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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
三章 忍びには恋をさせろ

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第27話 なんでいつもドキドキさせるようなこと言うかな……リンちゃんのくせに

 カランカランと下駄が鳴る。合宿所の裏庭には、ジー、ジーと虫の音が聞こえていた。


 少し湿った手のひらに、触れている。指と指を絡めて、ぎゅっと握り合う。

 骨っぽくない、柔和な手。甲に指が吸い付いて、離れていこうとしなかった。


 ぽつんと浮かんだ月を見上げて、雫は小さな笑みを浮かべた。


「昔からね、嫌なことがあっても、目が覚めたら全部元に戻ってるんだ」


 その声は、いつもと変わらない調子だった。硬さはなくて、声色は常に明るい。


 夜空を見て、にこにこと雫は笑い続けている。


「さらわれたり、殺されたり、とか、ね」


 語尾を強調して、雫はリンに視線を移した。


「御冗談……ではないのでしょうね、雫の場合は」


「うん、もちろん。寝ている間はガヤガヤしてても、起きたらなんにもない。おはようって笑うお母さんに、なにかあったよね? って聞いても、なんにもなかったって言われる」


 繋いでいない方の手に、リンは力を込めた。そうか、故に母殿は平々凡々としておられたのか。


「本当に覚えてないっぽいんだよねえ、お父さんもお母さんも、他の人も」


「それからぁ」と艶っぽく雫は言う。


「自分も、わたしをさらった誰かのことを忘れちゃう。そんな人が本当にいたのかもわからなくて、朝起きたら、いつも通り」


 無垢な少女のように、雫は声を出して笑っている。頬は丸くなっていて、表情が変わることはない。


 喉の奥がつっかえた。重い息が、体内でとぐろを巻いている。

 リンは沈みかけていた顔を上げた。真っ直ぐに伸びる、暗い道。池や植木は整えられているが、足元はいくらか荒んでいた。


「そう、ですか。察してはいましたが、改めてお話を伺うと、にわかには信じがたいものですね」


 雫はにぃっと口元を歪めた。


「あれぇ、疑ってるのぉ? リンちゃんなら信じてくれると思ったから、話したんだけどなー」


「い、いえ、決してそのようなことは。むしろ疑うという方が、無理筋です」


 絡まった腕がやや圧迫される。雫の体重が、こちらに寄ってくる。


「うふ、ありがと。でね、ううん、でねじゃないか、雫ちゃんの過去は今話したことだけ。ずーっと繰り返しなんだから」


 道はさらに悪くなっていたが、雫が止まろうとしないので、そのまま進み続けた。


「そうなると、あの魔法少女たちは命拾いしたのかもしれませんね。さらなる強硬策に出ていたら、おそらく、忘れ去られていたことでしょう」


 あるいは、立場が違えば、自分も。


「そう、かもね」


 はじめて雫は笑顔を消した。リンから視線を外して、薄暗い道の先を見つめていた。


「お話してるうちはよかったけど、それで終わらなかったら、きっと、また忘れてた。あんな人達、わたしは知らなかった。クラスメイトがいなくなっても、気付きもしなかった」


 繋いだ手に、力が込められた。ぐぐっと、雫の指が皮膚に沈んだ。


 腹の中を、もやっとした不快感が支配した。奥歯がぎぃと鳴いた。


「その……申し訳ありません、配慮に欠きました。雫の苦しみを、理解するべきでした」


 雫は、眉を浮かせた。リンに向き直ると、また笑顔になった。


「いいよ、いいよ、別に苦しいとかないし。悪いのはリンちゃんじゃなくて、悪い人たちだもん、気にしないで」


「気にします。敵のことなどではなく、あなたのお心が心配です」


 思わず、足が止まった。胸に手を当てて、リンは雫に顔を寄せた。


 雫はまんまると目を見開いて、すぐに顔を逸らした。ぼそぼそと、つぶやくような声が聞こえてくる。


「じゃあさ……前にも言ったけど、リンちゃんはいなくならないでね。……いなくなるくらいなら、ちゃんと殺してね」


 正面に回って、雫の二の腕に両手を置いた。


「ぁ……」


「使命……いえ、恋人として、あなたを悲しませるようなことはしません。そのお身体に刃を向けるようなこともありません。その代わり、重責のほんの一部だけでも背負わせて頂ければと存じます」


 ぼそっと雫はつぶやいた。


「……なんでいつもドキドキさせるようなこと言うかな……リンちゃんのくせに……」


 鼻頭が赤くなっているように見えた。雫は目を伏せて、視線をきょろきょろとさせていた。


 胸の表面を撫でられているような心地になった。足の裏が、浮いているようだった。

 いじらしい雫を見つめていると、勝手に口は開いていった。


「雫のことを、誰よりも大切に思っているからです」


 また、雫はつぶやいた。


「んぅ……聞かないふりするじゃん……普通……」


 浴衣に覆われていない鎖骨が、赤々と色づいていた。


 強く強く手を握りしめて、深夜の散歩を続けた。言葉は少なく、足取りはゆっくりと。

 蒸した夜に、手のひらの熱をただ感じていた。

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