第一章第一部 異世界の村1
やっとチュートリアルが終わります。
一章は完成していますのでひと段落するまで読んでご講評をいただけますと幸いです。
気がつくと、俺は簾のようなものの上に寝かされていた。
「小屋?」
今度こそ本当に見知らぬ天井だった。
彼が俺を運んだのだろうか、人がいて助けてくれたのだろうか。
しばらく眠ることをしていなかったためか、違和感がかなりあったが、上体を起こして辺りを見回す。
風呂の小屋よりも立派な小屋の中で寝かされていたらしい。
ぼーっとそんなことを観察していると、外から誰かの声がする。
外の様子が気になってそのまま小屋から出てみる。
すると、人の姿があったり、他にも小屋があったりと村のようなところへ辿り着いたことがわかった。
「最高だ」
涙が溢れて止めどなく流れる。
生きている。
安全がある。
闘わなくていい。
こんなことが幸せだったのだ。
それから俺が意識を取り戻したことに気が付いた彼や、助けてくれたであろう村の人々がこれまでの状況も含め、色々話しかけてくれたお陰で現状が飲み込めてきた。
ここはそこそこ大きな集落で、1000人近い人が住んでいるようだ。
畑があって、井戸もある。
生活には困らない場所だ。
家もそれなりに立派で、高床式住居くらいは文明が発達していることが伺えた。
かなりの範囲を開墾しており、大きな集会を行える建物のようなものも見て取れた。
遠くの方に神社のような建物もあって文化的に我々に近いものがあるような気がする。
見た目は皆、西洋っぽい髪色と目の色をしている。
黒髪の俺たちは少し異質なようだった。
もみくちゃにされた後、これからのことを相談しようと提案されて村長と呼ばれた男の家へ行くことにした。
「まぁ気楽にしてくれ」
村長と呼ばれる男の家で囲炉裏を囲む。
「色々聞きたいこともあろうが、まずは名乗らせてくれ。私はこの村の村長をしているエギンという」
「私は...」
彼の口から名前が出てこない。俺もだった。
「そうか。やはり転移者か」
「どういうことですか」
俺たちは食いぎみに質問をした。
それからエギンから語られた内容はこうだった。
まずここは思っていた通り、異世界。そしてエギンは元々この世界で暮らしている人間だということ。
そして時々俺たちがやってきた森の方からマレビトと呼ばれる異世界からの来訪者が現れること。
この村には何人ものマレビトが流れ着いていること。
マレビトは元の世界での自分の名前を思い出せないこと。
だから神殿でこの世界での名前を得るのだということ。
そして、最後に文明の発達は魔法によって進められていること。
確かに俺は彼の名前も俺の名前も思い出せないし、アリを殺したのは紛れもなく魔法だった。
「この世界には魔法があるんですか」
彼がエギンに聞いた。
「魔法はある。また、人間にも簡単な魔法は使える。だが、契約をしないことには完璧に制御することも大きな力を行使することもできないのがこの世界の理」
「契約?」
「この世には目に見えぬ力を司る者達がおる。
それを3つの性質に分けて天使と悪魔と竜と呼んでおる。
彼らとの契約なしに人間は大きな力を扱うことはできぬ。
この村にも幾人かそうした存在と契約をした者がおって、その者たちの力を借りて生活をしとるといっても過言ではない」
「その人たちはどうやって契約をしたんでしょうか」
「それぞれ契約の仕方は個人によって異なるが、天使はある日突然やってくると聞く。
その者の心の形を好いて近づいてくるのだ。
そして悪魔は供物を捧げなくてはならない。
それがなんなのかは悪魔の好みによるようだが。
最後に竜はこの世界に暮らしておる。
直接竜との対話を通して力を貸してもらうと書物には残っておる。
この村の守り神も竜であると古い言い伝えが残されておる程度だ。
総じてどれも偶発的なものだと思うべきだろう」
「そうですか。すぐに力を手に入れて元いた世界に帰るっていうのは難しいんですね」
「すぐにとはいかないだろう。マレビトは皆、この村で過ごす中で元の世界へ帰る手掛かりを探しておるから、その者たちと交流しながら見つけるのが良かろう」
「私たちがこの村に留まることは迷惑ではないのですか?」
