表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/134

第80話 日が落ちれば、もっと親密になりたいとも思う

 目当てのものを手に入れたあとは、食事を摂って街を散策した。

 ぬいぐるみを抱えて、ぶらぶらと商店街などを見て回った。


「似合うよね、ぬいぐるみ。かわいいのしゅき?」

「き、嫌いではありませんが、これは袋が地面に擦れてしまいかねないからこうしているだけで、今現在に関して申せば、好きだから抱いているのとは一線を画する状態でありまして――」

「はいはい。だいしゅきなんでしゅねー」

「し、雫、なぜ幼児言葉なのですか」

「金属探知機使ってくれないからだぞー」


 よくわからないことを言う雫は、終始にこにこしていた。


 ソフトクリームを食べて、洋服屋などを見て、途中ナンパされて、二秒で返り討ちにして、時間は過ぎていった。

 帰路についてマンションに到着する頃には、もう日も落ちかけだった。


「楽しかったね。あぁーでももう終わりかぁ、明日も学校だるぅ」

「学生の本分ですから、辛抱してください。それにもうすぐ夏休みではありませんか」


 夏休みまではあと一週間ほど。休み期間中も、どうせ顔を合わせることにはなろうが。


 雫は手を叩いた。


「あそっかぁ、そうだそうだ、忘れてなかったけど忘れてたぁ。ね、夏休みはどこか行こうよ、花火とかお祭りとか、また海とか」

「はい、そうしましょう。また合宿所を訪ねてもいいかもしれません、演習場の紹介がまだ終わっていませんし」

「ちゃんと温泉入ってないし、それもいいかも。もう襲撃されないのならだけど」

「その件は、深く反省しております。今後来訪時には警備を十倍に増強しますので、どうかご安心を」

「ま、リンちゃんが守ってくれるから、いいけどねー」


 雫は腕に抱きついてきた。


 外廊下を歩きながら、空を見た。夕日は建物の影に隠れていて、赤い空だけがあった。

 今日は、もうすぐ終わる。この一日で進展はあったのだろうか、なかったのだろうか。会話に限れば、いつもとなにも変わらないかもしれない。


 悪いものではないが。朝の出来事からすれば、いくらか穏やかだ。


 こじ開けられた痕跡がないか確かめてから、部屋のドアを開けた。エアコンに冷やされた空気が吹いてきて、まとわりつく湿気と汗がさっと引いていった。


「ふわぁあ、疲れたー、暑かったー」


 サンダルを放り出して、雫は廊下に上がった。手にしたスーパーの袋をわさわさと揺らして、居間へと向かっていった。


 夕暮れが薄っすらと差し込む室内。細い一本道に、赤と黒が混ざり合っていた。


 遠ざかる背中を、靴置き場から見つめる。靴は、履いたまま。

 遠くに救急車のサイレンが聞こえた。開けっ放しのドアの後ろを、住民が通過していった。

 腕に力が入って、抱えたぬいぐるみが少しへこんだ。


「雫」

「んー、どうしたの?」


 廊下の途中で足を止めて、雫は振り返った。


「某が、先行します。侵入者が扉に細工しているのかもしれないので」

「あ、そっか。じゃよろしく」


 雫の表情が緩んだ。にしし、というような声を出して、嬉しそうにしていた。


 足は動かなかった。細工などあるはずがない。春が監視しているし、異常があればこちらにも即座に通告される。無理に侵入すれば、部屋ごと粉微塵になっている。


「ぁ、いえ、申し訳ありません、それだけではなくて……」


 雫は首をかしげた。


「まだなにかあるの?」

「それはその……」


 下唇を薄く噛んだ。袋に入ったぬいぐるみを、両腕で抱きしめた。


 今日はまだ終わらない。一日はもう少しだけ続く。

 ならば、言うべきだ。望みがあるのなら、自分から。


 言った。


「汗をたくさんかいたので、風呂などはどうでしょうか。実は、遠隔で湯を沸かしております。桃の葉なども用意しておりますので、疲れが癒えるうえ、肌荒れにも効きます」

「へぇ、じゃもらっちゃおうかな。先、いいの?」


 顔を伏せた。袋の持ち手が、ぴらっと鼻を撫でた。

 強めの鼻息が出て、腕の表面にかかった。


「順番というよりは……あの……」


 ざわざわと胸の奥が蠢いている。ぬいぐるみ越しでも、心音が伝わってくる。


「一緒に入りませんか……? 背中などを流してもらいたいです……恋人らしく……」


 沈黙があった。かぁかぁと遠くでカラスが鳴いた。

 顔を僅かに上げる。雫は唇をややすぼめて、目を見開いていた。


「マジ?」

「真剣……です……ぅ……」


 まじまじ見つめられて、頭が発火した。

 贈り物のぬいぐるみに顔を埋めて「うぅ……」と情けない声を漏らした。

 撤回はしない、しないぞ、命に代えても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