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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第13話 願いと祈りと…後、何を加えましょう?

僧侶は少し考えるように紘一を見てからクスリと笑みを零した。

不思議なお音だと感じている。

きっと、色々な浮世に首を突っ込んでいるのだろう。

そう言うゆとりというか、隙間が顔を見せている。

彼に聞こえているのは、幻想なのか、それとも…

その真実はわからない。

でもこういう仕事をしていると、仏の声が聞こえてくることもある。

もちろん、それが知識の裏付けの元で届けられるものである可能性も理解している。

千手千眼観世音菩薩が鎮座する場所をみつめる。

その向こうにある金色の観音の姿を思い浮かべてしまう。

紘一なら案内してもかまわないと感じてしまう。

60年に一度…その言葉は意外に重い。

その御姿を観れるのは縁が有るか無いかによる。

きっと、彼は前回の公開のときには興味を示していなかったのだろう。

そう言う意味で、彼は千手千眼観世音菩薩に出会うことはない。

でも、だからと言って、観音が縁を切るわけでもない。

向こうからは彼が見えているはずなのだから。


「不思議なお声ですか?」

からかうでもなく、否定するでもない声音だった。

紘一は曖昧に頭を掻く。

「……疲れてるのかもしれません」

「かもしれませんな」

そう言って、僧侶は観音堂の奥へ視線を向けた。

千手千眼観世音菩薩が鎮座する薄暗い堂内。

線香の煙がゆっくりと天井へ流れている。

「ですが、こういう場所におりますと…時折、不思議なことを申される方もおられます」

穏やかな声だった。

見える、とは言わない。

聞こえる、とも断言しない。

ただ紘一の反応を待つように間を取った。


長く人の願いや祈りに触れていると…不思議なことを耳にすることがある。

それは学びのせいで、違和感なく受け入れることができたせいかもしれない。

相手がそれを望んでいるわけでもなく、自身が望んでいるわけでもない。

あるがままに…

零れてくる言葉を受け止められるようになったのはそんな昔ではない。

ただ…説明のつかない何かを抱えて来る者がいるに気付いた。

真摯に観音像に手を合わせる人も見てきた。

そんなときに、ふと悟るように気付いただけだ。

本当の悟りには程遠いという自覚もある。

それでも誰かの言葉に耳を傾け、その人の答え探しを手伝うことはできる。

答えはいつでも、その人の中にある。

でも、答えを持っていない人もいる。

そこに自分なりの答えを置くことは可能だ。

それを求めて神仏の元へと足を向け、神職に声を掛けるのだろう。

…紘一の場合は違うのだが…何というか不思議な男だ。

屈託のない柔らかな笑顔に引き込まれて余計なことを話してしまう。

「不思議な声ですか」

紘一が興味を示すように尋ねてた。

「ええ…内容は人により違うようですが…その人に合わせた話し声だとか」

僧侶は少し間を置くように目を伏せた。

「ただ…それは案外、自分の心の声を聞いているだけかもしれません」


その言葉が紘一の中に浸み込むように腑にストンと落ちた気がした。

僧侶は、視線を観音殿奥へと向けた。

御簾(みす)の奥、そこに鎮座している千手千眼観世音菩薩に。

「学びのせいかもしれませんな」

僧侶は穏やかに続ける。

「違和感なく受け止められるようになる。あるがままに、と」

見えるとも、聞こえるとも言わない。

言えない。

ただ、長くここで勤めていると感じるものはある。

彼と話しているだけで、頭の中が整理されていくようだった。

「本当の悟りなど、程遠いものですが……」

そう口にしただけで笑みが零れてしまう。

「ただ、こちらに来られて熱心に手を合わせる人は…」


紘一は無意識に観音の奥へ目を向けていた。

「強い思いをもってここに来られるのでしょう。きっと、住まいの近くにもあるのに」

「島を渡る…と」

「そうですね。その時間と労力を使っても何かを願うためにここへ来る」

僧侶は順路を追うように視線を流した。

「願い、礼を述べに来る…それに意味があるのかもしれません」

静かだった。

蝋燭の火だけが揺れている。

遠くで汽笛の音が響いている。

「よろしければ、何か願っていかれませんか?」

不意にそう言われ、紘一は少し困ったように笑う。

願い事なんて、思いつかない。

神頼みをしないわけでは無い。

事ある毎に『神さま頼む!』と頭で唱えてから競馬・競輪・競艇に挑んでいる。

さすがにそれは伝えられない…か。

「それも立派な願掛けかもしれませんな」

僧侶は何かを見透かすように可笑しそうに笑った。

「観音様は、立派な願いだけを聞く仏様ではありませんから」

「!…そうなんですか?」

「ええ」

僧侶は観音菩薩の方へ目を向ける。

「観音菩薩というのは、『衆生の声を観る』存在だと言われております」

「声を観る?」

「泣き言でも、愚痴でも、助けてほしいという声でも…ということでしょうか」

静かな声だった。

説法をするタイプには見えない。

もっと気軽な近所のおっちゃん的な雰囲気に紘一は笑みを零した。

長くここに立ってきた人間の実感みたいな響き…を感じる。

「ただ残念なことに人は、願い事より先に苦しみを零すようですね」

紘一は何となく黙った。

「特に観音様は…怖い…苦しい…寂しい…などの声も聞いておられる」

「なるほど」

「そう教わりました」

ニヤッと笑ってから彼はつづけた。

千本の腕。

その掌にある千の眼。

一人でも多く取り零さないための姿なのだと、僧侶は穏やかに笑う。

「そっか」

紘一はふと御簾の方へと視線を…いや、身体を向けた。

変な緊張がうまれている。

深呼吸するように、何度か深く息を吐いてからただ静かに手を合わせた。

普段はしない。

でも…僧侶の話を聞いているうちにふと、昨日ニュースで見た映像が浮かんだ。

大阪で流行している感染症。

原因不明のそれは、大阪の外れの街にある病院に集まっている。

いくつもの憶測記事も出始めている。

感染症にはまだ敏感なだけに、安心を求めて、様々な情報を齧りつく。

でも、そんな事はどうでもいい。

搬送を待つ人。

対応に疲れ切った医療従事者。

紘一は小さく息を吐く。

そして、目を閉じた。

(……早く…)

そう思ってから、言葉を頭の中から消した。

深い拝礼をする。

(こんにちは…鳴海紘一です。関東在住…縁あって訪れたので…)

何となく目を開けてしまう。

上体を起こし御簾の奥を見詰める。

(ここまでの無事を感謝します)

『ホントだよ』

(え…)

『いや、何も気のせい』

(…ありがとうございます。これからの時間も是非、色々とよろしくお願いします)

『雑…』

(………)

『あ、ほら続けて』

(ん~、感染症が落ち着きますように)

『…本当に雑だよね…でも、まぁ、手伝ってもらうけど、いいよね』

(…まぁいいけ……え?)

紘一がポカンとしたその瞬間。

チリン…

また、あの澄んだ音がした。

そこから波紋のように音が幾重にも広がっていく。

「あなたの旅に素敵な時間が訪れますように」

爽涼は静かに手を合わせた。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

未完公募という状態になっているので、完結に向けて一気に走ります

よろしければお付き合い願えればと思います

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