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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
五章 忍び妹は兄姉さまを取られたくない

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第62話 ステッキとは、魔法少女の魂らしい

 短刀・黒き翼を逆手持ちにし、狙いをつけた。魔力の足場に角度をつけ、踏み出す構えを取った。

 いざ突撃、というその直前に、めいたんが感心したような声を出した。


「わ、お姉さんの変身ステッキ、なんかちゃっちいねえ。くふふ、なにそれ小刀? おもちゃ? そんなのでめいたんに勝とうとしてるんだ」


 めいたんは口を押さえて笑った。かと思えば、次の瞬間には真顔に戻っていた。


「卑怯者には、お似合いだけど、だ、け、ど、許したくないなあ、ちょっと怒っちゃったもん。肩から血出てるよぉ、足が痛いのぉって泣いてるよぉ」


 杖の先端が、バチバチと音を立て始める。稲光のごとく輝き、めいたんの前方に無数の光弾が出現した。煙玉ほどの大きさで、その数ざっと二十。縦横共に身長の倍ほど広範にそれは展開された。


「痛いけどぉ、ちょっと我慢しよっかぁ!」


 めいたんが杖を振ると、光弾は一斉に発射された。


「物量か」


 リンは垂直に跳んだ。一呼吸する間に、十メートルほど上昇した。

 頭上を取った。体重移動、腹を折り、上体を低くしてめいたんに――大量の光弾が足元に迫っていた。ツバメのような素早さで、一気に迫りくる。


 誘導までこなすか。受けきれるか、叩き落とすか、否、威力が読めない。ならば、身を躱すまで。

 腹を折ったまま、手元と足元に魔力の場を生成する。肘を曲げ、膝を曲げ、一気に押し込んだ。背中側に猛烈な勢いで跳び出す。


「爆ぜろ」


 魔力で火薬玉を生成し、広範囲にばらまいた。網目のように広がって、光弾と接触、相殺される形で爆散した。


「もぅ、真っ向勝負はぁ!?」


 斜め下方でめいたんが叫んでいた。怒り狂うように乱暴に杖を振ると、また光弾が生成されていった。先程よりも数が多い。

 リンは追加の火薬玉を投げつけ、地上に向かって足場を蹴った。


 着地先の目星をつける。このあたりは雫との通学路、だとすれば、空き家は――


「あそこか」


 表札の外れた古い屋敷の敷地へと飛び込んだ。

 枯れた庭に着地する。すかさず頭上を見上げると、爆破を逃れた数発の光弾が迫っていた。ゆらゆらと照明弾のように落ちてくる。


 このコースだと屋根に当たる。誘導はおそらく間に合わない。だが、そうなれば雫の街に被害が出る。迎撃を、そう思ったその瞬間に、光弾は煙のように消えていった。

 リンはその様子を確認した後、物置の影へと飛び込んだ。

 しゃがみ込んで空を窺うと、杖を下ろすめいたんがいた。


 攻撃してくる素振りはなく、めいたんは忌々しそうに顔を歪めていた。


「こらぁ、それはレギュレーション違反だよぉ。帰ってきて」


 息を潜める。めいたんは地上を見下ろして、首を振っていた。目線が定まらない、正確な位置を掴みかねているらしい。


 なぜ奴は攻撃してこない。息切れしているわけではあるまいに。

 いや、詮索は後、この機は無駄にできぬ。


 呼吸を完全に止める。魔力で心臓の動きを抑制する。足音を殺して、めいたんのやや後方に移動した。やはり気づいている様子はない。無防備に股の間を晒している。


「どこ、どこに隠れてるの、ねえ出てきて、それは本当にずるいって」


 めいたんは、民家の二階程度まで高度を下げた。


 気づかれる前に仕掛けるべきか。それともあれはブラフか。あの変わりよう、なにがあった。

 ひとつ、試してみるか。


 リンはまきびしを生成して、庭の正反対へと投げた。塀にぶつかって硬い音がすると、めいたんは素早く視線を向けた。しかし、攻撃はしてこない。それどころか、安心したかのように息を吐いた。


「むふぅ、そこにいるんだね、そこだね。動いちゃダメだよ、じゃあお庭の中でやるからね」


 また高度を下げて、今度は地面へと降り立った。むき出しの土を踏んで、めいたんは転がるまきびしを見つめていた。


 完全に背中を見せている。杖を下ろしている。視線は足元に固定されている。

 羽根の歩みで、三歩前に進んだ。右手に短刀を構え直した。


 庭の中程まで来る。あと二歩、あと一歩。


 この距離ならば殺れる。


「まきびしってやつ? 古風な魔法少女――んっ」


 めいたんは振り向いた。


 リンは一気に距離を詰めた。短刀で首を狙う、が、伸びてきた杖によって弾かれる。


「っ、どこから」


 杖の先端が、放射状の光を放ち始める。ぞくりと身震いがした。放たれれば致命傷、上半身丸ごと焼かれるか。


 刃と杖が鍔迫り合いになる。押し込もうとするが、腕力はめいたんと釣り合う。かたかたと刀身が震える。

 右腕に魔力を集中、それでも押し返せない。


「悪い子はぁ、消えちゃいなよぉ!」


「おい、めいたんとやら、この短刀を、ステッキだと言ったな、それには誤解がある」


「はぁぁ? 意味不明の命乞いじゃ助けてなんてあげないんだからぁ!」


 杖の輝きが増す。視界が白く染まる。魔力の匂いが、むせかえるほど濃くなる。


 リンは右手の力を抜いた。


「あいにく、武器以外はもちあわせておらぬ」


 手を開いた。柄が離れて、掌底を滑り落ちていった。


「え」


 めいたんが目を見開いた。前のめりになって、杖の光が陰った。


 リンは一歩分退いた。右足に、持てる魔力の全てを集中させた。

 鋼よりも硬く、刀よりも鋭く。


「はぁっ!」


 杖の持ち手を狙って、蹴り上げた。

 空気にムチを叩きつけたような音が鳴り響いた。


「う、そ」


 蹴りは杖を砕いて、めいたんの顎先をかすった。


 リンは片足を上げたまま、地面スレスレのところで短刀を拾った。


「貴様の負けだ。潔く腹を切るがいい」


 真っ二つになった杖が、庭に転がった。


 めいたんはふるふると首を左右に振って


「魔法少女がステッキを手放すなんて、ありえない」


 とつぶやいた。

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