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第一章第四部 のどかだね

翌日から何か仕事をしなくてはと考えて村の各所に顔を出して職業体験をさせてもらった。

タダ飯食らいはなかなかに肩身が狭かった。

とはいえ、魔法があまり使えない。

そうしてしばらく経ったころに我々は最終的に製作所に行くようになっていた。


製作所は農機具の改良、食料の改良を主な仕事としていた。

俺たちに課せられたのは現代の知識を活かしてその開発の手助けをという役目だった。


しかしながら、一通りのものはすでに既に揃っていて、開発も何もないくらいの技術レベルに到達していることを知る機会にしかならなかった。

それでも製作所通いは楽しかった。


「所長。水車の点検してきます」


「お願いしますね。いやあ二人が来てからは今までの人手不足が嘘みたいだ」


所長の言葉を背に俺たちは水車の点検に向かう。

技術的には全てある程度の水準に達していたが、その点検や整備ができる手の空いている人がいなかったらしい。

無論この村の人々でもこのくらいの仕事はある程度はできるのだが、一から説明しなくとも理論的に俺たちのいた世界のものを理解している人材となると人手が不足しがちらしい。


水車のところへ到着すると早速水車の回り具合から確認していった。

水車のあるここは麦畑と畑、それから住宅街のちょうど中間地点。

ここから水路は農業用水として畑の方へ流れていったり、人家の方へ枝分かれして生活用水として上水道の役目を果たし、最後には下水道として川へ戻っていく。


この水車は川から引いてきた水を溜める溜池から流れてきた水を上水道へ乗せる変換器の役割をしていた。

これが正しい水車の使い方なのかは分からなかったが、水車の回転力を動力として接続できるギアまで取り付けてあるからには意味もあるのだろう。


水車の部品の破損はないし、小石の挟まりによる動作不良もなかった。


「のどかだね~」


ハルキが言う通りのどかだ。

麦畑はまだ青々としていて日本でいうところの初夏の趣であった。


「あそこの兄ちゃんすげえ力持ちだな。近くの女の子の荷物まで持ってやってるし」


遠くで農作業に従事する村人たちが見えた。

ちょうど筋肉質な若い男が若い女の荷を持ってやっているところだった。


「じいさん。あれは恋じゃよ恋」


「若いのう~」


それから用水路全体をチェックして上水道の不備がないか数件ピックアップした家庭と、不具合を訴えた家庭に訪問して直接整備をして回った。


「水道局の人みたいだな」


「確かに。でも最初の頃の水道局って本当にこんな感じだったのかもしれないよな」


「各家庭にお邪魔してありがとうとか言われるとな。水道局員としてどうしてもこの村をなんとかしてやろうって思っちまうわな」


日が暮れるまで製作所の雑務を手伝って、日が落ちる頃には自宅の小屋に戻った。

小屋ではアルとリルが待っていた。


「勝手に俺たちの家に侵入している人がいるぞ」


ハルキがアルたちを指さして騒いでいる。


「こっちの世界に鍵をかける文化がないからな。仕方ないんじゃないか?」


「ひどい!お夕食作って待ってたのに!」


アルも大騒ぎしていた。

雁の鳴くような晩の涼しさとのコントラストが俺を穏やかな気持ちにさせた。


「いいから座ってください3人とも」


リルに叱られて苦笑いしながら夕飯の席についた。

小屋の中は非常に狭い。

床なんか土だ。

高床ですらない。

東京の大学生の一人暮らし用ワンルームくらい狭い。

囲炉裏が真ん中にあって端っこに俺のゲロゾーンがある。

そのほかには寝るとき用の簾が敷きっぱなしになっている。

そこだけこんもりしている。

というのも、初日はあまりの固さに何度も起きてしまうほど寝心地が限界突破していた。

そのため現代っ子の俺たちは藁を要求して穂を取り終えた麦を大量に入手したのだった。

その次には藁がちくちくして痛いと大騒ぎして簾の上に布を掛けてもらったりという別の話もあるのだが。

なんにせよたくさんの人に助けられて出来上がったこの小屋が俺たちの生活の拠点だった。


今ではアルとリルが世話係として食事を作りに来てくれて時々お風呂屋に行って背中を流してくれるというこの生活にも慣れてきている。



夕飯を食べ終えた後、アルたちは自分の家へ帰っていった。

今日も一日が充実していたな、納期に追われることもなくなったな。

そんな事をぼんやり考えて床についた。


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