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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第76話 雫になら深いところまで話そうと思える

 結局、普段着に着替えた。いつも着てるような半袖シャツと、太ももにぴっちりとくっついたショートパンツ。これでも十分露出は多いものだが、裸エプロンと比べると重装鎧みたいなものだ。


 姿見に自分が映っていた。顔は引き締まっていて、凛々しさがある。先程までは取り乱しすぎた。これからはかわいく優雅で余裕ある少女の振る舞いをしよう。

 頷いて、部屋を出た。


 居間に戻ると、雫はソファーに座っていた。こちらに気づくと、背もたれに手をかけてふりむいた。


「わ、次はバニーガールとかじゃないんだ」

「そ、そのようなさぷらいずは用意しておりません」


 後ろ手で扉を閉めて、咳払いをした。何度か息を吐いて、喉の調子を整えた。


「さて、このあとはどうしましょうか。昼食にはいささか早いですし、なにかやりたいことはありますか?」


 雫は天井を見るように目を動かした。


「んー、別に今はないかな。特にこれって感じはしない、リンちゃんは?」

「はい。そうですね、こちらもノープランです。いつも通り、雫の要望に応えられれば、と、思っていました」

「わたしのことワガママなお姫様だと思ってる?」

「い、いえ。そのほうがやりやすいので、ただそれだけのことです」


 背中に手を回して、腰の後ろで組んだ。


 雫はこちらを見つめて黙っていた。

 ふと目が合うと、雫は微笑んだ。一瞬、顔を逸らしそうになって、けれどそうはせず、微笑み返した。

 栗色の瞳を眺める。光沢がある。時折、まばたきする。けれど、閉じても開いても、まっすぐに自分を見つめている。


 30秒、40秒もそうしていた。夏の午前のひととき、この沈黙は雫由来のものだ。任務の最中に息を潜めているのとは違う。気を抜くと、自分の輪郭はきっとなくなってしまう。


「ふふ」と堪えきれないように雫が笑い声を漏らした。口元に手を当てて、なにがおかしいのかも言わずに笑っていた。

 リンは言った。


「隣、よろしいでしょうか」

「うん、いいよー。おいで、かわいがってあげる」


 ぽんぽんっとソファーの表面が叩かれた。


「ん……雫はたまに一言多いです」

「そっちは少なすぎるんだよぉ」


 童のように、雫は笑っていた。



 雫の隣に座った。隙間が空いていたので、詰めて、腰と足をくっつけてみた。

 パンツとスカートの布が擦れ合い、素肌の腿が吸い付いた。

 今日の雫は、いつもよりやや体温高めだった。その温度を感じていると、思わずまぶたが閉じていった。


「こうしていると、動くのがもったいなく感じます。話をするのも、贅沢かもしれません」


 体重を傾けた。こつんと肩の先と先がぶつかりあった。


「どうしたの? えっちのあとは情緒的、今日のリンちゃん変だね」

「向いている方向が違わなければ、変でも構わないのではないかと思います。今のリンは魅力的ではありませんか?」


 肩が揺れて、雫が首を振ったのがわかった。


「かわいいと思うよ、すごく。けどいつものかわいさとちょっと違うなあって言ったら怒る?」

「怒りはしません。革命の始まりは、誰にも理解されない孤独な意志によるものですから」

「あ、それはいつもっぽい言い方。とってもリンちゃんしてた」


 目を開けた。少しだけ肩を離して、雫を見た。


「どのあたりが、いつもの某……いいえ、私に近かったでしょうか。ぜひご教示ください、女磨きの糧とします」


 眉を上げて反応した雫は、すぐには答えてくれなかった。

 返事がやってきたのは5秒後のことだった。


「喋り方が時代劇なところ、忍者?」

「わ、私は本職なので……染み付いているの、の、ではなくて、っぽいから、ぽい? いや、そうなの、自分でもわかる、めっちゃ浮いてるよねーって思う、やばいかもしれないかもです」


 喉の奥で渋滞して言葉がすんなり出てこなかった。カクカクと、顎の動きがぎこちない。


「丸くならないといけないなと自分で思うよね。そこからなんとかしないと、一生、あ、いや、ずっとみんなと同じにはなれないのかな、って、近頃、ええと……最近、感じてる、の」


 雫は目を細めた。口は閉じていて、顔には影がかかっているように見えた。

 表情は変わらない。ただ唇だけが動いた。


「無理しないでいいよ。超棒読みだし」

「ですが……いえ……でも」

「そういうことされると暴れたくなっちゃう。ソファーのクッションを殴って、床に叩きつけて、蹴っ飛ばしてやるぞーって思う。だから自然なリンちゃんでいて、お願い」


 雫の顔に、やはり笑みはない。南京錠のかかった扉のようだ、まるで。

 リンは顔を伏せた。膝に手を置いて、爪で皮膚をかいた。


「……わかりました、今は控えます。ですが、意志がなければ、いつになっても停滞からは抜け出せません。雫にもご理解いただきたいと存じます」

「うん、そっちのほうがずっと自然。しかもかわいい」


 腕を回されて、抱き寄せられた。雫は右手で二の腕をさすってきて、左手で頭を撫でてくるという器用な動きをしていた。

 骨抜きになって、抱き寄せられた。ぬいぐるみのように愛でられている。


 きっとこの状態は、傍から見たらとても愛らしいことだろう。なら身を委ねるのはやはり一つの手。これも、きっと少女としての在り方。

 胸の中で、雫、と呟いた。こすりつけるように。


「でもさあ、確かに珍しいよね、リンちゃんみたいな喋り方する人って。忍者さんでも春ちゃんは今っぽいし」

「深い意味があるわけではないです。生まれ持っての性質や、男女――」


 男女の差だと言おうとして、口を閉ざした。

 言い直す。


「役割によって育てられ方も異なります。ゆえに、差異が生じるのかと、ハッキリとしたことは言えませぬが」

「ふぅん……ふたりとも愛らしいのに。ね、もっと教えてよ忍者さんのこと。よく考えたら殆ど聞いたことないし、もっと知りたいなリンちゃんのこと」

「里についての情報漏洩は、掟で固く禁じられています。ですから、話そうと思うことがないのです。部外者に口を割るくらいならば、舌を噛み切れと教えられていますので」


 肩と頭に置かれている雫の手が止まった。


「そっか、残念。ま、しょうがないか、切腹禁止だもんね」

「いえ、雫は部外者ではないので。それに、知ってもらいたい気持ちもほんの少しだけあります。お聞きになりますか?」

「いいの?」

「構いません。いつか雫も、心の深いところを教えてくれましたよね。ならば、こちらも差し出すことが彼女としての喜びになるのです」


 リンは微笑んだ。


 そして、生まれ育った山里のことを思い浮かべた。

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