第二十話:灰と煤のあとで
あの事故のあと、私は火が怖くなった。
当たり前だ。
火は何もかも持っていった。
昔、どこかの神様が火を盗んで人間に与えた――そんな話を聞いたことがある。
昔なら少し面白いと思えたかもしれない。
でも今は違う。
そんな絵空事にすら腹が立った。
火の匂いも嫌いになった。
焼けた匂いも。
熱せられた空気も。
嫌だった。
もう十分だった。
鼻の奥に焼き付くくらい、
何かが灰になる匂いを嗅がされた。
もう終わったはずなのに、
少し似た匂いがするだけで身体が勝手に思い出そうとする。
また始まる気がした。
本当に嫌だった。
何回洗っても落ちなかった。
肌も、髪も、爪の間も。
どこかに残っている気がした。
匂いなんてもうないはずなのに、
身体だけが勝手に覚えていた。
時間だけが戻る。
テレビでは何度も同じ映像が流れていた。
繰り返し。
繰り返し。
繰り返し。
知らない誰かが話している。
映像だけ流れている。
黒くて。
暗くて。
全部、墨汁をぶちまけたみたいに見えた。
画面の下を数字が流れる。
人数、原因、時刻。
専門家のどこかの大学の先生のコメント。
知らないタレントのコメント。
変な団体の代表を名乗る女性のコメント。
全部どうでもよかった。
欲しい言葉はそこになかった。
誰も知らない。
だから言えない。
分かってる。
分かってるけど。
分からないなら、
何も言わないでほしかった。
私は、テレビを消した。
それでも静かにならなかった。




