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TS魔法少女になっても「某は忍び」と言い張る凄腕忍者、護衛対象の美少女にガチ恋されそうろう  作者:
一章 TS魔法少女は忍びたい

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第8話 リンちゃんになら本当に殺されてもいいよ

 ほぼ半裸の雫は、露出など気にせず、堂々と二本の足で屋根に立った。薙ぐように片手を振って、敵騎士に向かって叫んだ。


「どたばたどたばた人んちの上でいいかげんうるさい!」


 敵は目を丸くした。

 バツが悪そうに天を仰いで、片手で額を押さえた。


「オウっ、それはそれは夜分遅くに失礼しました。ですが雫さん、穏便にご同行いただけるのならば、ワタシ達もこのような真似は――」


「しないっていつも言ってる。あなた達の仲間にも、そうじゃない人たちにも、いっつも。なのにこんなに暴れてさぁ、いい加減家族だって誤魔化せなくなる」


 リンの背中がぴくっと跳ねた。

 よもや同居の家族に未だ悟られていなかったとは、それも雫殿の特異体質とやらが成せる離れ業だろうか。

 なんとも怪奇な。


 敵は言った。


「その件については申し訳なく思います。ですが雫さん、あなたの身に宿る神秘はあまりにも強大なものです。どうかワタシ達のお願いを聞いていただけませんか、これは正義なのです」


「うるさいっ、綺麗事言うな、いきなり攻撃してきたくせに。わたしの安眠を返せ!」


「それも、謝罪させてほしいのです。嗜虐的なブランシュの先走りを止められなかったこのワタシの罪、どうかお許しください」


「許すかっ、うるさいって言ってんのわたしは! 嗜虐的だかブランシュだか知らないけどさ、あんたが上司ならあんたが命令したのと一緒でしょ!」


 言葉に気圧されるように敵はのけぞった。


 雫の叫びには、まるで暴風が吹き荒れているような圧があった。

 リンは彼女の守護も忘れて、ただただ立ち尽くしていた。


 背中に寒気すらも感じる。雫から目が離せない。

 下手なことをすれば、自分が噛みつかれそうだ。


 そのようなことを思っていると、振り向いた雫と目が合った。


「リンちゃん!」


「は、はい、なんでしょうか。奴の抹殺をお命じとあれば、今この場にて直ちに」


 リンは背筋をピンと伸ばして、雫に頭を垂れた。


 雫は口を結んだまま、かたんかたんと屋根を鳴らして近づいてくる。

 ふいに、リンは手を掴まれる。


 細くしなやかな少女の指は、わずかに汗ばんでいた。


「し、雫殿……?」


 顔を上げると、また目が合った。

 目の前の雫は、真剣な表情でじっと自分を見つめている。


「リンちゃんはわたしのなに? あの人達となにが違うの? 正直に言って、隠し事なんかしたら許さないから」


「は、某は護衛を命じられておりますが、仔細は伏せられているために、任務の本質は把握しておりません。恥ずかしながら、忍びとはただの刃とも変わらぬのです」


 雫は目を細めた。

 凍りついたような、ぞっとする表情だった。


「ふぅん、じゃあリンちゃんも、突然わたしのことを狙うようになるかもしれないんだ、あの人達みたいに。ていうか、最初からそれが目的?」


「は……正直に申しますと、そ、その可能性はゼロではないと、お伝えせねばなりません。ですが……ですが、寝首をかくために接近しているわけではないと、それだけは確かな事実であります」


