第47話 行き先を考えるのに結局徹夜した
はじめての休日。時刻は0900時。両肩の露出したおかしな服を着せられ、小ぶりの手持ち鞄を持たされて、雫を迎えに行った。
「いってきまーす」
時間丁度に姿を見せた雫は、ドアの隙間から手を振った。家族からの返答を待って、雫は振り向いた。ワンピースにカーディガン。夏らしく軽快な装いで、羽衣を纏っているようにも見える。
カランカランとサンダルを鳴らして、雫は短い階段を降りてくる。
軽快なリズムで、音は奏でられる。片足ずつ段差について、まるで小躍りしているかのようなそんな様子だった。なにか子供のようだ、今日の雫は。
「ぁ……む」
開きかけた口を、押さえた。緩んでいた頬を、指で押し上げた。
よし、粗相なきように振る舞わなければ。
「おはようございます。今日は、いつもと雰囲気が違いますね、なんといいますか、とてもかわいらしいのではないかと……思います」
ジージーする夏の熱気が、肌にまとわりつく。朝からもう顔が熱い。
段差を降りきった雫は、足元からこちらへと視線を移した。
「ありがと、ちょっと気合い入れ――」
笑顔になりかけたところで、雫の表情が固まった。口を半分開けて、舐め回すように見てくる。
「うわぁ……かわいい……え、え、そのお洋服どうしたの、買ったの? 持ってたの?」
「ぁぅ……雫は本当に人が悪い……某も女子ゆえ、服くらいは人並みに持っております……」
足が勝手に動いて、内股になる。手が太ももに触れてしまう。顔が下がって、目だけで雫を見る。
「あ、ごめんね、ごめんね、リンちゃんはもっと無骨な感じかなって、勝手なイメージ、ごめんなさい。でも、ほんと、すっごくかわいい」
雫は両手を合わせて、小さく頭を下げた。
履かされたスカートは膝どころか腿が見えていて、裾はふわりと広がっている。肩が冷たい、夏なのに冷たい。なのに火照りがあって、骨の部分が熱い。
「せ、選定は妹に手伝ってもらいました……雫が喜ばれると……ですから、その」
いつの間にか胸の前で手を組んでいて、それをほどいて背中側にやった。休めの姿勢になって、なにがなにやらわからぬ、わからないが。
微笑んで、みた。
「安心……いえ……嬉しいです、そのように言ってもらえて、リンは幸せものです」
「あはっ、名前呼び萌えるぅ、そのキャラもありっ!」
「あ……いえ、そういうわけでは……ぁ」
手を取られた。雫は腕を絡めてきて、肘のところで繋がった。
ローズのような匂いを鼻が嗅ぎ取って、頭の中が綿になった。空気を吸ってるだけなのに、ほのかに温度まで感じられた。
雫はさらに密着してくる。肩に頬を寄せて、上目遣いで見てきた。
「えへへ、リンちゃんと一緒ぉ、朝からずぅっと夜まで、うふふ」
「し、雫、ご自宅の前です。母君に目撃されてしまいます、離れましょう、今は」
「だぁめ。いいよぉ、お母さんにも見せつけちゃお」
腕が強張って、顔を遠ざけて――
ふぅっと息を吐いた。
力を抜いた。腕にだけこめた。
いいか、今日ぐらい。休日なのだから、恋人なのだから。緊張など、やめてしまおう。
「まったく、世間体など気にすることもないのですね」
「伊達に人気者やってないからねぇ。そんなことよりぃ、今日はどこ連れてってくれるの?」
腕を引くつもりで、歩き出す。わずかに遅れて、雫も足を動かした。
前を向く。夏空が広がっている。いつもの住宅地、通学路、だが、時間も違えば日のあたり方も違うものだ。なんとも、普段よりも明るく見える。
「一晩考えてみたのですが、ショッピングモールになど行ってはどうかなと。でぇととはお茶を飲んで、映画などを見て、その他、物見遊山をするものだと学びました。とっかかりとして、複合施設がよいかと」
まだ寄りかかってきていた雫に、向き直った。
「与えてもらった自由時間を有効活用し、ある程度はご満足していただけるでぇとプランを考案してきたつもりです。ど、どうでしょうか?」
雫は寝言のように安らいだ声を出した。
「ん、いいよぉ、リンちゃんが連れてってくれるならどこでもいい」
「お尋ねになられた割には――いえ、ありがとうございます」
頬が浮いてきても、抑えることはしなかった。
足早に、けれど腕の結び目が解けないように、日の当たる場所を歩いた。




