第23話 銃器に食いつく女子高生は、比率にして33パーセントと判明した
ビーチから徒歩1分、砂浜の目と鼻の先に目的地はあった。
忍の里の合宿所――表向きには旅館――を見上げて、アリスが声をあげた。
「ヤー、お見事な宿場です。リンさんのお知り合いには頭があがりませんね」
「下げさせるつもりはなかったのだがな」
ため息を吐いて、リンは受付へと向かった。
声を掛けるやいなや、受付にいた主人は頭を下げてきた。
何事かと尋ねると、主人は言った。
「実は、大浴場のメンテナンスにて、少々トラブルがありまして、本日は使用を中止させていただいております。明日には復旧する予定ですので、大変申し訳ありませんが、ご了承ください」
リンの眉間にシワが寄った。
「なに……温泉が目当てだったのだが……」
ちらと、背後で鷹の剥製などを見物している雫を見た。
胸の確認が目的だというのに、出鼻をくじかれた。まさか部屋風呂に二人で入るわけにも……致し方ない、明日に賭けよう。
「本当に明日には復旧するのですか?」
「はい、それは間違いありません。朝一番からご利用いただけるかと」
「わかりました」と言って、リンは部屋の鍵を受け取った。
なんとも間が悪い。雨こそ降らないが、明日は天気も芳しくない。気温も下がるというし……なにより、夕方までには発たなくてはならないので、時間的余裕もない。
ぐっと鍵を握りしめた。いきなりのトラブル、これ以上なにも起きなければいいのだが。
受付から離れて、雫たちに事情を説明した。越谷まひると雫は真っ当に残念がっていたが、アリスだけは「そーなのですねー」とそっけなく言って、ほっとしたように息を吐いていた。
観察していると、軽く赤面しながら、アリスは胸の前で手を振った。
「そんなに見つめないでください、なんですか、恋ですか? 吊り橋効果にはまだなにも起きていないです」
「いや、貴様にしては妙な反応をするなと思ったものでな。まあいい、それぐらいのほうがやりやすい」
リンは、雫に頭を下げた。
「申し訳ありません。このような事態は想定外でした、某の責任です」
「ううん、全然気にしてないよ。温泉だけが目的じゃないし、明日もあるしね」
リンは顔を上げた。
「そのようにおっしゃっていただけると、気が楽になります。――それでは、このあとはどうしましょうか。この施設の目玉、あらゆる状況に対応した修練場を見学なさいますか?」
リンは指折り数える。
「密林、湿地帯、砂漠、市街地など多様な環境はもちろん、様々な屋内環境にも対応しております。大きな声では言えませんが、世界各国のありとあらゆる銃器を、メジャーからマイナーどころまで余す所なく取り揃えています。もちろん、お望みであれば試射のご用意をさせていただきます、ぜひ申してください」
「へぇ」
「本来、一般開放厳禁とされている場所ではありますが、この度、特別に公開の許可が下りました。ぜひ、この機会にご体験を」
「うん、それはいいから、とりあえず荷物置こうよ。何階?」
そう言って、雫は手元の鍵を覗き込んできた。
「わぁ、上の方だ、やった、海見えるかなぁ」
「高いところはハイテンションマックスですねー!」
「ねー」などとアリスとはしゃぎながら、雫はエレベーターへと向かっていった。
リンは、しばし遠ざかる背中を眺めた。
越谷まひるだけが残って、赤カーペットの上に突っ立っていた。なぜか前のめりになって、聞いてくる。
「さっきの話、本当ですか?」
「ああ、風呂は使えんらしい。残念だったな」
「いえ、そうじゃなくて、あの……試射とかって」
「ああ……」
返事をして、一度見て、雫に視線を戻して、また越谷まひるを見た。
「……ん? 貴様、興味があるのか?」
越谷まひるは、薄笑いしながら、小さく開いた指を見せてきた。
「ちょこっと……ちょっとだけ、東欧のメーカーで見たいライフルが……なんて、冗談です、冗談、はは」
まじまじと、越谷まひるを見た。
この女、また媚を売ってきてるのか、あるいは、こちらの戦力を測ろうとしているのか。いずれにせよ、自己主張してくるなど珍しい。
「すまぬが、先程の話はこちらも冗談だ、聞き流してくれ」
「ですよねー、あはは、だと思った」
越谷まひるは、はぁ、と息を吐いて暗い顔になった。気が抜けたようにも見える。
そうしていると、エレベーターの前で雫が手を上げた。
「なにしてるのー? 来ちゃうよー」
「は、はーい、今行きます」
越谷まひるは、つんのめるようになって動き出した。早歩きで、足元がもつれかけて――
もつれた。
「わっ、わわ」
荷物の詰まったリュックを抱えているせいか、なかなか安定を取り戻せていなかった。
いよいよこけそうになったところで、リンは越谷まひるの手を取った。
「なにをしている」
さりげなく、手のひらの感触を確かめた。銃撃慣れのタコなどがあるかと疑ったが、そのようなことはなかった。魔法少女状態と、平常時はやはり別物か。
体勢を立て直した越谷まひるは、ぐっとリンの手を握りしめていた。眼鏡のずれも直さず、上目遣いで見つめてくる。
「あ、ありがとう……ございます。あ、あの、なんで」
「なぜもない。雫の友人が倒れかけていた、手を貸すのは当然だ」
越谷まひるはつぶやいた。
「あ……東山さんが中心なんですね、やっぱり」
「無論だ」
いつまでも手を離そうとせず、越谷まひるは視線を左右に揺らしていた。
「あの東山さんのこと……いえ、なんでもないです、早く行きましょう」
「ん、ああ」
勢いよく手を離した越谷まひるは、ショルダーストラップに手をかけて、小走りでエレベーターへと向かった。
首をひねりながら、リンは後を追った。




