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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
三章 忍びには恋をさせろ

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第33話 脱いだ服に、雫が顔を埋めている

 落下してきた森の中で、リンは上衣を脱いで雫の肩にかけた。


「申し訳ありません、魔力というものは扱いに難しく、今はこれで精一杯です。どうかご勘弁を」


「だいじょぶ、ありがと。気を使ってくれて嬉しいよ」


 襟を握りしめた雫は、腕を畳んで、上衣を素肌へと押し付けた。布に口を隠して、擦り付けるようなこともしていた。

 木に背中を預けて、雫は黙り込んでしまった。目を瞑って、今度は鼻まで布にあてていた。


 応えているのだろうか、今回のことが。情けない、守ると誓っておきながら、この醜態とは。

 拳を握りしめる。ぴりっと割れそうな痛みが、肘に走った。


 雫はまだ顔を伏せていた。

 上半身はただ布一枚で、下半身はほとんど露出している。履物もなく、足は泥だらけ。傷ひとつない頬には、燃えカスのようなゴミがいくつも付着していた。


「……此度のことは、某の失態です。無能なだけではなく、かの者たちの協力を仰ぐことにまでなろうとは、全ては我が身の至らなさ故。どうぞ、未熟者のリンを罵ってください」


 雫は顔を上げた。暗さは見えず、いつものように微笑んでいた。


「えー、いいよ、いいよ、助けてくれたんだし。それとも、罵倒とかしてもらいたいタイプ?」


「は、いえ、そういうわけでは……ただ、そのような格好にさせてしまったことを、深く反省している次第でございまして」


 雫の目がリンの胸に向いた。

 じろじろと凝視するような視線。丸出しの鎖骨、白い布を巻いた胸、素肌の腹部。黙っていると、皮膚と臓物の間がかゆくなった。


「どうか、しましたか。あまり見られることに慣れていないので、ご容赦を」


「んふふ、自分だってさらし一枚なのに、リンちゃんって紳士だねぇ」


「か、からかわないでください、某はこれで十分なのです」


 勝手に唇がすぼんで、舌足らずな喋り方になった。

 目が斜め下を向いた。視界の縁で、雫の表情がどんどん明るくなっていった。


 人を辱めて喜んでいるなんて雫は……まあいいか、気落ちしないでいてくれるのなら。


「お二人ともこんなときでもイチャイチャユリユリですか、タフですねー」


 騎士――アリスが、すぐ側で肩に剣を乗せて立っていた。


「不服か。なら、いつかの続きをしてもいいぞ、勝負は預けたままだったな」


「しませんよー。リンさんボロボロですし、ワタシたちお仲間ですし」


「誰が仲間だ。一時的に共闘しただけだ、勘違いするなよ」


「わおっ、今度はツンデレでーす」


 歯をむき出しにして睨みつけた。ぎぃぎぃやっていると、アリスは雫に顔を向けた。


「驚きましたか、この姿。その節は、ご迷惑をおかけしましたね」


「ううん、なんとなくわかってた。あのときはムカついたけど、助けてくれたし貸し借りなしでいいよ」


「ありがとうございます。まひるもきっと喜びます――およ」


 アリスが雫とは正反対の、木々の合間を見つめた。

 越谷まひるが、白いフリルを草やら木やらにぶつけながら、こちらに向かって飛んできていた。


「あ、ありすぅ」


 胸の前で拳を抱いて、ふらふらと近づいてくる。

 越谷まひるはアリスにしがみついた。


「ど、どどど、どうしよう、へ、ヘリ墜落しちゃった、どうしよ、どうしよ、やばいですよね、あれ人乗ってたんですよね、ね、ねね、ねえ」


 唇が白い。視線が定まっていない。鯉のように口がぱくぱくしている。


「落ち着いてくださいまひる。深呼吸しましょ、吸って、吐いてー、吸って、吸って、吐いて、ひっひっふー」


「ひっひっ……じゃなくて、なくて、ヘリが、ヘリが」


 リンは50メートルほど離れたところにある残骸を見た。真っ二つになった機体の右半分。黒焦げで、今も煙が上り続けている。

 あれでは搭乗員などひとたまりもないだろうが、不思議と肉の焼ける匂いはしない。


「おい越谷まひる、いやブランシュだったか、そう狼狽えるな、貴様は手を汚したわけではない」


 リンの声に反応して、髪を乱しながら越谷まひるが振り向いた。


「ひっ……ぁ……え? ほんと……ですか?」


「ああ。そうだろう、アリス」


「イエス」と快活な声が響いた。


「操縦席のふたりは、機体を捨てて脱出したみたいです。他には誰も乗ってませんでしたよー。ですから安心してください、まひるは人を殺したわけじゃありませんよ」


 越谷まひるは肺の空気を全部放出したようなため息を吐いて、そのまま崩れ落ちた。


「ふぁあああああ……よかったぁ……」


 目には涙まで浮かんでいた。


 リンは言った。


「なんだこいつは。刺客のくせにおかしなやつだ」


 アリスが自分の後頭部を掻いた。


「まひるはパートタイマーですからねー、慣れてないんです」


「パ――ん」


 ウー、というサイレンが聞こえてきた。森林の外側に、ちらりと赤いパトランプが見えた。


「ちっ、回収班よりも早いか。雫、今すぐここから逃れます、掴まってください……雫?」


 雫の意識は、地面に座り込む越谷まひるに向いているようだった。

 ゆっくりと、雫は口を開けた。


「あ、越谷さんって本当にわたしを襲った魔法少女さんだったんだ」


 ぽすっと手を叩く音が、森に響き渡った。

 関心したというように、何度も雫は頷いていた。

いつも応援ありがとうございます。本当に本当に感謝してもしきれません。もし『面白い』『続きが気になる』と思っていただけたら、評価やブックマークなどでまた応援していただけると作者はシンプルに喜びます。とっても嬉しいです。


これにて三章は完結となります。次話で一旦幕間として雫ちゃん視点のエピソードを挟んで、四章に移行します。


リンちゃんと雫ちゃんの甘々で重々なラブコメはまだまだ続くので、どうぞ今後ともよろしくお願いします。

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