第61話 魔法少女ではない、某は忍びである
リンはコンパクトに腕を引いて、敵魔法少女に手裏剣を投げつけた。
直撃する、と思ったその瞬間に、敵は慌てた様子で三歩分も後方に跳んだ。その拍子に、杖の先端に収束していた魔法らしき光が消えた。
敵は顔を歪めて、地面に刺さった手裏剣を見た。それから、リンに向かって杖を掲げた。
「同じ顔がもうひとり。めいたんの邪魔をするお姉さんは、どっちが本物?」
答えず、リンは両手に生成したクナイを追加で投げつけた。
路面に倒れている春に、顔を向けた。
「動けるか、春」
すぐに、声が聞こえてきた。
「う、うん、平気、平気だよ兄姉さま!」
「ならよし。お前のなすべきことがわかるな?」
春は頷いた。雫の手を取って、敵とは反対側に駆けていった。
途中、雫が振り返った。真っ直ぐにこちらを見て、声を張り上げた。
「頑張って、そんなやつに絶対負けないで」
「雫さん早くっ」
リンは遠ざかるふたりに、無言で拳を突き出した。親指を立てて、見送った。
敵――めいたんはふわりと空に浮いてきた。屋根とほぼ同じ高さまで上がってきて、その珍妙な杖を突きつけてきた。
民家二軒ほどの距離。もう少し間合いを詰めたいところではあるが。
「もぅ、せっかちなお姉さんだなあ。戦いにはお約束があるって知らないのぉ?」
「知らぬ」
全身ピンクのフリル女。越谷まひるよりもさらに装飾が多い。ドレスなどを着て戦場に立つとは、やはりわからぬ感性をしている。
武器はなんだ、あの杖のみだろうか。裾広がりなあのスカート、いやパニエの中に、銃器を隠しているかもしれぬ。カマをかけてみるか。
「悪党、一つ聞きたい。貴様の目的はなんだ」
めいたんは口を尖らせた。
「悪党じゃないもん。正義の魔法少女ラブラブめいたんはいつもみんなのために戦ってるんだよ。目的はねえ、散っていったみんなの想いを引き継ぐことだよ」
「なるほど、貴様は某が始末した下郎共の仲間か。道理で姑息なはずだ」
「むぅ、なあにその言い方ぁ。姑息なのはそっちじゃない、めいたんはいつも正々堂々だもん!」
「ならば、隠しているものを出せ。貴様の正々堂々は口ばかりか」
めいたんは腰に両手を当てて、胸を前に突き出した。
「はぁ? なにそれ、すっぺしゃるな魔法、見てなかったの?」
「見ろ、暗器の類は一切持ち合わせておらん」
リンは自分の腰巻きを捲って、中を見せた。次いで襟も捲って、サラシを巻いた胸を見せつけた。
めいたんは目を細めた。
「なに? お姉さんって変態?」
「作法――立ち会いを望むのであれば、貴様も手の内を晒せ。その衣服、怪しいことこの上ない」
「はわわ、変わった悪者さんだぁ。しょうがないなあ、ちょっとだけだぞ」
めいたんはパニエの裾を掴んで、それを捲った。幾重にも重なったフリルが開いて、見せパンらしきものが露出した。銃器も、暗器も、見当たらない。
「はい、なにもないよ。満足した? したなら真っ向勝負――」
「ああ、大満足だ」
リンは腰を落とした。左右の手に、四本ずつ棒手裏剣を生成した。腕を大きく振って、それらをめいたんへと投げつけた。
「なっ、うそ」
屋根を蹴る。加速、一気に距離を詰める。攻撃は――半分がフリルに突き刺さっている、もう半分が見えない壁のようなものに防がれている。出血はない、傷は浅い。しかしめいたんはバランスを崩して後ろ向きに倒れかけていた。
「わ、わ、いたぁい、騙し討ち、うそ、うそぉ」
魔力の足場を使って、さらに加速した。景色が奥に流れる。顔面が空気を突き破る。
クナイを続けざまに生成する。連続投擲。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ――当たる。肩を穿ち、素足を傷つけ、髪飾りを吹き飛ばした。唯一、胸を狙ったひとつだけが、杖によって弾かれた。
効果は上々、次はこいつか。鎖鎌を生成、分銅を投げつけた。足首に鎖が巻き付く。
――その瞬間に、鎌を持つ手に電撃が走った。
「むっ」
鎌から手を離す。めいたんに繋がる鎖が、落雷を受けたように発光。蛇のように踊り始め、繋ぎ目が砕け散った。
奴の魔法。接近はリスクか、だが、仕留めねば雫がやられる。
「はあはあはあはああああああ」
金切り声を出して、めいたんはくねくねと身体を踊らせた。手を振り足を振りながら、空中で半回転して姿勢を戻していた。
「まじむりぃむりむりぃ、だから悪い人って大っきらいっ!」
めいたんが杖を振ると、光の粒が軌跡を描いた。
「卑怯者は、めいたんが壊してあげる」
「ならば望み通り、真っ向勝負と行こうか」
リンは右手に短刀・黒き翼を出現させた。




