第75話 せっかくだし撮影会しない? と雫は言った
着替える前に雫に捕まって、写真を撮られた。それも大量に。
お玉を持って片足を上げたり、上目遣いでカメラ目線をさせられたりした。さらには、わざわざ防犯装置を解除してベランダにも出た。
手すりに肘をかけて、彼方にそびえる新都心のビルを見る。うちわで扇がれた風がびゅうっと髪を揺らすと、その瞬間にシャッターが切られた。
「かわいい、すごくかわいい。動かないで、今、いま、撮るからね。そうそう、つま先で立って足の裏を見せる感じにしてね」
横だけではなく、丸出しの背中からも撮られた。スマホを眺める雫は、まるでできたての焼き芋のようにほくほくしていた。
肌はずっと熱を持っていて、外気の温度が二度も三度も高く感じられた。こんなときに空を飛ぶ刺客が現れたら、どう対処すればいいのやら。
シャッター音が止んだので振り向いた。背中に白い紐がクロスする裸体の画像を見せてきて、雫は言った。
「これラインのトプ画にしていい?」
「遠慮してください……沽券に関わります」
「じゃあスマホの壁紙」
「……他者に見せないのであれば」
かぁっとまた顔が発火する。雫のスマホ内に自分がいる。可憐な少女として、プライベートな姿を晒している。裸にエプロンを装着して裸足でベランダに立つ痴女は、絵になる、不思議と。
「やった。あー、でも、誰にもってなると難しいかなー。モザイク? 余計にえっちかな」
雫は目を瞑って、頭を左右に振っていた。喉を鳴らして、深く考え込んでいるように見えた。
本当に設定するかもしれない、この方ならば。ならば。
「そのままでも構いませんが、その、こちらにもいただけませんか。雫の、は、裸でのエプロン姿を……そ、そ、相互に設定すれば公平かと」
四本の指で、挟むように頬を押さえた。ハエでも追いかけているように目がぐるぐる、ぐるぐると動き回った。
目を開けた雫の顔が、やや緩んだ。
「うん、いいよ。撮影係交代ね、それ脱いじゃって」
すっと手が伸びてきた。雫の顔はやや赤くなっていて、どこかいじらしい。けれど、こちらから目を逸らさない、一切視線が外れない。
次は雫がくれる。そのあられもない姿を、大事なものを。
「は……はい、では……」
腰の結び目に手が向かった。蝶結びになっている紐を引っ張った。
背中側がほどける。締め付けがなくなって、布は肩紐だけで支えられる。
かわいい、きっとかわいい。雫がこれを身につけたらとてつもなく魅力的だ。見たい、見せてもらえる、手が届く。
素足、腰、背中、出っ張った前掛け、身体のライン、慈愛に満ちた表情。強い、間違いなく。
だが――今回の催しは、取引材料などではなかったはずだ。
だとしたら、この欲望は、この内側にあるものは。
「さすがにここで脱ぐのはちょっと恥ずかしいかも……ま、いっか、リンちゃんにもさせたんだし」
雫は自分のカーディガンに手を伸ばした。腕から脱いでいこうとして――リンは手首を掴んでその動きを止めた。
「ふぇ?」
手に力が入りそうになって、意識的に抜いた。
「魅力的なお姿を拝見したいのはやまやまなのですが……さ、先ほどのは冗談です。こ、これは与えるための趣向であって、性的な要求のために用意したものではありません。お控えください、お身体を大事にしてください」
「えー、またそういうこと言ぅ。自分ばっかりだと雫ちゃんちょっぴり不満だよ?」
「いえ、いつものような自己卑下とは違って、その……」
視線がさまよう。一旦下がり、雫の胸を経由して顔に上がった。
「雫はそのままの姿でも十分魅力的ですので、露出を控えたまま、お写真よろしいでしょうか。待ち受けにさせてもらいます」
笑顔を見せると、雫は頬を膨らませた。
「卑下してるぅ、正直に見たいって言ってくれればいいのに」
むすっと息を吐いた雫は、リンの頭に手を乗せた。
「気持ちは嬉しいけどね」
「きょ、恐縮です……」
なでられていると、頭皮が柔らかくなった気がした。
「しょうがない、今度うちでやるか」
目を切って、雫はそう呟いた。