 口が勝手に動いているかのようだった。

 まるで魔力に当てられているようで、心の中身がそのまま外に飛び出していく。

 背中が湿り気を帯び、繋いだ手には、少し力が入った。


 雫は、ふっ、と表情をやわらげた。

 少女の笑顔を、街灯の間接光が照らしていた。


「じゃあさ、約束してくれない?」


「約束、ですか」


 雫の親指が、リンの手の平をなぞった。壊れ物のように触れられている。

 こんな扱われ方は、知らない。


「うん、約束。もしものことがあったら――」


 頬に、瞳に、唇に意識が集まった。

 リンは雫から、目が離せなかった。


「雫ちゃんを裏切るよりも、組織の方を裏切るって」


 胸と頭に圧迫感が生まれて、声が出せなかった。

 忍びの掟や師父の言いつけよりも優先されるものなど、あるはずが……あるはずが。


「ふふ、やっぱり困るんだね。じゃあせめてわたしを殺すことになったら、命令じゃなくて、自分の意志で殺してね」


「そ、そのようなことは、某には……」


「これ、約束の証」


 雫が目を閉じた。やや前かがみになり、口をこちらに寄せてきた。

 そっと近づいてきて、唇がリンの頬に触れた。


「んっ」


 背中が跳ね上がった。かちこちに固まって、顔は正体不明の熱に襲われる。

 熱は、頬の内側までも溶かしてしまいそうだった。

 脳がとろけるような感覚に襲われて、目が回る。なんだこれは、なんだ、雫殿は、なんだ。


 某に、なにをした。


 リンから離れていって、雫はにたぁと笑った。


「ま、返事は今度でいいよ。でも、雫ちゃんのキスは安くないってことだけは、覚えておいてね」


 吃音のように、何度も声が出た。


「は、は、っは、承知、いた、いたしました」


 雫は、なぜか、腕を組んできた。

 抱き寄せられて、くっついて。


 リンがめまいに対処していると、雫は敵の方を向いた。


「わたしを殺していいのはリンちゃんだけだって決定しました、もちろん拉致するのもね」


 敵もどこか唖然としたように口を開けていた。


「ノー、それは、予想外です」


「ね、リンちゃん」


 雫はリンにウインクをした。


 激しくまばたきをして、息を整えて、忍びとして――リンは平静を取り戻した。

 この契約、全てを即座に決定するわけにはいかぬ、いかぬが、なんとも魅力的だ。


 乗ってみたく、思う。


 雫に抱きつかれたまま、リンは敵を睨みつけた。


「某は命に代えてもこの方をお守りする。続けるというのなら――死ぬ気でくるがよい」


 左腕に絡んだ雫の腕をぐっと引き寄せる。右手に短刀・黒き翼を構える。

 身体が澄んでいる。明鏡止水、心にわだかまりはない。奴は強敵だが、まるで負ける気がしない。


 数秒の睨み合いの後、敵は深く息を吐いた。


「はぁ、これじゃ完全に悪者です。仲間のお命も助けなくちゃいけませんから、今日はこのあたりで撤退させてもらいます」


「賢明だな」


 隣で雫が「べーっ」と舌を出した。


「本格的に嫌われちゃいました、ブランシュと一緒に反省会です」


 そう言って、敵は背を向けた。金色の後ろ髪を煌めかせながら、仲間の元へと撤退していった。


「また会いましょう、近い内に」


 などと、言い残して。


 

 敵の姿が消えてしばらくしてから、リンはようやく肩の力を抜いた。重い息を吐き出してしまいたかったが、雫の手前それは控えた。


 夜空から目を切って、密着する雫に顔を向けた。


「敵は去りました、さ、もうお離れになっても――ん」


 雫は、熱心にリンを見つめていた。


 他のなにも気にしていなさそうで、その瞳はまっすぐにこちらを向いている。

 まばたきが少ない。口元は引き締まっている。腕には力が入っていて、離れていこうとしない。


「どうか、されましたか? もしや新手を発見なされた、とか」


 雫は首を左右に振った。


「わたし、リンちゃんになら本当に殺されてもいいよ」


「また雫殿は人の悪い御冗談を。なにゆえそのようなことを、申されますか」


「だって、あんなにわたしのために真剣になってくる人、他にいないんだもん」


「そういう話では……ないのでは」


「いーの」


 雫は腕に頭を寄せてきた。


「んふふ、リンちゃん大好き」


 つぶやきが聞こえてしまって、胸やら腹やらふくらはぎやらが、弾けて飛んでいってしまいそうになった。


 寄り添っていると、ひゅっと夜風が通り過ぎていった。

 その冷たさに、半裸の雫殿は寒くないのだろうか、と、ようやくリンは思い出した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。面白いと思っていただけたら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


第一章はここで一区切りですが、リンと雫の危険でハチャメチャで、愛の重い関係はこの先さらに加速していきます。


このままなろう版でも順次更新していきますので、二章以降もお付き合いいただけたら嬉しいです。


もし「続きが気になる」「少し先までまとめて読みたい」と思っていただけたら、カクヨム先行版もあります。

https://kakuyomu.jp/works/822139840779745257

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