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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第82話 師父様の視線が、いつもとは違う意味で気になる

 浴室から飛び出し、タオルで身体を包んで居間に出た。

 ダイニングテーブルに、春の設置したタブレットとカメラが置かれていた。目にかかる前髪をかきあげて、その前に立った。


「お待たせしました。入浴中のため即座に応答できず、ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げると、威圧感のある声がスピーカーから聞こえてきた。


『よい。休日に呼び出したこちらにも非がある。面を上げい』

「はっ」


 水滴が垂れぬように注意して、顔を上げた。ディスプレイには、行灯に照らされて座する師父様が映っていた。

 いつものように、手にしたパイプから煙を漂わせていた。


「差し出がましいのですが、ひとことよろしいでしょうか」

『申せ』

「里への帰還命令が出されたと聞き及んでいます。どうかその決定は保留にしていただけませんでしょうか、現状、雫の元を離れるのは得策ではないものと存じます」


 カメラに顔を近づけた。テーブルが邪魔で、上体を突き出すような姿勢になった。

 師父様はパイプを咥えて、うまそうに吸ってから煙を吐いた。


『ときにリンよ、貴様、ようやく心得たようだな』

「はっ。それはどのような」

『交渉に色を使うようになるとは、わしも嬉しいぞ』

「うれし……ぁ……」


 自分の胸元を見た。タオルに覆われているが、心もとなく肌色の面積が多い。しかも結びがゆるくて今にもはだけてしまいそうだ。

 ずりおちて乳首の頭すらも見えてしまいそうな……不覚。


「お目汚し、失礼しました。急ぎでしたので……今後は注意します……」


 肩を縮こませる。指でタオルを摘んで、胸が見えなくなるように引っ張った。

 ディスプレイから目を逸らしそうになって、すぐに戻した。


『ほぅ、隠すか』

「も、申し訳ありません、やましいことがあるわけでは、決して。どうぞお気になさらず、会話の続きをば。格好のことは、無問題です」


 胸に置いた手は、離せなかった。指がぎゅっとタオルを握ってしまっていて、力を抜いてくれない。

 何百何千と繰り返してきたこの対面、なぜこんなにも落ち着かない。


『気にするでない。風呂時を見誤っていた老人の落ち度よ、許せ』

「はっ、お言葉、痛み入ります。つ、つきましては件のご命令についてなのですが、やはりここは一度再検討をお願いしたく存じます。現場の責任者として、現段階での撤収は推奨できません」

『顔が赤うなっとるぞ、息も荒い。ふふ、よい、衣服を纏ってこい。話を聞くのはそれからよ』


 大丈夫です、と言えない。口は固まってしまって、動かない。代わりに、こくん、と、頷くことだけができた。


「は……はい……お待ちを……」


 できるだけ身体が映らないようにしながら、カメラの外に出た。


「師父様の前でなんたる……ぐぅ」


 ため息を吐いてから、浴室へと戻った。

 ぽたぽたと垂れる水滴が、フローリングを濡らした。



 正装を用意しようかと思案していたところ、雫と春から待ったが入った。結局、最初から用意してあったTシャツとハーフパンツを履いて、師父様の前へと戻った。

 当然のように、雫は隣にいた。


「こんばんはー師父さん、お久しぶりです。またリンちゃんのこと虐めてたんですか?」

『これはまたご挨拶ですな東山殿。ですが安心なされい、部下いびりなどしておらぬゆえ』


 雫はこちらを見た。目を合わせてきたので、ゆっくりと頷いた。

 雫は師父様に向き直った。


「ならよかったです。ですけど、なんだか嫌な話してますよね。そっちがちょっと心配です」


 口を裂くように、師父様は大きく笑った。


『心配ご無用。此度の提案は、あなたや其奴が案じているようなものではござらぬ。つまりは、このような話』


 師父様は、笑顔のまま器用にパイプを咥えた。

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