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TS魔法少女になっても「某は忍び」と言い張る凄腕忍者、護衛対象の美少女にガチ恋されそうろう  作者:
二章 女の子も任務のうち

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第11話 友達作りとはおそらく諜報活動の亜種である

 あの越谷まひるという女は保健室に逃げ込み、午前の授業には顔を出さなかった。

 奇襲の準備か――とリンはやきもきさせられていたが、どうしても雫の側を離れられなかった。


 教室内には、また異なる魔法の匂いが漂っていた。どうしてかこの魔力はラベンダーの香りがした。鼻の奥に付着し、あまり吸いすぎるとむせかえりそうになった。


 雫に聞くと「そんな匂いしないよ?」と変人を見るような目で言われた。クラスメイトに尋ねてみても、やはり反応は変わらない。


 なぜ昨日は気づかなかったのか、やはりあいつはクロではないか。


 授業中、常に匂いの発生源――山田アリスの動向を注視していたが、向こうはどこまでも一介の生徒として振る舞っていた。

 机に肘をついて黒板を眺め、時計をちらちら見てはあくびをする。指先は落ち着きがなく、しきりにシャープペンシルを回していた。


 昼休みになって、リンはようやくアリスに声をかけた。


「山田殿、少々お話を伺っても、よろしいか」


 椅子に座っていたアリスは、腕を目一杯伸ばし机を押しやった。前が空くと、飛び跳ねるように立ち上がった。


「いーですよ、でも、お腹ぺこぺこなので、ご飯どきにしましょう」


 にんまりとアリスは笑った。


「生憎だが、食事は携帯糧食で済ませている。今この場で話を聞いてもらおう」


「ノンノン、プロテインバーなんかでお腹いっぱいになってると、ダイエットも逆効果ですよ。ですので、学食に集合、決定しました。もちろん雫さんも一緒に」


 言うやいなや、アリスはリンの横を通って教室の出口へと向かった。


「待たれよ、話はまだ終わっていないぞ」


「すこーし用事があるので終わったら学食に向かいます。先に行っててください」


 後ろ向きに手を振って、アリスは教室を出ていった。


 有無を言わせない女だ。あの態度、気に食わんな。

 空になった出入り口を見つめていると、横から雫が顔を出した。


「リンちゃん、またアリスのこと襲おうとしてた?」


「してませんっ」


 いくらか、声が荒くなってしまった。



 昼時の学食は、女子生徒たちで溢れかえっていた。券売機にも、提供口にも長蛇の列ができている。

 図ったなアリス、このような場所では刺客が特定しづらい。今狙われたら、面倒なことになる。


「リンちゃんなににするー? なに食べても美味しくないけど不味くもないから安心していいよ。あ、わたしらーめんにしよっと」


「は、では某は毒見を担当いたしましょう」


「自分は?」


 雫は首をかしげていた。


 そうやって学食の入口前にいると、アリスがやってきた。にこにこ笑顔を振りまきながら、人波をかき分けてくる。


「リンさーん、雫さーん、ごめんなさい、まひるが駄々をこねるので遅くなりましたです」


 あの越谷まひるが、アリスに腕を引かれていた。

 無理に引っ張られているようで、たたらを踏みながら近づいてくる。


「駄々なんて……具合が悪いって……それで……ひぃ」


 リンが一瞥すると、越谷まひるは大きくのけぞった。カタカタと歯が震えているのが、わかった。


「貴様……」


「あ、まひるちゃん、また会ったね。そっかぁ、アリスと仲良しだもんね」


 目の前までやってくると、越谷まひるは一切リンに目を合わせなくなった。雫を見て、控えめに微笑んでいる。


「そ、そうなんです、仲良くさせてもらってて、お昼の約束……してたから」


 リンはアリスの目を見た。


「聞かせてもらおう、なぜこいつと一緒に――」


「リンちゃん言葉遣い! クラスメイトだよ」


 雫に叱責されて、言葉が喉の奥に詰まった。


 咳払いをすると、自分の感覚とは異なる、甘ったるい声が出た。


「んんっ……」


 胸が浮くような感覚。むず痒い。


「失礼、しました。アリスど――」


「殿は硬いよね」


 雫に横槍を挟まれて、また言い直した。


「アリス、ちゃ、ちゃん」


「はい、どうしましたか」


 声を弾ませて、アリスは笑顔を浮かべた。子供に話しかけるように、語尾が伸びている。


 ぐぬぅ、なんたる恥辱、刺客に媚びへつらうとは。だが、主の意向ゆえに、守らねば。


「まひるちゃんとは、どういったご関係ですか? お二人がご一緒だと、疑念が確信へと変わりそうなものですから、是非筋の通った説明を頂きたい」


 アリスはわかりやすく首をひねった。


「ほわい? お友達と一緒にいたら、いけませんか?」


「お二人には、独特の匂いがあるもので、結びつけずにはいられないのです」


「ふぅん……あはっ、よくわかりませんけど、リンさんは疑い深い性格なのですねー! そんな怖い顔してると、かわいいお顔が台無しですよ」


 アリスは越谷まひるを見た。


「ね、まひる」


 まひるの首は、雫を向いたまま一切動かなかった。


「私に振らないで……ください」


 肩をすくめて、アリスはリンに向き直った。


「喧嘩はやめて、仲良くしましょう。ランチタイム、ご飯はみんなで食べると美味しいのです」


 雫は言った。どうしてか、アリスとも変わらぬほどに声が弾んでいた。


「あ、ねー、食べよ食べよ、みんなで一緒にお昼ご飯」


 リンは雫の視線を感じた。笑顔が胸に刺さる。


 仲良くと簡単に言うが、こやつらは疑わしき者たち。顔を突き合わせて、食卓を囲むなど――懇願するように雫が言った。


「ね、いいよね」


「しかし、この二人は」


「こんなの、ずっとなかったから。お願い、二人と仲良くしてほしい」


「雫殿……」


 胸の前で手を組んで、雫はじっとこちらを見つめた。

 小動物のようなその瞳。神秘を宿しているとは到底思えない、ただのいたいけな少女。いつしか笑顔は消えて、雫は目を細くしている。


 飄々としていても、中身は十六歳の少女。自分の置かれた状況に思うところは、あって当然だ。意識的か、無意識か、人を遠ざけていても、なんら不思議ではない。

 仕えるものとして、その意向には、やはり従う他ない、か。


「……承知しました。制服を纏っている間は、彼女らを友として扱いましょう」


 雫の顔に、笑顔が戻った。


「うん、ありがとう!」


「いえ……」


 見つめられていると落ち着かず、目を逸らした。

 そわそわとした感覚を抑えようとしていると、意識の縁がアリスの声を聞いた。


「よかったですねぇ、まひる! これでリンさんとは正式にお友達です!」


「は、はは……そうですね、よかった、よかっ……はは……うふふ……」


 越谷まひるの声に、あまり張りはなかった。


 本当にこれでいいのだろうか、とリンは思った。

 一瞬の思案の後、考え方を転換させれば、危険人物を最も近いところから監視できる、と思い至った。


 そうだ。雫殿の言う通り、感覚以外に確たる証拠はない。じっくり化けの皮を剥いでから、始末すればいいだけの話。

 学校という場では、おそらくそれがルールなのだ。


「アリス、ちゃん。今後とも、よろしく頼む」


「イエースっ」


 リンは、まひるを見た。


「越谷まひる……ちゃん。そのままのあなたでいることを望む。然らば、我らは良き友となれるだろう」


「は……はい」


 越谷まひるの返事は、やはり硬かった。




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