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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第86話 門の外で、雫が待っていてくれた

 リンの放った一撃は、集によって下腹部の手前で受け止められた。裏返しの拳は、手のひらに押さえられていた。


「おわっ」

「ちっ」


 空いていた左手で追撃するも――それもまたパチンッという音と共に受け止められた。


 軽薄な笑みが凍りついて、集は頬を引きつらせていた。


「あぶねえっ、その技のキレ、容赦の無さ、凄み、ただの女じゃねえな。どこの所属だ」

「リンと申す。春の姉にして里の秘蔵っ子だ、二度と忘れるな」


 集の視線が春を向いた。マジ? と口が動いていた。


 横目で窺うと、春は頷いていた。


「うん、まー」


 集は飛び退いた。姿勢を低くして、片手を地面についた。


「つええ女は好きだ、だけども、かわいらしい子のほうがもっと好きだ。ここはひとつ手合わせ願おう」

「承知。軽薄な言葉の代償、その身で味わえ」


 リンはスカートの裏に隠していたクナイを抜いた。集も鉤爪を手に装着し、二人は跳び上がった。

 初撃がぶつかり合って、キンっという金属音が鳴り響いた。


「場所を移すぞ、来い」

「おうよっ」


 着地したその瞬間に、面々の声が聞こえた。


「え、なんで戦いになったの。止めなくていいの?」

「えと……加勢したほうが……どうしますアリス?」

「そっとしておきましょう」

「春たちは先に行ってるから、早めにねー。じゃ行きましょっか」


 リンは再び跳び上がった。見上げる雫に、親指を立てて答えた。

 敵を見据える。こいつを討たねば、雫のところへは帰れない。


 畑を通って、山間部へと向かった。剣戟の音が、牛の鳴き声と混ざり合っていた。



 戦いがあった。奴は一人前の忍びとして恥じない腕を持っていた。忍術の応酬、暗器のぶつかり合い、即席の仕掛けによる騙し合い、こちらも持てる力を駆使して渡り合った。

 ――激闘の果てに、決着はついた。魔法には手を付けず、奴を黙らせた。


 全身泥だらけで、外行き用の服が台無しだった。


「ちっ、変身抜きではあんな男にすら手こずるとは、鈍ったか」


 師父の屋敷へと向かう長大な石段を一人で上った。かつては鍛錬で何往復もしたこの階段も、心なしか、かつてより段差が大きいような気がした。

 653段を登り切ると、木造の古い門へと辿り着く。今は大扉が開いていて、門柱の前には――人影があった。


 リンは顔を上げた。小走りで階段を駆け上がった。


「雫」


 声をかけると、雫は柱から背中を離した。

 背中側にあった手を前に出して、雫は胸の前で組んだ。


「おかえり。下まで行こうと思ったんだけど、こっちのほうが雰囲気出るかなーって」


 思わず、笑顔になった。顔が緩んで、抑えが利かなかった。

 石畳を走って、雫へと近づいた。


「お待たせしました。申し訳ありません、お側を離れてしまって」

「いいよ、別に。それより、勝った?」

「はい、勝ちました。奴は今頃、熊の餌になっています」

「よかったぁ」


 雫も表情を崩した。パチパチと控えめに、手を叩いていた。


「では、行きましょうか。アリスたちは中に?」

「うん。先に難しい話を済ませちゃうって。ほんとはわたしに会いたかったみたいなんだけど、後にしてもらっちゃった」


 茶目っ気たっぷりに、雫は首を傾げた。


「まったく、神をも恐れぬお人だ。同行します、お手を……ぁ」


 出しかけた手を、引っ込めた。反対側の手で、頬を触った。粘性のある泥が、指に付着した。

 自分の身体を見た。ところどころ、布が破けていた。露出というほどでもないが、ないが。


 顔を伏せた。肩のあたりから地面に引っ張られるように、そんな感覚があった。


「雫……あの……」

「うん」


 拳に力を込めた。口内に溜まった唾を飲み込んだ。それから、顔を上げた。


「手を繋いでも、構いませんか。泥だらけです、みっともない格好です、それでも、隣を歩いてもよろしいでしょうか」

「ダメっていうと思うの?」

「思いません。だから言いました、あるいは……」


 このような自分でも喜んでくれるのではないか、その言葉は口を出ない。


 言い直した。


「いえ、改めてお手を取らせていただきます」


 雫の手を取った。ぎゅっと握って、隣並びで門に向き直った。


「ねえリンちゃん」

「は、はい、なんでしょうか」


 なにか考えるような沈黙があって、それから雫は言った。


「師父さんと会うのに、手を繋いで行くの?」

「あっ……」


 肩が縮こまった。また顔を伏せそうになった。


 確かに。


 そう思った、思ったが、手は離れようとはしなかった。

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