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TS魔法少女になっても「某は忍び」と言い張る凄腕忍者、護衛対象の美少女にガチ恋されそうろう  作者:
二章 女の子も任務のうち

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第10話 股下はスースーするのに、右手だけが暖かい

 雫と手を繋いで、学校までの道を歩いた。

 慣れないスカートの下を冷たい風が通り抜けるが、それに反して、雫と触れ合う右手だけが妙に熱い。

 しかも肩まで寄せてくるので、ほとんど密着しているのと変わらなかった。


 学校まで数分のところまで来ると、周囲は同じ制服を着た生徒で溢れていた。


「雫殿、そろそろ、手を離されてはいかがでしょうか」


 リンが言うと、雫は丸っこい目で見つめてきた。


「ふぇ? なんで?」


「その、人目が増えてきたゆえに、こう、密着していると、いくらか、目立ちます」


 ドキ、ズキ、と胸が鳴り続けている。やわらかな手の感触とは反対に、身体はずっと硬い。

 周囲からの視線が絶えることはない。それが刺客のものなのか、好奇の目なのか、判断が付きにくくなるのは、困る。


「えー、これくらいみんなしてるよ」


「それは、そうかもしれませぬが……」


 確かに周りを見れば手を繋いでいる二人組は、稀に存在する。スキンシップ、なのだろうとは、思う。女性同士なら珍しくない、ないのかもしれない、しれないが。

 どうしても、落ち着かない。


「あまりこのようなことは慣れていないので、どうしても気に――む」


 リンの鼻がひくっと動いた。下がり気味だった顔を上げた。

 くんくんと匂いを嗅ぐ。顔を動かして、周囲を見回す。

 色濃い気配がする。ただの匂いではない。身体の芯に伝わってくる――魔力の気配。


「今度はどうしたの? ワンちゃんの物真似?」


「いえ、このあたり、魔の者の気配が濃くなっております。昨夜の刺客と瓜二つ、注意してください、また例の狙撃手に狙われているかも知れません」


 騎士ではなく、あのブランシュとかいう珍妙な女の気配がする。


「へぇ、魔法少女同士で通じ合うところがあるんだ」


「某は魔法少女などでは――むっ」


 リンは車道を挟んで向かいの歩道ににらみを利かせた。

 見える、感じる、あの女、間違いない。


 そこにいるのは制服を着た長髪の女子生徒。

 白い縁の眼鏡をかけたその女は、スマートフォンをいじりながら歩いていた。格好はもちろん、顔も髪型もあのブランシュとは異なる。

 巧妙な変装。だが、その匂いまでは誤魔化せない。


 リンは左手にクナイを出現させた。


「ご安心ください。この場で殺します」


 うなじを狙う。一撃で致命傷を――雫に手を思いっきり引っ張られた。


「こらっ、また約束忘れてる。学校ではどうするんだっけ?」


 雫は軽く頬を膨らませて、リンを睨むように見ていた。

 思わずリンはのけぞった。そうだった、通学路でも同じことか。


「……始末するのは、怪しい動きを見せてから……でした」


「ん、よく言えました、えらいえらい」


 雫に頭を撫でられる。よしよしと口にして、まるで子供をあやすように。

 量の多い、さらりとした髪が擦られる。頭が軽くなって、緊張感が、ほどけそうになる。


「では、尋問に切り替えます。雫殿はこちらに」


 と言ったはいいものの、雫はリンの手を離して、勝手に道路を渡っていった。

 声をかけても聞いてもらえず、仕方なくそのあとを追った。


 白眼鏡の女に近づいた雫は、その顔を見て言った。


「あれ、なんだ越谷さんじゃん」


 その声に気づいたのか、越谷と呼ばれた女は振り向いた。


「ぇ、あ、東山さ……ひ」


 越谷は、しゃっくりを途中で無理矢理止めたかのような声を出した。


 時が止まったかのように口を開けて、越谷は眼鏡の奥で瞳を揺らしていた。腰が引けていて、今にも倒れてしまいそうに見える。

 唇が白くなっていく。その目は、雫ではなく背後にいるリンに向いていた。


「ぁ……え……こ……こ……」


 怪しい女だ、やはり殺すか。


 訝しむリンをよそに、雫が首をかしげた。


「こ?」


 越谷は故障した機械のように「こ……ころ……」と声を漏らした。そして突然、頬が上がったかと思うと、笑顔らしき表情になった。


「こ、こんにちは、東山さん、私になにか、用事、ですか?」


「あ、おはよう。えっと、ごめんね急に、リンちゃんが越谷さんと話がしたいって言うから」


 雫が身体を退けたので、リンは一歩前に出た。越谷の頬は小刻みに、ぴく、ぴく、と動いていた。

 なにかの符丁だろうか。あの騎士に合図を出しているのかもしれん。


「そ、そう、私に、なんで」


「んー、リンちゃんの心配性みたいな。あ、この子は越谷まひるさん、同じクラスだよ、昨日は……あ、お休みしてたんだっけ」


「そう、そうですね、私、具合が悪くて、はは、あはは……では、これで、今朝は忙しいので……」


 越谷まひるはさっと背を向けた。


 リンは言った。


「待たれよ」


 電撃が走ったかのように、越谷まひるは肩を丸めた。


「目は誤魔化せても、嗅覚までは誤魔化されん。雫殿に免じてここは見逃す。だが、下手なことをしてみろ、今度こそ命はないと知れ」


 背を向けたまま、越谷まひるは黙り込んだ。金縛りにあったように、ぴくりとも動かない。 


 傍らで、また雫がむっとした顔になった。


「こおら、そういうこと言わないの。証拠もないのに失礼でしょ」


「しかし雫殿、御身のことですぞ。寛容も過ぎれば、身を滅ぼします。意向には従います、ですが、釘を刺しておかねば、あなたの日常はこやつに食い破られます」


「じゃあ昨日殺せば良かったじゃん。後出しなんてダメだよ」


 リンは言葉に詰まった。言い訳のしようもない、リスクを放置したのはこちらのミスだ。


「申し訳ありません。未熟ゆえの不覚。約束します、再び戦場で相まみえた際には、必ず首を献上しましょう」


 会釈するように頭を下げた。不機嫌そうな雫の表情は、それでも和らいでくれなかった。


 そうしていると、どたっ、と重い音が聞こえてきた。

 見ると、越谷まひるが鞄を手から取り落としていた。そして彼女は、地面に膝をついた。


「越谷さん!?」


 雫が駆け寄ると、越谷まひるは言った。


「ごめ、んなさい、私、物騒な、話が苦手で、貧血みたいな感じです、はは、お気になさらず」


 声は上ずっていて、微かに震えていた。

 その横顔は、まるで死人のように青ざめていた。


 変わった女だ。刺客にしては臆病に過ぎる。


「リンちゃん謝りなー」


 雫に叱責されて、まさか勘違いだったのかと、リンは思った。

 魔法というものはつくづくわからぬ。

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