「迷惑ではない。それにこの村以外の人間の住む領域なぞこの世界にはありはせんよ」
衝撃だった。予測しなかったわけではない。
「この村だけ...?」
「そう。この森を体験した二人なら分かると思うが、どこまでいっても森。もしかしたらと先祖がずっと先まで旅をしてきたが、どこにも人間はおらんかったのだ」
この日はこの他に村での生活のことを聞き、まだ分からないことだらけの彼と俺にはそれぞれ世話役がつくことになって会はお開きになった。
そして取り急ぎ明日には神殿で名前を得ることで話がまとまった。
村長の家を出ると、二人の少女が深々と礼をして出迎えてくれた。
一人はアル、もう一人はリルと名乗った。
それぞれ俺たちの世話役らしい。
二人に連れられて村を案内される。
気になっていたことを俺は聞いた。
「リルさん、この村の契約者ってどの人ですか?」
ああ、それなら。といってリルは契約者のところへ案内してくれた。
着いた先は大きめの建物で、中から強い光が時折点滅していた。
この建物の中で契約者たちは仕事をしているらしい。
中を覗くと、魔法を使って様々な生活用品が生み出されていた。
さながら工場のベルトコンベアであった。
「彼らはここで何を?」
リルに尋ねると「彼らは村に必要な物を生産して村を豊かにしてくれています」とやや抽象的に答えた。見た方が早いと言いたかったのかもしれない。
大木を切断して木材を生産する者。
大量の穀物や農作物を木箱に詰める者。
鉱物から金属を生成する者。
火炎を操り焼物をする者。
それぞれが得意分野を活かして村の発展に貢献しているようだった。
「村に貢献しているわけですね」
「そうですね。皆さん転移者、マレビトなので私たちとは比べ物にならないほどお仕事をされています」
転移者と呼ばれた彼らを見る。
彼らは日本にいた頃見かけたブラック企業で働くような暗い目をしていなかった。
むしろ明るいはつらつとした表情で仕事に従事している。
「なるほど」
そうしてしばらくしげしげと彼らの働く姿を眺めていたらそのうちの一番人懐っこそうな男が話しかけてきた。
「お二人さんは今日来たのか?」
「ああ、昨日になるかな。君は?」
「ああ!俺はカイン!水の小精霊と契約してて、ここでは木をウォーターカッターで切断して木材にする仕事をしてるよ。二人はどんな契約をしてるの?」
待て待てと言いたくなるほど早口で矢継ぎ早に情報を出してくる。
この男は見た目は16歳くらいで黒い髪色が特徴の小柄な男だった。
「俺たち契約はまだなんだ」
「あの森で何にも出会わなかったのかー!珍しいね!」
「というと?」
そこからカインが話してくれたことは
森はゲームでいうチュートリアルのようなもので、そこで力をつけてから森を出る仕様になっているという旨の話だった。
「まじかよ!俺たち不利じゃん!しょんべんしか光らなかったぞ!」
「光ったのか!?
レアスキルを持ってるってことだからめっちゃラッキーだよ!
レアスキルっていうのは例えばあそこにいる背の高いおっちゃんが持ってるようなやつなんだけど、おっちゃんは測量のスキルを持ってるから大きさとか長さを見ただけで測れるんだ!
例えば…」
とても小さな声で耳打ちされた。
「例えば、スリーサイズとかな。むふ」
三人で想像して鼻の下を伸ばしていたらアルとリルが恥ずかしそうに下を向いていた。
「ありがとうなカイン!素晴らしい情報だったよ!また来っから!」
じゃあな~というカインの大きな声で他の転移者たちもこちらに手を振ってくれた。
「では次を見に行きましょう」
そう促されて転移者のいる館をあとにした。
「次はどこへ?」
リルに尋ねるとむすっとした表情のまま答えてくれなかった。
「リルさん?」
「破廉恥」
リルはこうした話題が嫌いなタイプだったらしい。
代わりにアルが案内を始めてくれた。
「村の全体の形は菱形に近くなっていてその中を十字に大通りが通っているイメージです。菱形の斜辺のところに合わせて畑や穀物地帯が置かれています。
ちなみに破廉恥な人は村の端っこにある洞窟の地下牢に閉じ込められてしまいます」
アルも鼻の下に思うところはあったらしい。
今回も読んでくださってありがとうございます。
次の話もよろしくお願いします。




