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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
三章 忍びには恋をさせろ

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第30話 大好きと言われると、任務のことなど忘れてしまいそうになる

 サンオイルのようにボディーソープを手のひらに伸ばして、雫の脇腹に触れた。

 指をすべらせて、小さな円を描く。泡が浮いてきたら、それを脇の下まで伸ばした。


「やぁ……くすぐったいよぉ」


 雫は内股になった。脇の深いところに触れるたびに、ぶると皮膚が震えた。


 リンの首筋に汗が浮いていた。細い息が、一定のリズムで口を出る。血液が頭に上って、目の前の柔肌がなにか遠くに見える。


「う、腕を上げてもらえると、助かります」


「はぁい……」


 毛の薄い脇から、二の腕、前腕へと泡を広げる。洗いながら肌を間近で観察するが、目当てのアザは見つからない。


 溜まった唾を飲み込む。腹の底に、重いものが沈んでいる。


「では、腹部と胸を洗わせていただきます」


 なぜ、こんなことをしているんだ。雫はただの一般人ではないか。敵ではなく、護衛対象なのに。


 掌底を腹に沈ませる。押し当て、回して、ぬめったものを広げていく。

 指が肉に食い込むたびに、雫はほんの少し身体を仰け反らせた。


「ぁ……親以外に洗ってもらうなんてはじめて……人の手ってこんなに柔らかいんだ……」


 くすぐったそうに、雫は喉を鳴らした。


 ヘソに指を入れると、びくんっと身体が跳ねた。


「ひゃっ」


「……失礼」


 泡を取り除いて中を覗いたが、変わった模様はなかった。

 目が回る。歯に力が入る。早く終わらせなければ、早く、早く。


 上向きに手のひらをすべらせると、膨らんだ胸部の下側に泡が集まった。


「ねえ……リンちゃん」


 手を広げて、慎重に胸の表面を触る。指を沈ませないように、揉んだりなどしないように、力を抜く。

 慎重に、慎重に泡を広げていく。丸々とした下側、なだらかな曲線の上側、少し張りのある側面、それら全体にゆっくりボディソープをなじませる。


 額から汗が垂れて、目に入った。ピリッとした痛みをこらえて、胸を凝視した。

 どこだ、どこにある、あってくれ。それで任務は果たされる、さもなければ――目が、下腹部に向いた。閉じた股を、泡が覆い隠していた。


「リンちゃん、リンちゃんってば」


 すぐに視線を胸に戻した。

 そっちはだめだ、それ以上はダメだ、下はダメだ、許されない、本当に腹を切るしかない。雫は、雫にそのようなことは、絶対にしてはならない。


 指先に力がこもって、乳の弾力に弾かれた。視界がチカチカと明滅している。呼吸が荒くなっているのがわかる。口の中が乾ききっている。


 言おう、一線を越えなくてはならないのなら、ちゃんと雫に伝えよう。

 そうしなければ、もう、隣にはいられない。


「もぅ、なんで無視ぃ。こーら、えいっ」


 なにか柔らかいものが、胸骨に触れた。胸の真ん中を、押された。

 凝り固まっていた肩から力が抜けて、反射的に顔が上がった。


「やっと気づいたぁ。ねぇ、なんでそんな怖い顔してるの、全然嬉しそうじゃないよ」


 雫は、泡の付いた顎を、ほんの少しだけ傾けた。目は半分閉じていて、眉は下を向いていた。


「ぁ……申し訳ありません、慣れぬもので緊張を……」


「違うよね。またなにか考えてたでしょ、任務のこと? それともこれが任務?」


 頭に溜まっていた血が、すっと降りていった。口を開いても、空気が入ってくるだけで、声にならなかった。

 脱力感に、襲われた。


 こうなって、しまったか。

 某は人としての出来が悪すぎる。


 自分のものではないような口から、機械的に声が出ていった。


「……お察しのとおりです、身体検査を目的としていました。弁明の言葉もありません」


「そっか」と雫は言った。


 乳にかけていた手が、力を失った。つるりと滑り落ちて――手首を掴まれた。

 両腕ともに強く握られて、胸の位置に戻された。


「し、雫……?」


 弾力に反発して、手のひらが乳に沈んだ。雫は力を入れて、わざと自分でそれを潰させるような真似をした。


 雫は、口元を緩めた。暗かった顔に、一筋の光が差し込んだ。


「なんだぁ、だったら最初から言ってね。見たいところがあるなら、どこだって見せてあげるよ。お胸? 口の中? それとも、違うところ? 身体の中は、ちょっと痛いからやだけど」


