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TS魔法少女になっても「某は忍び」と言い張る凄腕忍者、護衛対象の美少女にガチ恋されそうろう  作者:
二章 女の子も任務のうち

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第9話 某は手練の忍びゆえ、母親の前で少女になるくらい造作もない

 セーフハウスのベランダから雫宅を眺めて、リンは喉を鳴らした。


「むぅ……奇天烈なこともあるものだ」


 部屋の損傷が、銃弾で穿たれたはずの壁が、綺麗さっぱり修復されていた。まるで昨夜の戦闘など存在しなかったように。

 朝日を反射する窓ガラス。あのカーテンの向こうで雫は眠っている。


 いつからああだったのか、そもそも本当に壊れていたのか。あれが雫殿の力なのか。


「わからぬ……だが」


 息を吐きつつ、手すりに額をあてた。

 この件で悩むのはやめよう、そういうものだと思う他にない。あくまでも護衛任務、目的は秘密を解き明かすことではない。


 なによりも本人が日常を望んでいる。ならば、守るものは単純明快だ。


「よし、そろそろ迎えに行くか」


 つぶやいて、顔を上げた。


 振り向くと、窓の向こう側に春が立っていた。

 眉をひそめて、じっとこちらを見つめていた。


「変だね、まさかとは思ったけど」


 腕を組んで、リンは頷いた。胸を潰しそうになって、少し肘の位置を低くした。汗で滑って、ふたつの乳が軽く揺れた。


「ああ、妙なこともあるものだ。しかし春、気にしすぎるな、考えを巡らせれば腕が鈍る」


 春の視線が、首筋から胸元に下がっていった。


「まさかまさかだよ、サラシで登校してたなんて、いくらなんでもそれはないよ兄姉さま」


 親指と人差し指の付け根で、春は自分の目元を覆った。深くため息を吐いていた。


「は?」


「あとさ、もう少し恥じらおうよ。そんな丸出し、雫さんに見られたらびっくりされるよ」


 自分の胸を見た。サラシを巻く途中だったので、確かに肌は露出している。


 すぐに顔を上げた。


「着替えの途中だ、致し方ない。心配するな、学校では常識的に振る舞っているつもりだ」


 横腹に手を当てて、肉を揺するように掌底を回した。ぱちんと皮膚を叩くと、春はまた息を吐いた。


「手すりに生おっぱい乗せてる人が言ってもなんも説得力ないから」


「そんなことはしておらん」


「どっちでもいいのー、ほらこっち」


 腹に置いていた手を取られる。春は力を入れて、室内へと引っ張り込もうとしてきた。

 腕が抜けるほどの勢いで引かれて、足がもつれた。前のめりになって、スネを段差に強打した。


「ぬっ……なにを」


「いいからっ、ブラ貸してあげるからおいで」


「サラシがある」


「ないのと一緒だよっ」


 腕を引っ張り返した。ベランダとリビングの敷居を境にして、力が拮抗する。なんたる非力、妹と張り合うことになるとは。つくづくこの身体は女。


「必要ない。某はお洒落などをするためにこの身体を授けられたわけではない」


「最低限することがあるのぉ。いいの? そんなんじゃ雫さんに嫌われちゃうよ」


「なっ――おわ」


 力が抜けて、リビングへと引っ張り込まれた。

 バランスを取っていると、一歩引いた春が手元で端末を操作するのが見えた。


「これ、忘れたわけじゃないでしょ」


 ぴっ、と機械音が鳴って、声が部屋中に響き渡った。甘くとろけるような、少女のつぶやき。戦場にはふさわしくない、ふわふわしたひとこと。


『リンちゃん大好き』


 スピーカーから流れる記録音声。鼓膜から音が入ってきて、頭の後ろがぴりりと震えた。ヘソの上からぬるめの熱が上がってきて、顔で行き止まった。


 鼻がぶつかりそうな距離に、春が顔を寄せてきた。


「体育とかの着替えでさ、サラシだったらドン引きされるよ」


 春は強調するように言った。


「任務、にも支障が出ると思うんだけど、ほんとにそれでいいわけ?」


