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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第84話 重いのは、もしかしたら雫だけではないのかもしれない

 窓のないバンに乗り込んで里を目指した。大きく迂回して、到着までには二度の乗り換えを必要としていた。

 一度の乗り換えを経て、現在は二台目。横向きの長椅子に座るリンは二人に挟まれていた。


「はい、あーん」

「あ、あ、こっちもどうぞ、一応手作りなんですこのクッキー」


 左から差し出されるクッキーを指で摘まんで、右から伸びてきたキャラメルを口で受け取った。

 正面に向き直ると、エセ外国人留学生がニタニタと笑みを浮かべていた。


「ベリィスイート、リンさんはいつも人気者でーす」


 キャラメルを咀嚼する。クッキーを一口で食べきる。飲み込んでから、言った。


「……なぜ貴様らがいるのだ」


 雫はいい、いて当然だ。だが密着してくるこのまひると、一人でくつろいでいるこのアリスの二人がなぜいる。

 向かうのはどこだ、里だ、最重要機密だ。こいつらは元敵だ、それなのになぜだ。


 左の拳を握りしめた。するとなぜかまひるは、その手を包むように触ってきた。


「あ、ごめんなさい……つい」


 向くと、まひるは手を離した。キョロキョロと目を動かして、最終的には顔を逸らしてしまった。


「つい、とはなんだ、なんのつもりだ、説明しろ」


 まひるに顔を近づけると、今度は雫に腕を抱かれた。


「わぁ、怒ってるといつものリンちゃんだぁ」

「ん……」


 二の腕に頬をすり寄せられている。薄い布越しに、柔らかい感触が伝わってきた。


 目のやり場がなくなった。言葉が出ない。少女はこういう時どうすればいいのか、わからない。

 結局正面を見ると、アリスはまだ笑っていた。


「どうしてアングリーですか? 正式に協定を結びたいから里に招待したいと言ってくれたのは、そちらではないですか」

「それは、そうだ、そうなのだが……ぐぅ」


 師父様の言い出したことだ。『彼奴らも連れてこい』その一言で無茶はまかり通ってしまう。忍びとして不満を抱くべきではない、ないが。


 拳で太ももを叩いた。


「だからといってなぜ貴様らがいるっ」

「理屈ではないお怒りですね。理不尽デス」

「うるさい、雫だけでも気が重いのにどうして余計な――ぅ」


 右から、視線を感じた。

 見ると、笑顔の消えた雫がいた。


「重いの?」

「ち、違います、言葉の綾で――はっ」


 左から、視線を感じた。

 見ると、眉間をへなへなと歪めたまひるがいた。


「やっぱり邪魔なんですか、私。招待してくれて、嬉しかったのに」


 目には光るものまで見えていた。籠絡しようとしているのか、こいつは。心理戦か、これは。

 邪魔だ、と言おうとして、一度口を閉じた。そうではない、それは、かわいくない。


「それも、違って……違って……」


 けれど、代わりの言葉が出てこない。


 まひるの目元に涙が溜まって、ふるふると震えていた。


「リンさん……」

「リンちゃん」


 首が左右を往復する。なにか言わなければ、なにか、気の利いた一言を。

 思わず視線を向けたアリスは、無言で笑っていた。口は閉じっぱなしで、介入してくる気配はなかった。


 雫に腕を抱かれている。まひるに袖を掴まれている。この状況で言うべきは、言うべきはっ。


「ほ、」


 リンが口を開くと、左右の二人が同時に声を出した。


「「ほ?」」


 間を開けずに言った。


「本音はですね、た、大切な人を同時に喜ばせるのは苦慮するのではないかと……そのようなことを……」


 目を閉じた。息を吐いて、左右の二人に目配せした。


「某が、間違っていました。二人とも、いや、アリスも、里では、楽しい思い出を沢山作ろう、ね」


 口角を上げた。作った笑顔を振りまいた。反応はなかった。エンジンの騒音だけがよく聞こえていた。


 雫とまひるは、リンを間に置いたまま顔を見合わせていた。


「なんか、わざとらしくなかったですか、今の」

「最近そうなの。でも、悪気はないと思うから乗ってあげよ」


 二人は同時に頷いた。


 雫が見上げてきた。


「じゃ約束、いっぱい楽しませてね」


 まひるが上目遣いで見てきた。


「思い出作り、期待してます」


「は、はは、もちろん」


 顔に笑顔が張り付いた。初っぱなからこれとは、先が思いやられる。


 肩の力が抜けた。それとほぼ同時に車内の案内ランプが点いた。


「乗り換えでーす。みなさん目隠しお願いします!」


 助手席にいた春が、ニヤニヤしながら小窓から顔を出した。

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