いてみると、確かに普通の廊下とは少し違う。

頭上の梁がゆるく弧を描いていて、まるで船底の内側に入り込んだみたいだった。

黒く艶を失った木材。

長い年月を吸い込んだ匂い。

踏み締めるたび、床板が小さく軋む。

湖の上に浮かぶ島なのに、不思議と“水の中”を歩いているような感覚があった。

観光客たちは写真を撮りながら通り過ぎていく。

けれど紘一は、途中で何度か足を止めてしまう。

舟廊下の隙間から見える琵琶湖が、妙に遠く感じた。

空は明るいのに、この廊下だけは少し薄暗い。

光が届いているはずなのに、影だけが静かに沈んでいる。

その空気に、紘一は無意識にカメラを握り直した。


舟廊下を抜けると、視界が少し開けた。

その先に建っているのが 都久夫須麻神社 だ。

竹生島神社と呼ばれることもあるが、正式にはこの名前らしい。

宝厳寺の辨財天が有名なことであまり目立ってはいないが歴史に翻弄された跡に感じてしまう。

神仏習合…そして、神仏別離。

竹生島そのものが神仏習合の象徴みたいな場所だと実感してしまう。

その当時の人たちは、いくつもの理不尽を感じただろう。

押し付けられることも、奪われることもあったのだろう。

そういう理屈を選べた人ばかりではない。

神様も仏様も、人間の都合で並べられたり離されたりする。

それでも場所だけは残っている。

そう思うと、この島そのものが少し不思議に見えてきた。

平和な国に生まれたからこそ、気付かないものもたくさんあるのかもしれない。

仏閣と神社が同じ順路の中に当たり前のように並んでいることに疑問を持たない。

当たり前のように案内図に記載されているから違和感を感じない。

それを柔軟性と呼ぶべきかはわからない。

ただ、そこにあるのは柔軟性よりも…ことなかれに感じてしまう。

ふと、紘一の足が止まった。

歴史を知っていても、実際に歩くと不思議だった。

廊下を抜け、都久夫須麻神社の拝殿へと足を向ける。

ここからは神社の境内ということになるのだろうか。

意識して立つと気に掛かることが増えてしまう。

拝殿の中は思っていたより広くはなく、参拝客が数人入ればそれなりに埋まる程度だ。

琵琶湖から望む正面には鈴緒が下がり、その奥に御簾。

人がいれば、雰囲気も変わるのだろう。

タイミングがずれたおかげで静かな場所になっていた。


朱塗りの社殿は鮮やかだが、派手という印象はない。

島全体に吹きつける風のせいか、どこか色が落ち着いて見えるのも不思議のひとつだ。

木の床はよく磨かれていて、差し込む光を柔らかく反射していた。

壁際には奉納された絵馬や札が並び、願い事の種類もさまざまだ。

家内安全。

病気平癒。

縁結び。

商売繁盛。

島に渡る手間を思えば、軽い気持ちだけで来る場所でもないのだろう。

紘一はカメラを下ろしたまま、その空気に少し身を委ねることにした。

喧噪の中で日々過ごしているせいか、この静寂さが贅沢に思える。

僧侶の話を聞いたせいか、妙に神妙になっている気がする。

本殿の内部を自然光で撮ってみる。

その独特の陰が神秘性を引きだしているようにも思えた。

光の悪戯が、その陰を揺らめかせる。

紘一は手すりに腰を掛けるようにして、少しその揺らめきを眺めていた。

ルポルタージュとするのなら、外観の方が映えるだろう。

でも、実際に足を止めてしまうのはこういう場所…

おじさんになったかもしれないと苦笑が漏れた。

ここの祭神は 市杵島比売命。

宗像三女神の一柱で、水を司る女神。

海路の守護神として信仰されてきた存在。

紘一はその名前を目で追いながら、小さく首を傾げる。

どこかで聞いたことがある。

志乃の部屋のデスクの上で開かれていた本のページに…

それとも葉月が渡してくれた資料の中に…

とりあえず、読んだ情報の中にある気がした。

記憶を手繰る。

神仏習合が進む中で、市杵島比売命 は 弁財天 と同一視されるようになった…はずだ。

もともと辨財天は、日本生まれの神ではない。

インドの女神、サラスヴァティー が仏教に取り込まれ、海を渡ってきた存在だ。

旅する間に、名前を変え、姿を変え、信仰される土地ごとに役割を増やしていった。

音楽の神。

財の神。

水の神。

…ずいぶんと忙しい女神だ。

