表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/134

第89話 今の自分があるのは雫のおかげだ

 師父様はどこからともなく取り出したキセルを咥えた。深く吸って吐き出すと、焼けた葉の臭いがこちらまで漂ってきた。

 頭を下げて、リンは言葉を待った。室内が影になり、床が暗くなっていた。


 灰を落としてから、師父様は言った。


「思いの外、貴様はようやっておる。褒めてつかわそう」

「は、お褒めのお言葉、痛み入ります」

「東山殿との関係構築、これほどまでに順調とは思いもよらなんだ」


 皮膚の表面が浮くような感覚があった。飛び跳ねたい、そんな気持ちを抑えた。

 雫との関係、師父様の目からしても、そう見えているのか。

 そうか、これまでの日々は失敗ではなかったか。


「発言、よろしいでしょうか」

「許す」


 ほんの少しだけ、頭を沈めた。


「機会を賜りましたこと、大変感謝しております。此度の任務は未熟なこの身を、成長させてくれました。春ではなく某に命じてくださったことの意味、今では痛感しております」


 言い過ぎではないか、なんの権利があってこのような気持ちを口にしている。それを伝えてどうなるというのだ。必要のないことだ、師父様と自分の間には。

 無礼を働くな、個人的な感情は内に秘めておけ。

 閉じた口が、また開いた。

 開いていた。


「忍びとして、なによりも人として、以前とは違うところに立っているのだと、自覚しております。誰かを思えば刃の切れ味が増します、身体をいたわえば常に能力を発揮できます、人を想えば簡単に死を選べなくなります。お教えには背くやもしれませんが、刃であるだけではかくも脆いものだと学びました」


 くらくらして、頭の位置を一点に保てない。鼓動と合わせるように、体内で熱が波打っていた。


 師父様は黙っていた。あるいは刀を抜いているかもしれない、切腹を命じられるかもしれない。芯は微かに震えている。されど、口は動き続けた。


「東山氏……いいえ、雫が全て教えてくれました。喜びを教えてくれました」


 目を瞑って、師父様の言葉を待った。少しして、小さな笑い声が聞こえてきた。


「ふふっ、発言とはそれだけか」

「は、左様です。……言葉が過ぎたかもしれませんが、嘘偽りない率直な心境です。任務評価の参考になるかと」

「然り。逸脱しておったわ。わしが癇癪を起こせば、切腹を命じてもおかしくはない。が、東山殿にお叱りを受けてしまうのでな、今回は許そう」


 頷いてみせるように、深く頭を下げた。


 ふぅっと師父様が煙を吐いた。


「さて、その任務の件よ、呼び止めたのは。順調も順調であること、この目で確かめさせてもらった。ゆえに、次なる段階へと移行するべきだと判断した。伝える、しかと聞け」

「はっ」


 師父様は立ち上がり、こちらへと近づいてきた。重い足音が、目の前で止まった。

 顔が近づいてくるのがわかった。ぬるい息が、耳にかかった。


「――夫婦になれ、この里で」


「はっ……は?」


 思わず、顔を上げた。師父様は正面におらず、耳の側でしゃがんでいた。


 圧のある声が、脳を揺さぶった。


「貴様は己が何者であるか、忘れたわけではなかろう」


 肩に手を置かれた。


「のう――ジンよ」


 首はぴくりとも動かなかった。ぐらぐらぁと視界が歪んでいた。

 それは違う、それだけは。


「返事をせい」


 固く締められているような首を無理やり動かして、師父様を見た。つばを飲み込んで、かぶれたような体内から声を絞り出した。


「しょ、承服できません、それは、雫が望んでない」


 違う、違う違う、好きになってもらったのはジンではない。

 好きで、好きなのは、リンだ。


「ほぅ、口答えするか」


 師父様はにやりと口元を歪めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