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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
五章 忍び妹は兄姉さまを取られたくない

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第64話 妹は悪魔を欲する

『東山殿が平穏無事に生活できるよう、尽力するのが貴様の仕事ではなかったか?』


 めいたんについて報告を受けた師父の第一声がこれだった。


『方針は変わらん。如何なる敵が現れようと、護衛としての務めを果たすのみ。通信終わり!』


 ぷつんっと通信は途絶した。リンの耳に当てられていた携帯型通信機を、春は遠ざけた。

 空き家の庭でしゃがみ込んでいたリンは、うなだれた。


「また、厄介ごとが増えた……」


 通信機を操作していた春が、顔を上げた。


「処理班すぐ来るって。にしても通信良好、あの子のジャミングだったのかなあ」


「詳しくはわからぬが、電流を感じた。あの光弾も、その応用かもしれぬ」


「ふうん、魔法少女ってのも一枚岩じゃないなあ」


 むすっと鼻息を出して、春はまた端末を弄りだした。いつもと変わらぬ調子。ときおり唸りながら里と連絡を取っている。

 制服が黒ずんでいる。首筋や足などに細かな傷がある。もちろん重傷ではないのはわかるが、本当に平気なのだろうか。


「ひとつ、いいか」


 春はリンを見た。


「んー、どした?」


「褒美はなにが欲しい。雫を守ってくれて深く感謝している」


 座ったまま、リンは頭を垂れた。


 さっと砂がこすれるような音がした。横を向いていた春の足が、こちらを向いた。


「顔を上げてよ。師父さまも言ってたでしょ、任務なんだから当たり前」


 リンは首を左右に振った。


「謙遜しなくていい。体調管理を怠った姉をお前は救った。存分に誇ってくれ。でなければ、雫にも申し訳が立たない。どうか褒美を取らせてくれ、働きにはその価値がある」


「うんうん。かっこよかったけど、遅かったもんねリンちゃん」


 下げた頭の横に、人の気配が現れた。何度も首を上下させていた。

 気配の主――雫は、片膝を地面につき、リンを真似るように頭を下げた。


「煮るなり焼くなり、語尾に『にゃん』でも、好きなことお願いしていいよ。わたしが協力できることならなんだってするから、リンちゃんもなんでもするから」


 リンが顔を向けると、雫はほっぺたが溶け出すように笑った。リンも微笑で答えて、もう一段深く頭を下げた。


「さあ、言ってくれ。報いもせずに赦されるなど、末代までの恥」


 春は困ったように喉を鳴らした。


「同じ家系なんだけど……えぇ……なんでもかぁ……」


 うー、うー、と春は何度も唸った。


 息を潜めて返事を待った。

 なにを要求してくるだろうか。旅行はなさそうだが、ふれんちなどに連れて行けという願いならばありえるかもしれない。物であれば貴金属や宝飾品、あるいは電子機器か、もしくは金か。


「えっとぉ……あ……いやぁ……えへへ……」


 そろっと目を上げて窺うと、春はぽりぽりと頬を掻いていた。やや目を上に向けて、気恥ずかしそうに笑っていた。

 一瞬の沈黙があって春は「じゃあ」とつぶやいた。


 薄く笑いながら、春は言った。


「お、おっきなぬいぐるみが欲しい! あ、あの、悪魔みたいなの、サンリヨの……部屋彩りないし、そういうのあってもいいし、なんか世間じゃ流行ってるみたいだし」


 雫と同時に、頭を上げた。二人で顔を見合わせた。


 春は腹の前で手を組んで、指先をいじっていた。


「だ、だめ?」


 また笑顔になって雫が頷いた。それに首肯してから、春に向き直った。


「それでいいのか?」


「う、うん、ちょっとほしい。あ、あ、もちろん事件の処理が終わってからね、そんなんしてる場合じゃないし――」


 リンは立ち上がった。春の頭に、ぽんと手を乗せた。


「ご苦労だった。すぐに用意しよう」


 春は、やや上目遣いになった。こちらを見つめるその瞳は、微かに揺れていた。


「……うん」


 笑顔を滲ませて、春は頷いた。

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