表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
五章 忍び妹は兄姉さまを取られたくない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/83

第72話 かわいいと言ってみたくなった

 チャイムの音が、午後六時を告げていた。


 アリス、まひると別れ、夕暮れの商店街を三人で並んで歩いた。片方の腕を雫と組んで、もう片方の腕を春と組んでいる。

 双方、距離が近い。恋人はともかく、なぜ妹までも密着してくるのだろうか。


 雫に腕を引っ張られた。ファンシーな服飾店を指さしていた。


「あ、あの服かわいいー、ちょっと見てこうよ」


 同時に春にも腕を引っ張られた。個人経営のケーキ屋を見て、匂いを嗅ぐような動きをしていた。


「ね、ね、停戦のお祝いになにか買ってかない? ほらあのザッハトルテ、凄い本格派」


 両手がピンッと張った。まるでやじろべえのように左右に振れる。

 湿気のまとわりつく顎から、汗が垂れた。ぽたと落ちて、レンガの地面を濡らした。


「行こうよー、夏物選んであげる」

「姉さま、いいでしょ。おせんべいばっかり食べてたら歯が欠けちゃうよ」

「ケーキも素敵だけど、わたしの方が先ね。傷んじゃうし」

「う、普通に正論言われると、わがままな妹じゃいられない。で、でも、保冷剤とかあるし」


 なぜこの二人は、微妙に対立しているのだろう。順番に回れば、それでいいのではないか。

 そもそも浮ついていられる状況なのか。刺客はいつだって雫を狙っている。めいたんを封じたとはいえ、すぐに次がやってくるかもしれないというのに。

 頭が左右に揺れて、脳がシェイクされるような感覚がある。ひとまず帰宅するべきだ、そんな言葉は浮かんでくる。


 だからここは――ここは。


「意見を言っても、いいですか」


 腕を引っ張る力がなくなって、二人は同時にこちらを向いた。


 雫を見た。胸がチクリと痛んだ。帰れというのは簡単だ、簡単すぎる。思えば、そんな正しさばかりを押しつけてきたのかもしれない。


 だから言った。


「お洋服、見繕ってくれますか。かわいい服、もっと着てみたいです」


 笑顔を向けると、拍子抜けしたように雫は眉を浮かせた。ぽかんと口を開いて、こっちを見ている。

 胸の内は静かだ。揺れることも、ざわめくこともない。


 今度は春を見た。


「お姉ちゃんと一緒に、ケーキを選ぼうか。ああいうものには疎くて、指南してくれると助かる」


 春も雫と同じような顔になった。


「おね……え?」


 人の顔を見て、妖怪にでも出会ったような反応をしている。失礼な妹だ、ほんとに。


 二人の腕を逆に引っ張った。身体の前に連れてきて、向かい合わせる。

 角のない少女の手。二人の繊細な指に触れて、拳を作らせた。どっちも言葉を失っているようで、人形のように指示に従ってくれた。


「順番は公平にじゃんけんで決めましょう。しかし、負けた方も焦らないでください、時間はたっぷりありますから」


 自然に笑顔が浮かんだ。張っていた力が全て抜けていくような気がした。

 かわいい服にケーキ、上等じゃないか。それは少女らしさだ、いいものだ。


「うふ」


 笑い声が漏れると、二人は露骨にのけぞった。


「春ちゃん……お姉さんになにかした?」

「してない、してない、雫さんこそ、また罰ゲームとか、でしょ?」


 二人は同時に首を横に振った。

 じゃんけんはなかなか始まらなかった。けれど妹と恋人という二人を見ているだけで、なぜか胸に高揚感があった。緩んでいるのは顔だけじゃない、全身あらゆるところに骨抜きになっていた。


 結局、じゃんけんは雫が勝った。服飾店……洋服屋さんに入って「ちょっとガーリーすぎるかも、もちろんリンちゃんは何でも似合うけど」と雫が言うようなリボン付きの服を買った。ノースリーブで、とても肌の露出が多いものだった。


 かわいい、きっとかわいいのだろうと、思う。


 それから今度はケーキ屋さんに入った。ザッハトルテとやらと、買い食い用のシュークリームを買った。

 両手で持って、甘くくりーみぃなその味わいを楽しんだ。口の中に幸福が広がるようだ、なぜ急にこんな、味わい方が変わったのだろう。


「食べますか、おいしいですよ。約束していたアイスの代わりです」

「う、うん、ありがと。もらうね」


 差し出すと雫はシュークリームにかじりついた。じっくり咀嚼してから、つぶやいた。


「美味しいけど……うん、美味しいよ、ありがと」


 途中で言葉が詰まったような、そんな喋り方だった。


 店を出たところで、ひとつ大切な話を思い出した。髪留めを触りながら、雫に言った。


「これ、褒められたんです、かわいいって。まんざらでもないかもしれません、うふふ」


 返事もしてくれないで、雫と春はまた顔を見合わせていた。


 ああ、これでよかったのだ。こうすれば、きっと溶け込める。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


これにて五章は完結となります。

次の六章では、リンちゃんにまた少し変化が出てきます。

周囲も振り回されるかもしれませんが、この作品らしさはそのままにお届けできればと思っています。


面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、評価で応援していただけると大変励みになります。

六章以降も追っていただける方は、ブックマークしていただけると嬉しいです。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