そうして日本に来て、水辺を守る神である市杵島比売命もその役割を担うことになった。

役割多すぎ? 頑張り屋さんなのだろう。

転職するたびに『旅をする』を繰り返したみたいなものかもしれない。

神様も案外、土地に合わせて肩書きを変えさせられるらしい。

紘一は小さく苦笑し、拝殿へと近づいた。

「……神様のキャリアチェンジってやつか」

ぱん!と柏手をうつ。

柏手にも意味があったはずだが忘れた。

二礼三拍。

きちんと挨拶をして、これからの旅路の無事だけを願う。

一礼して…また来ます…と浮かべた。

静かな社の中に、風もないのに鈴緒だけが小さく揺れていた。

慌てて次の場所へと視線を流す。

くるっと拝殿に背を向けて琵琶湖の方へと。

湖に浮かぶ竹生島では、その信仰が今も自然に残っているらしい。

水を司る女神と、湖に浮かぶ島。

言われてみれば、これ以上ないほど似合っているように思える。

そんな考えで頭をいっぱいにしてみた。


石段を前に空を見上げると空を近く感じてしまう。

いや…空に近いというより、水の上に浮かんでいる感覚に近い。

それを感じさせるのは湖から吹き上げてくる風のせいかもしれない。

心地よい風が、何気に疲れた身体を癒してくれる。

少し前まではそこに賑わいがあったのだろう竜神拝所へと視線を向けた。

ふいに思い出が巡る。

長浜観光に連れ出された十数年前を。

湖へ向かって投げる『かわらけ投げ』

小さな酒杯の土器を鳥居に向かって投げ入れ、願掛けをする。

島の先端に設けられた場所だけに、どこか浮かれた顔をして投げていた。

うまく鳥居をくぐらない酒杯に『もう一度するぞ』と声を上げて葉月に注意された。

でも、一緒にいた見知らぬ人たちの妙な盛り上がりにもう三枚投げた。

最後の一枚は鳥居の下へとまっすぐに飛んだのに、寸前で向きを変え、湖に吸い込まれた。

その変化に誰もが残念がってくれた。

って…そういえば妙な曲がり方をした気がする。

急に角度を変えて…

でも、記事にするなら、こういう体験型の話題は外せないだろう。

紘一は石段を軽快な足取りで降りはじめた。


石段を下り、都久夫須麻神社の方へと振り返る。

光の下でその存在感を示す本殿を写真に収めておく。

その石段を挟むようにして小さな社がある。

1つの鳥居に2社の名前。

本殿の方へと視線を向けなければ…いや気にしていなければ見過ごす社。

それぞれの社にある社額には日本五大弁財天社を示す名前が書かれている。

とりあえず、それぞれの分御霊に拝礼をする。

ここまでくると拝礼も堂にいったものになっている。

祠に、白い布が風で揺れている。

それでも、そこだけ妙に空気が静かだった。

紘一は何となくカメラを向けかけて、やめた。

その瞬間だった。

「――」

誰かに呼ばれた気がした。

女性の声。

すぐ後ろで囁かれたように感じて、反射的に振り返る。

誰もいない。

ただ、白い服の袖のようなものが視界の端を掠めた気がした。

思わず一歩下がる。

その拍子に視線が横へ逸れた。

崖側に設けられた投げ場。

その紘一の横を観光客がなぜか素通りしていく。

その奥、舞台作りの竜神拝所から若い女性の声が届いた。

若いカップルが笑いながら、素焼きの皿を手にしている。

酒杯型の厄除けの土器『かわらけ』を手に願いを書くために筆ペンを手に取る。

その楽しそうな空気に目が追ってしまう。

賑やかな騒ぎの中にこぼれる輝く笑みが印象的だった。

それにしても…と分霊社をもう一度見る。

階段から降りてくる人たちはまっすぐに竜神拝所へと向かっていく。

摂末社…他の神社の分御霊を祭る社には興味がないかのように。

紘一だけが、分霊社の前から動けずにいた。

竜神拝所の賑わいの向こうに、白い影が立っている気がした。

誰もいないはずなのに、白い袖だけがまだ視界の端で揺れていた。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

未完公募という状態になっているので、完結に向けて一気に走ります

よろしければお付き合い願えればと思います

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