第十六話:だから私は勉強ができない。
私は勉強ができない。
小学生のころから、算数も国語も苦手だった。
九九は何回覚えても途中で混ざるし、 漢字テストは毎回、赤い丸より赤いバツの方が多かった。
だから授業が終わるたびに先生のところへ行っていた。
ここが分からない。
もう一回教えてください。
最初の頃は、ちゃんと教えてくれた。
でも、いつからだっただろう。
「あとでね」
「次の準備あるから」
「もう少し自分で考えてみようか」
そう言われることが増えた。
先生は別に意地悪じゃなかったと思う。
忙しかっただけ。
他にも見る子がいた。
わかってる。
わかってた。
だけど、子どもながらに気づいてしまった。
あぁ。
私は時間がかかる子なんだ。
先生を困らせる子なんだって。
だからきっと、
お母さんのことも困らせてる。
そう思った。
それから質問する回数を減らした。
分からないところは空欄にした。
空欄が増えた。
点数が下がった。
授業がもっと分からなくなった。
中学生になって、それが急に加速した。
国語も。
英語も。
数学も。
理科も。
社会も。
みんなが当たり前みたいに越えていく段差の前で、 私だけ立ち止まっていた。
置いていかれる感覚だけは、よく分かった。
気づいた頃には、
私はもう、“普通”の側じゃなかった。
別に誰かにそう言われたわけじゃない。
でも、分かる。
教室の空気で。
返却されるテストで。
「分からない」が積み重なる速度で。
みんなが普通にできることができない。
それだけで十分だった。
だから学校は嫌いだった。
教室は苦しかった。
でも――
まだ、この頃は行けていた。
行けないなりに。
遅れながらでも。
ちゃんと行こうとしていた。
本当に行けなくなったのは、あの日からだった。
火の匂いが全部持っていった。
家も。
教科書も。
制服も。
机の上に置いたままだった宿題も。
学校へ戻る理由も。
全部。
……だから、たぶん。
あの日、燃えたのは家だけじゃなかった。




