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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
五章 忍び妹は兄姉さまを取られたくない

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第59話 刺客がいないことが、雫さんにとっては異常らしい【side 春】

 「姉さまってさあ、堅物のくせに抜けてるっていうか天然でかわいすぎるところが、やばいですよね、マジヤバイ」


「ね、ね、ねー、リンちゃんはやっぱりピュアなのが――」


 学校までの道すがら、突然雫さんが足を止めた。


「あれ?」


 雫さんを追い越してしまい、一歩二歩と下がった。


「っとっと、どしたんですか?」


 雫さんは左右を見回して、後ろまで見て、最後に空に目をやった。そうしてから顎に手のひらを当てた。


「えっとね、なんか……いつもと違くない?」


「いつも?」


「うん、人が少ないっていうか、今朝はちょっと静かじゃない? いま、急に思ったの、なんかおかしいなぁって」


 雫さんと同じように、周囲を確かめた。道路と歩道の区別がない住宅地。公園があって、空き地もあって、あとは一軒家が建ち並んでる。

 前方のちょっといったところに赤いランドセルの女の子がひとり。後ろには中学生の集団が……いたけど角を曲がっていった。


 男子中学生の賑やかな声が遠ざかっていく。残るのはジージーと鳴く蝉の声だけ。車もいなければ、飛行機も飛んでいない、野良猫の姿も見えない。

 鼻を利かせても、変な匂いはしない。アスファルトが焦げるってほど、暑くもない。空気はカラッとして、風が吹くと冷たさすら感じられる。


「そう、ですか。春には……私にはちょっとわかりませんけど」


 人は少ないといえば少ないけど、特異なほどじゃない。大通りに出るまでは、このくらいでも不自然じゃないはず。


「見て、来ましょうか? どこが気になるとかあります?」


 雫さんは首を振った。


「あ、ううん、なんとなくってだけで、そこまでじゃないの。けど」


 微妙な笑顔になって、雫さんは喉を鳴らした。考え事をするように数秒間待ってから、また口が開いた。


「ほらぁ、いつもね殺気みたいな、悪い人の気配は最低でもひとつかふたつあるじゃない? 今日はどうしたんだろう、お休みしてるのかな?」


 春は目を細めた。とんでもないことを言う人だ。殺気、少ないのかな、よくわからない。

 うぅ修行不足……だけど、それが本当なら兄姉さまに報告するべきだろうか。


「悪い人たち、リンちゃんみたいに夏風邪かなぁ?」


「だったらいいんですけど、でも、雫さんの勘なら無視できないかも。とりあえず姉さまに伝えておきますね」


「うん。どうしようね、飛んできちゃったら」


「あはは、それ超ありえる」


 小さく息を吐いた。


 チュンチュンと今度は小鳥が鳴いていた。羽音がして、どこかに飛び去っていった。

 春は耳に手を当てた。


「姉さま、聞こえてる? 今ね、雫さんが――あれ」


 ザーッとインカムにノイズが走った。電波が乱れてる? おかしいな、専用回線なのに。

 何度か声をかけても、やっぱり返事はなかった。


「なんだろ……ちょっと待ってくださいね」


 耳から離して、手を丸めた。胸が詰まるような感じがした。

 バッグに仕舞っていた通信端末を確かめた。緑のインジケータ―が点灯してる。正常、機器の故障じゃない。


「おっかしいなあ、仕方ないスマホを使うしかないか」


 安全じゃないんだよなあ、傍受されたらめんどくさい……けど、背に腹はってやつだもんね。

 スマートフォンを取り出して画面を――圏外と表示されていた。


「え」


 心臓の音が大きくなった。きゅうっとお腹の筋肉が締まった。これ、やばいかも。


「雫さん、ちょっと移動しよ、人の多いところに――」


「ねえ、あれ」


 雫さんは、道路の先をじっと見つめていた。


 確かめると、赤いランドセルの女の子がいた。さっきまで背を向けていたのに、今は、こっちを向いている。


 女の子は、行進みたいに足を上げて歩いてくる。その手にはプラスチックのおもちゃみたいな、ピンク色の杖が握られていた。

 顔は伏せ気味で、口が半月みたいに笑っていた。


「ぐっもーにんぐ、おねえさんがた」


 パチっ、パチっ、と静電気が弾けるような音がした。ゆっくりと近づいてくる少女の背後が、蜃気楼のように歪んだ。

 肩にかかる髪の毛が、ふわりと浮き上がる。少女は、杖を斜め前に突き出した。


「変身」


 小さな口がつぶやくと同時に、暴風が吹き荒れた。空気が渦を巻いて、少女を取り囲んだ。

 風で目が乾く。破裂するような光があって、クラっとくる。魔法少女、実物、敵、こんなところで、てか。


「……やば」


 雫さんの手を掴んだ。懐に隠していたクナイを少女に投げつけて、そのまま振り返った。


「ついてきてっ!」


 少女に背を向けて、駆け出した。意識を向けても、攻撃の当たる音は聞き取れなかった。

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