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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第90話 完璧に擬態するはずが、案内中の使用人に三秒でバラされそうになった

 師父様から詳しい話を聞かされた後、雫の元へと戻った。

 笑顔を作って、明るい声を出した。


「お待たせして申し訳ありません、調整ごとがありまして。では部屋に向かいましょうか、広い屋敷なので場所をよく覚えておいてください、迷子になってもすぐには救助に向かえませんので」

「絶対なんかあったでしょ」


 雫は目を細めていた。

 笑顔を崩さないように努めた。


「なにもありません。はつさん、案内をお願いします」


 廊下の端にいたはつさんに目をやった。雫に背を向けて、そちらに向かって一歩踏み出した。

 後ろから、低い声が聞こえてきた。


「ねえ、師父さんに言ってきてあげようか。リンちゃんを虐めるならわたし帰るって」


 振り向かずに答えた。


「結構です、なにもありません。ですから騒ぎを起こすのはご勘弁を、お願いします」

「ふうん……じゃ、信じる。お部屋どんなとこだろうねー」


 腕を取られて、雫にガッチリと組み付かれた。歩調を合わせて、はつさんのところまで移動した。


「あらまあ、仲がよろしいこと」

「えへへ、こうじゃないと落ち着かなくて。案内お願いしまぁす」


 雫はいつものふわりとした笑顔に戻っていた。



 長い廊下を歩いた。雫とはつさんは談笑しているが、その内容は頭に入ってこない。

 師父様との会話を思い出す。承服できないと口を滑らせて、その後――



『欺いていたことが露呈すれば、信頼を失ってしまいます。任務の間……いえ、今後一切男には戻るべきではありません』

『戻りたくないと申すか』

『いえ……戦略上の判断です。関係はもはや不可逆的なもの、男のジンではリンの代わりは務まりませぬ』

『ならぬ。現状は一時の幻のようなもの、人として自然な形に収まるべきであろう。男女の契りは合理的選択であろうて』

『し、自然ではありませぬ。ころころ性別を変えるようなことがあっては、雫に申し訳が立ちません。どうか、お考え直しください、この身体のまま、リンのまま任務を全うしてみせます』

『ずいぶんと偉くなったものよのお、貴様ごときが。しかし……ふうむ』

 師父様は考え込んでいた。何度もキセルを吸って、やがて、にやりと笑った。

『ならば、ワシと賭け事じゃ。里への滞在中、貴様は女でいろ、許可をする』

『滞在中……ですか。なりませぬ、猶予で解決する問題では――』

『ゆえに賭け事よ。都合よく里の連中に貴様の素性は知られておらん、最後まで暴かれることなくリンとして全うできたのなら、その時は改めて話を聞いてやろう。終わり、行ってよし!』



 それ以上は一切耳を傾けてもらえず、部屋を追い出された。

 とどのつまり、リンの正体を誰にも暴かれるな、勘付かれるな、そういうことなのだろうと思う。師父様は一体なにをお試しになるつもりだ、それを全うしたとしてどう状況が変わると言うのだ。

 わからぬが、賭けには乗る他にない。


 もう、男には戻れない。


 着物の袖の中で、ぐっと拳を握りしめた。

 大丈夫、誰にも見破られることなど――はつさんが言った。


「雫様はリン様のことをどこまでご存知ですか?」

「どこまで、ですか、えー」


 思わず声が出た。


「はつ!」


 二人は同時にこちらを見た。リンの頬は、軽く引きつっていた。

 しまった、この人だけには事情が伝わっていたのだった。

 はつさんは両手を叩いた。


「あら懐かしい、そうそうご幼少の頃はわたくしを呼び捨てに――」

「や、やめてくださいっ、そ、そういうことは自分で話します、回顧に浸る楽しみを奪わないでください、お願いします」


 心臓がどくんどくんと跳ねていた。きゅうっと頭が締まって、息が荒くなっていた。


 にこにこしながら、はつさんが言った。


「はい、承知しました」


 はつさんは雫を見た。


「リン様はお恥ずかしいようなので、昔話にご興味がありましたら、使用人の控え室までどうぞいらしてください、内緒で教えて差し上げますよ」

「ですから!」


 雫は前のめりになっていた。


「わ、わ、絶対行きます、行きます、お茶菓子持っていきますね!」

「是非とも」


 二人はまたペラペラと喋り始めた。気は張っているのに、肩の力が抜けた。

 だめだ、話が通じない。はつさんには後で厳命しておかなければ、大変なことになってしまう。


 床を見て、歩いた。髪の毛がわさわさと揺れていた。

 何度か角を曲がったところで、はつさんが足を止めた。


「こちらのお部屋です。お連れの方たちとは少々離れてしまいますが、里長様が是非にもと」


 顔を上げた。草色の襖には見覚えがあった。一箇所だけ傷がついていて、それを隠蔽しようとして必死になったのを覚えている。

 ミシリと頭痛がした。ここは、この部屋は。


「リン様が幼少期に使われていたお部屋でございます。内装は当時のまま保存してありますよ」


 はつさんがいたずらっぽくそう言うと、


「うっそ、リンちゃんのですか!?」


 雫は目を輝かせた。

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