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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
三章 忍びには恋をさせろ

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第21話 刺客退治しながら身体検査について考えていたら、温泉旅行に行くことになった

 朝の通学路で、リンは思案していた。


 紋様あるいはアザの確認、どうするものか。

 服を脱げ、とは言いづらい。雫殿は鋭いから、目的を勘ぐられるかもしれない。またプールや体育などの着替えを狙うというのも、下から覗き込むのはあまりにも不自然だ。


 腕を組んで首をかしげていると、隣を歩く雫が言った。


「ねね、後ろ、また変なの増えてるかも」


 リンは顔を上げた。


「またか越谷まひる、いや、ブランシュ」


「違うと思うよ? ていうか、越谷さんあそこにいるし」


 雫の言う通り、越谷まひるは視界の奥の方で、一人で歩いていた。5秒おきに振り向いてこちらを観察しているが、あれはいつもの挙動不審なので特別気にすることでもない。

 とするならば、変なの、とは新手のくせ者のことか。


 意識を集中させて気配を探ると、いつぞやのように複数の殺気を感じ取った。


「確認しました。少々お待ちを、わからせてきます」


「うん、先行ってるね。あ、またゲームしよ、学校に着くまでに終わらなかったらランチ奢りね」


「承知。ではもし某が勝ったら――」


 服を脱げと願ってみようか。裸体を見せてくれ、胸を観察させてくれ、これは賭けの報酬、彼女として性欲が爆発しただけで、任務とは無関係だ……その言い訳が通用するだろうか。


 なぜか喉が潤う。つばがぎゅるりと胃に落ちていく。下腹部が、ぞわぞわする。


「リンちゃん?」


 言うか、言ってしまうか、この機、逃すべきではないのかもしれない。

 脱げ、脱いでくれ、隅々まで見せてくれ――いや、あまりにも危険すぎる。代替手段を、考えよう。


「おーい、おいおーい、リンちゃん壊れちゃった」


 よし、利用するにはしよう、この状況を。


 自分に頷くと、雫が目の前で手を振っていた。かぐわしいシャンプーの匂いが、漂ってきていた。

 きらりと輝く襟の校章、乱れのない制服の着こなし、きめ細かな肌は造形のいい顔立ちをより輝かせている。


 裸体は刺激だが、こちらは魅力だ。脱がすのは、なんとも忍びない。が、任務だ。


「失礼。雫、もしこの賭けに勝ったら、次の休日、でえとしてくれませぬか、行きたいところがあるのです」


 こちらを見る雫の目が、ゆっくりと見開いていった。


「え、あ、うん、いいよ。そういうの賭けちゃうんだ……急げなくなっちゃう」


 きょろ、きょろと、雫の瞳は下を見たり、上を見たりしていた。

 ほんの少し、頬が緩んでいるようだった。


「では、参ります。2分以内に終わらせてみせましょう」


 手元にクナイを出現させ、リンは垂直に跳んだ。0.2秒ほどで、上空15メートル地点に達していた。


 四肢を大の字に広げ、敵を見定める。3人。まずは手短なところで、民家の屋根であんぱんをかじっていた都市迷彩の男にクナイを投げつけた。

 肩を穿たれた男は、屋根をずり落ちて、家の庭へと落下していった。


 次。歩道を歩くOL風の女。どこにでもいそうな雰囲気を出しているが、脇の下のふくらみはおそらく短機関銃だ。それに、ショルダーバッグにはカメラが仕込まれている。


 それにしてもどうするか、と空を駆けながらリンは思った。すぐ片は付く、けれども肝心のデートプランがない。プールでは学校と変わらぬし、そもそも着替えを伴う状況は限られる。


 ストっと、あえて音を出して女の背後に着地した。


「もし、そこの御方、よろしければ手荷物を拝見させていただけないか」


「あらぁ、お嬢さん急にどうした――ぎゃっ」


 女が懐から短機関銃を抜こうとしたので、ストックが見えた瞬間に首に蹴りを見舞った。

 白目をむいて、女は力なく崩れ落ちた。その身体を抱えて、街路樹の根本に立てかけた。


 ゆらゆらと、樹冠が影になって揺れていた。強烈な日差しと、薄い黒のコントラスト、眠る女の穏やかさは、ともすれば南国を思わせる。


 なるほど、海というのもありか。ヌーディストビーチ……雫殿は国外に同行してくれるだろうか。そもそも自分自身パスポートの偽造から始めなければならん、手間だな。

 しかし国内のビーチではプールと変わらない。目的を果たすには――いや、そうか、あるではないか、最適な場所が。


 立ち上がろうとすると、野太い男の声が聞こえてきた。


「見事。その技、只者ではないな、小娘」


 黒スーツの男が、歩道のまん真ん中を堂々と闊歩してきていた。片手には、白鞘の刀が握られている。


「むぅ……」


「相手にとって不足なし。刀の錆になってもらおう」


 男は刀を抜いて、鞘を投げ捨てた。カランっと乾いた音が鳴った。リンは、遠出して温泉に連れて行くべきか、近場の入浴施設にするべきか、ということを考えた。


 ムードというものもあるし、近隣のスパなどでは人の目も多い、なによりも――


「参る!」


 誠意を見せたほうが、きっと雫殿は喜んでくれる。


 男はぐっと腰を入れて、下段に刀を構えた。突進してくるのが目に見えたので、手裏剣を放った。しゅるると風を切って直進していったそれは、無防備なデコへと突き刺さった。


「ぁ……がは」


 5メートルほど先で、バタンッと男は倒れた。


「春、後始末は頼む」


『あいさー』


 妹の返事を聞き届けてから、リンは跳び上がった。



 空を蹴って、全速力で校門に向かった。内股気味に歩いてくる雫が見えたので、やや前方に着地した。


 目を合わせると、雫は笑顔になった。


「あ、リンちゃんお疲れさま。賭けは、わたしの負けだね」


 弾む頬を抑えているような、そんな顔をしていた。こころなしか、いつもよりも声が高い。


「どうするの? どこに、連れて行かれちゃうの」


「はい。熟考しましたところ、忍の里の合宿所にお連れしようということで、結論が出ました」


 雫は、何度か瞬きをした。口をすぼめて、一文字一文字を強調するように言った。


「がっしゅく、じょ?」


「はい。南房総です、温泉付きです。ご安心ください、フロント企業の運営する宿舎なので、表向きはリゾート施設です。一般開放もしておりますが、いつも閑散としているので、静かなものです」


 あそこならばちょうどいい。裸体を鑑賞しようとも、不自然にはならん。

 我ながら、名案だ。刺客の喧騒を離れて、二人っきりになるのも悪くない。


 雫と見つめ合うような形になった。向こうはまんざらでもなさそうな表情で、ふぅん、へぇ、と声を漏らしていた。リンも思わず、笑顔になっていた。


 水を差す声が、聞こえてくるまでは。


「ハーイおふたりさーん、そんなとこでなにしてるですかー? もしかしてチューですか?」


 突然現れたアリスが、スカートをばたつかせて駆け寄ってきた。


「おはよう。実はね――」と雫が切り出して、リンの頬を冷や汗が伝っていった。


 嫌な予感しか、しなかった。


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