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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
五章 忍び妹は兄姉さまを取られたくない

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第71話 考えれば考えるほど、雫のためだという結論に収束する

 アリスと春がやってきて、テーブルは一気に賑やかになった。

 右を見ればまひるがいて、左を見れば雫がいる。正面には残る二人がいて、ほとんど自分は囲まれているようなものだ。

 結局、春も元刺客の二人と関係を持ってしまった。こんな現状は、過去には想像していなかった。


 報告と議論の場、という感じでもない。コスメだの、グロスだの、二軒目はおいしいラーメン屋さんにでも行きませんか、まだ食べるんデスか? などといった会話がなされている。

 なぜ自分はこの輪の中にいるのだろう、と思う。泥と汗ではなく、シャンプーと香水の匂いがするこの場にいる明確な理由がわからない。


「いちごの毒味してね、あーん」


「あーん、はむ……鮮度がいい、新鮮な果実です」


 などと言って場に溶け込んでいる自分は何者だ。毒味はもっと厳粛にやるべきではないのか、なぜ甘いのだ。


「あー、兄姉さまいいなぁ、春も欲しいー」

「リンさん、わたしのブラウニーも食べますか?」

「あはっ、まひるのはワタシがイート、ぱっくんしますね」


 そんなふうになぜか盛り上がれば、雫は春にいちごの切れ端を与え、アリスはまひるのフォークにかじりついている。


 こんなとき、自分はなにを言えばいいのかわからない。同じようにふざけてみればいいのだろうか、それとも沈黙しているのが正しいのか、正解がわからない。


 雫は答えを与えてくれない。人の身体を変にさせるだけで、その原因も理由も教えてくれない。停戦協議とは違って、正解が、ない。

 ないけれど、黙っているだけは、正しくないのではないかと思う。

 溶け込む努力が必要だ。好きを伝える意志が重要だ。


 目の前のグラスを持ち上げて、雫に向けた。

「水、飲みますか?」


 笑顔を作ってみる。これでいいはず、このような空気だった。雫は盛り上がるし、他の連中も追随するはずだ。


 点のような目になった雫が言う。


「え?」


「そ、そのあーんです、あーん、どうぞ」


「あ、そゆこと、うんもらうね」


 雫は両手でグラスを掴み取った。大事なもののように抱えて、口元で傾けた。そして、しみじみとしたように言った。


「おいしい」


 言葉なく雫は水を味わっている。周りからは野次も、追従も出てこない。空気は流れているのに、時間が止まってしまったかのような錯覚がする。


 なにか、違う。同じようなのに自分のときだけ反応が異なる。相互性というものがない。自分には似合わなかったのだろうか、手順を間違えたのだろうか、それとも水がいけなかったのだろうか。

 そうだきっとそうだ、無料の飲食物で満足させようなどと、なにも伝わるはずがない。女心は難しいなどと言ってはいられない、自分の落ち度だ。


「し、雫、これは冗談というやつです。面白かったですか?」


「冗談……んふふ、嘘はいけないんだぞ~」


「嘘では、ありません。なにか頼みます、腹持ちのいいものを。その後、改めてあーんさせていただきたく存じます」


「えー、帰りのアイスとかにしようよ~、一緒に食べようね」


 雫は笑っている。にこにこと嬉しそうに。


 結果的に空気は弛緩した。これで良かったのか、良くなかったのか、曖昧だ。

 もっと少女らしく振る舞えたら、こんなことで悩まなくてもいいのに。

 雫は優しい。けれどそれは、たまに痛い。どれだけ足りていないのかを痛感させられる。


「次はうまく冗談を言います。悟られぬように努力します。ですから……その……今後ともよろしくお願いします」


 嫌いにならないでほしい、と言おうとしたのに言えなかった。それどころか雫の目を見ていられない。胸に落ち着きがない。伝えれば最悪の一言が返ってくるのではないかと、考えてしまう。

 おかしな心だ。雫が自分を嫌うはずなんてないのに。

 顔を伏せていると、雫は小さく笑った。


「しょげてるのもかわいい。でもね、そんなこと気にしないでいいよ、お水ほんとにおいしかったから」


「ですが……冗談にしても失礼が過ぎました」


「ちーがーう」


 雫は自分の唇を触った。左から右へと、なぞるように指を動かした。


「わたしのためになにかしようとしてくれたんだよね。それだけでいいの、それだけで……」

 

 雫は言葉を溜めた。いじらしい目に、見つめられる。

 その瞳を見ていると、胸が跳ねる。肌が敏感になって、空気がくすぐったい。


「それだけで幸せなの。リンちゃんといられて嬉しいなって、毎日思うの」


「雫……」


 目を見つめる。唇に意識が向く。肌が熱く、息は火照っている。自分のような人間でも、生物なのだと実感させられる。


 ほしい、この人が。

 ひとつになっていたい、いつでも、どんなときも。


「リンちゃん……」


 両手を雫の肩口に――


「はわわわわわ」


 激しく錯乱するような声が聞こえて、リンの動きは中断させられた。振り向くと、まひるが両手で口を押さえていた。


 正面の席からも声が聞こえてきた。


「このバカップルやばくないですか」

「ノンノン、お姉さんの恋路を見守るのもファミリーのお努めですよ」


 アリスは指を振って、ほくそえんでいた。


 なぜかまひるはフォークを握ったまま立ち上がっていた。向かってくるような姿勢で、妙な圧があった。


「ご、ご自宅でやってください、家で! どこだと思ってるんですか、場をわきまえてください、場を!」


「む……」


 周りを見た。客でごったがえしている。それよりもなによりも、友人と妹に囲まれているのだった。不覚、また我を失ったか。

 家でやれ、その通りだ。そうしよう、偽装部屋に呼んで二人でいれば、邪魔は入らない。それがいい。


 さておき、場の空気を戻さなければならない。

 こほん、と咳払いをした。テーブルに拳をのせた。


「失礼。ではそろそろ本題に入ろう、あのめいたんについて今後の対応をこちら側でも協議したい。まずはそちら側との繋がりを深め、相互安全保障条約を締結し、正式に同盟を組むのはどうだろうか?」


 場にいる全員の顔を見た。雫は目をぱちぱちとさせていた。まひるは未だにふーふーと変な息を漏らしていた。アリスは笑って、春は頭を押さえていた。


 そんな春が言った。


「こんな姉さまですが、みなさん生温かい目で見守ってやってください。お願いします、悪い人じゃないんです」


 春は、深く頭を下げた。

 一瞬だけ静まりかえって、すぐに場はなごやかな雰囲気になった。皆でうなずき合って、笑顔を見せていた。


 真面目なことを言ったのは春も同じなのに、なぜ反応が違うのだろう。

 その疑問に答えは出なかった。

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