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TS魔法少女になっても「某は忍び」と言い張る凄腕忍者、護衛対象の美少女にガチ恋されそうろう  作者:
一章 TS魔法少女は忍びたい

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第7話 声帯は、窮地に女子の声を出す

「あれは……」


 新手は雫宅の屋根に立ち、リンを待ち構えていた。

 月を背にしてきらめく金色の長髪。真紅のカチューシャ。肩や太ももの露出した西洋甲冑。とても刺客とは思えない、またしても珍妙な女。

 素肌を狙い、リンは両手に棒手裏剣を構えた。


 その敵――青い目をした騎士が、いたずらな少女のように声を張り上げた。


「新顔の隠密さん、まさかブランシュを退けるとは、驚きました」


 ブランシュ、さっきの女のことか。ならば十中八九こいつも魔法を操る者。先手を打つ。

 リンは切っ先に魔力を乗せ、棒手裏剣を投げつけた。

 鋭利な棒は闇夜に紛れ、一直線に敵へと向かっていく。わずか百メートルの距離。ものの一秒で達する。首と肩、致命傷は免れない。


 しかし、到達するその直前に、敵はにやりと口元を歪めた。


「おう、手裏剣。実用的な形状をしていますね」


 敵は手元にエメラルドのごとき緑色の片手剣を出現させ、間髪入れずにそれを振り上げた。

 鉄の弾ける硬い音が二度響き、手裏剣は跡形もなく消滅した。


「む」


 敵より二軒前の屋根に着地したリンは、一段と集中を深めた。視界が狭まり、周囲が黒く見える。

 黒き翼を右手に構え、音よりも早く敵に迫った。

 ろくに鎧のない風船のようなバスト、剥き出しの首、口角の上がった顔。

 上体を見据え、一瞬のうちに間合いを詰める。膝を抜き、低い姿勢から刃を振り上げる。


「やらせてもらう」


「キュートなお顔でも、口は物騒ですね」


 振り上げた右手に、抵抗があった。

 刃は首に達することなく、敵の片手剣とぶつかりあった。ぎぃっと音を鳴らして、鍔迫り合いになる。


「ちぃ……」


 身体のバネを利用して押し込もうとするが、均衡は崩れない。刀身から黒の瘴気が溢れ、敵方の発する緑の粒子と混ざり合った。

 引くか、押し切るか、思考を巡らせていると、敵が口を開いた。


「あなたは、なんのために雫さんを守りますか」


「っ……貴様に伝える道理があるか」


 なんのためかなど、知れたこと。課せられた任務は命に代えてもこなすだけ、理由も背景も末端の知るところではない。


「ワタシたち仲良くできると思いますよ、マイ・フレンド、シノビさん」


「ふざけたことをっ」


 リンは後退を選んだ。あえて刃を引き、一歩後ろに下がる。瞬時に敵の側面へと回り込む。握りしめるように黒き翼を両手で持って、頭上に構える。

 刃を下に向け、肩口を狙って――振り下ろすと、攻撃は空を切った。

 敵は身体をずらして、リンの攻撃を回避していた。


「あはっ、ちょっとは癇に障ってくれたみたいですね」


「しまっ」


 体勢は崩れたまま。防御、腰より上に魔力を固める。

 受けきれるか、あの剣を。

 思わずツバを飲み込んだ。スローになった視界は、エメラルドの剣を捉えた。

 その片手剣は地面を向いて静止していた。攻撃が来ない、思ったその瞬間に、足に衝撃を感じた。


「えい」


 足を払われた。片足立ちになり、身体が傾いていき、踏ん張りきれない。前のめりになって、地面が迫った。


「なっ……」


 胸から、屋根に倒れた。


「きゃっ」


 喉から、おかしな声が漏れた。

 胸が潰れて、妙な圧迫感がある。屋根に這いつくばる形になる。鎧を纏った敵の足が見える。腹の底から熱が広がって、全身がほてった。

 じんと痛みが身体を支配して、力が抜けた。顔の筋肉が震えて、ひくひくとしている。

 なんだこれは、この程度なんのことはない、はず。立て直さなければ、殺される。


「うぅ……はっ」


 殺気。咄嗟に身を捩る。肩を軸に半回転して、うつ伏せから仰向けへと変わった。


「足は想定外でしたか? ラブリー、食べちゃいたいくらいですね」


 攻撃を予感していたが、やってくることはなかった。元いた場所にも、剣は突き刺さっていなかった。


「おのれ……」


 黒き翼を振り上げながら、飛び上がった。膝を抱え空中で一回転、敵の間合いから外れた地点に着地する。

 まだ、身体が熱い。息が荒くなっていて、じんとした痛みが残っている。

 不覚、無意識の衝撃にこうまでも脆いのか、この身体は。


「なぜ殺さなかったっ」


 リンが叫ぶと、敵はまた小さな笑顔を作った。


「ワタシたちは、人殺しを目的になんてしませんから。それに」


 敵は、リンから目を切って上空を見上げた。それを目で追うと、ブランシュと呼ばれたあの宙づりの魔法少女がいた。


「大事なお友達を、丁重に扱ってくれたみたいですから、ね」


「暗殺者がぬけぬけと、よく言えたものだっ」


「雫さんが死ぬとわかっていれば、こんなやり方はしませんよ」


 敵の横顔から笑みが消えた。目を細めて、空中のその一点を見つめていた。


「だからと言って――」


「リンちゃん!」


 突然、背後から声が聞こえてきた。


 振り向くと、焼け焦げたパジャマ姿の雫が、どこかに足をかけて屋根によじ登ってきていた。

 歯を剥き出しにして、敵を睨み付けながら。


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