 眼球が震えた。かすかに頭が揺れていて、芯が通らない。

 吐息と声が混ざり合う。


「いや……それは問題……かもしれぬ。わかった……ブラの付け方とやらを……伝授してくれ」


 春の口元が、にぃっと歪んだ。


「もっちろんっ、かわいいの選んだげるね」


「機能的なので構わ――」


「構わなくないよ」


 指先で、突起に触れられた。弦のように震えて、痺れが身体に広がった。


「あぅ……」


 足の骨が無くなったかのように、力が抜けていった。


 別室にてあれこれと試着のようなことをさせられた。楽しそうな妹は、鼻歌混じりに下着を選んでいた。

 ホックで留める形のブラジャーを付けさせられて、ようやく制服に着替えた。胸の締めつけが、いくらか気持ち悪い。サラシともまた違った、なんともいえぬ異物感。

 そのせいか、心臓の音がいつもより大きく聞こえた。


 息も整わぬまま、時刻を確認すると、ちょうど雫との約束の時間にさしかかろうとしていた。

 リンは部屋を飛び出し、階段を駆け下りて雫宅の玄関へと向かった。



 チャイムを押すと雫ではなく、母親が出てきた。

 異質な雰囲気をまとわない、普通、と言っていい女性だった。小じわは浮かんでいるが、まだそう歳は重ねていないように見える。


 おそらく雫が何者であるかも把握していないのではと、直感した。


「あら? あらあらあらあら、その制服、もしかして雫のお友達?」


「はい、それがs――私は、彩峰と申します。雫さんとは仲良くさせてもらっています」


 頬を上げて笑顔を作ると、にたぁと母親の表情が崩れた。


「へぇ、雫にこんなお友達がいたなんてねえ。全然知らなかったわぁ」


 母親は前のめりになって、リンをじろじろと観察していた。声も弾んでいる。


「は、はい、最近仲良くなったものですから。あの、それg……私になにか、変なところでも、ありましたか?」


 疑われている。変身が見破られたのかもしれない。

 どうする、眠らせるわけにはいかない、やり切るしかない。女の子らしく、少女らしくだ。


 母親はきょとんと目を丸くして、口を抑えた。


「あらごめんなさい、あなたみたいな子なかなかいないから、おばさんちょっと感動しちゃって」


 どくどくと全身を血が巡る。早くなる心臓の音を、培った技術で抑える。


「そうですかぁ、でもぉ、私ぃ、全然普通ですよぉ、ふつ……うぅ」


 身体をくねらせ、高い声を出す。内側からくすぐられたように、胸の中が痒くなってくる。

 顔がひきつる。妙な笑顔になる。これも任務のうち、なりきれ、女に。


「お母様ってすごく美人ですよね、いいなぁ、憧れちゃうなあ」


 そうだ、この感じだ。もう一息。声を高く、耳触りのいいように。

 両手持ちのカバンを身体の前でしっかり持って、少し首を傾けた。


 声を大きく、ハキハキと言った。


「羨ましぃ、私ももっと、かわいくなりた――」


「あれ? リンちゃん?」


 母親の背後から、ねぐせをつけたままの雫がひょっこりと顔を出した。


「な」


 手には歯ブラシを握っていて、リンを見つめながら歯を磨いている。


「あ、寝坊不可避だから起こしに来てって頼んだんだった、全然平気だったね」


 ニコッと雫は笑った。


 鳥肌が立つような感覚があって、遅れて身震いがやってきた。

 身体が熱を持つ。湿地帯にいるような、嫌な汗が一気に吹き出してきた。


 歯ブラシを口から出して、雫はさらに大きな笑顔を向けてきた。


「おはよう、リンちゃん」


 細く消えてしまいそうな声が出た。


「ぁ……おはようございます……雫さぁ……ん……」


 声が先細って、後ろの方は自分でもなにを言ってるのか聞き取れないほどだった。


「雫ぅ、こんなかわいいお友達がいるならもっと早く紹介してよ。ジュニアモデルさんかと思っちゃったじゃない」


「あ、わかるー」


 リンなど無視して、雫は母親と談笑を始めた。


 この任務、敵と戦うよりも寿命が縮まる気がする。

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