「な……なぜそのような、これはあなたへの裏切りです」


 白い歯が、見えた。


「一生側にいてくれるんでしょ? だったら、任務だって利用しちゃえばいいよ、板挟みになってるのわかるし」


 さらに、手を押し込まされる。指が皮膚に埋もれて、袋は破裂してしまいそうだった。


「リンちゃんが辛そうにしてるの、やだもん。だからね、ちゃんと言って、どんなえっちぃことだって相談に乗るから、うふふ」


「なぜ、某をかばってくれるのですか。あなたの善意を利用していたのも、同然なのに」


「えー、決まってるじゃん」


 雫は両手を大きく広げた。腕を回してきて、指先がリンの背中に触れた。

 ぴと、ぴと、と水の膜が潰れて皮膚と皮膚がくっついた。


「うっ……」


 胸から手が外れて、前のめりに倒れる。回された腕が、背中を覆ってしまう。ぐぐぐっと腕が狭まって、抱き寄せられる。胸と胸が、肌と肌がくっついた。

 やわらかいもの同士が触れ合って、潰れてひとつになった。ぽっかり突き出した先端が、石鹸でぬめる肌でこすれた。


「リンちゃんのことがだーいすきだから」


「は……」


 胸に溜まっていた重いものが、粉微塵に砕け散った。

 室温よりもやや高い体温が、全身に染み込んでくる。


「雫……雫は……某を許してくれるのですか……」


 耳元で、敵意のない声がささやいた。


「うん。その代わり、もうひとりで抱え込まないで、それだけ約束」


 喉が詰まる。鼻の奥が痺れる。声が、枯れている。


「はい……承知しました……」


 背中に腕を回して、痛くしない程度に力をいれた。


 ああ、最初からこうすればよかった。

 やはり某は、愚か者だ。



 身体を離してから、すぐに雫は言った。


「それで? どこが見たいの?」


「ぁ、え、あ、まずはその、乳の下の方をですね、ずっと見たくていろいろ試していたのですが、どうしてもそこだけちょっと厳しいところがあってその……よろしいか?」


「うん、いいよ」


 リンは重みのあるそれを、めくるように持ち上げた。覗き込むと、拍子抜けするほどあっさりとお目当てのものは見つかった。

 リンとは反対の、左胸の下にボールペンで打ったような、黒い丸があった。


 ほくろのようでいて、どこか違う。

 完全な黒。皮膚の質感はなく、傷や汚れは一切なく、光すらも通さない。見つめているだけで、奥の底の底まで吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚がした。


 雫は、リンの右胸を持ち上げて、言った。


「わー、ほんとだ、リンちゃんとおそろいだぁ、やったやった」


 風呂のタイルの上で、雫はぴょんっと飛び跳ねていた。

 形はまるで違うのに、場所が対になるのだという。


「運命共同体だね!」


「は、はい」


 頷いて、ひとまずヨシとした。



 それから雫に手を引かれて、露天風呂へと向かった。

 がらっとガラス戸を開けると、あたり一面が湯気に覆われていた。白いモヤが露天風呂全体に充満していて、なにも見えるものがなかった。


「それでねー、アリスったら――あれ……」


 急降下するように、雫の声が小さくなった。


「雫……? どうなされ……た……」


 突然、のぼせたように頭が熱っぽくなった。


 なんだ……なにかようすがおかしい……だがぁ……な……。


「いこぉ……」


 手を引かれて、されるがままに外へと出た。

 湯気が全身にまとわりついてきて、鼻や口、穴という穴から体内へと入り込んできた。

 

 味が変だ……硫黄ではない……ドクダミのような香り……これはもしや……魔法の……匂い……。


 のぼせる頭は、上空にローターの音を聞いた。ぼんやり顔を上げると、航空迷彩を施したヘリが浮遊しているのが見えた。


「は……てきしゅ……なぜ気づか……」


 繋いだ手から、力が抜けた。するりと抜けていって、雫は前のめりに倒れた。


「しじゅく……ど……」


 意識が白くなって、リンは膝を折って崩れ落ちた。

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